『貴婦人の訪問』シアタークリエ千秋楽が、やってきてしまいました。

 

もっと長く、やっていたかったのですが。

 

始まったものは、必ず終わりの時がやってくるのですね。

 

 

この後も、地方公演が続くわけですが、ひとまずは。

 

東京公演に向けての、当ブログ

 

「『貴婦人の訪問』をもっと楽しく観る方法」

 

は、今回が最終回。

(…って、そんなタイトルがついてたんかぃ!!)

 

 

まぁ、地方公演に向けて、お話しは続けていこうかと思っていますけれど。

 

 

とりあえず、東京最終回は。

 

 

この男について、ちょっとお話しさせてください。

 

 

 

それは、このブログの管理者でもある・・・

 

ボディガード・トービー。

 

…僕の役です グラサンあせる

 

 

 

以前にもお話しした通り。

 

この役を作るにあたって、クリストファー・ノーラン監督のバットマン・シリーズ第2作目「ダークナイト」が、とても役に立ちました。

 

ここに登場する悪役 “ジョーカー” を分析し、

 

「悪事を行う人間に、本当の悪人はいない」

 

という、パラドックス的な解釈を発見したことが、トービーの役作りを大きく前進させました。

 

この役は、かつて、ジャック・ニコルソンも演じましたが。

 

僕が参考にしたのは、「ダークナイト」でヒース・レジャーが演じるもの。

 

ヒース・レジャーが演じているジョーカーの目的は、人間の根っこに巣食う「悪」を暴くこと。

「モラルの皮を剥ぎ取れば、人間は皆、本来的に “純粋悪” である」

ということを証明するためだけに、行動しているんです。

 

この目的は、ある意味、そのまんま、僕のトービーの役作りの軸になっています。

なぜ、そんなことを証明しようとしているのか、その動機は後述するとして…

 

ところが、この、ヒース・レジャー版ジョーカー。

 

よくよく見ていると、大きなパラドックスの中に身を置いているのです。

 

自身を「純粋悪」と位置づけ、「純粋悪」の存在を信じているのに。

それでもなお、他人の「純粋悪」を暴こうとする…

 

実はこれ、すっごく変で、矛盾している行動なんですよね。

 

だって、それほどまでに「純粋悪」を信じているのなら、別に、他人の「純粋悪」を暴く必要なんてないんじゃないでしょうか??

 

悟りの境地に至った人間なら、もうそれ以上、行動を起こさなくても良いはず。

 

しかし、このジョーカーは、行動をし続ける。

多くの人を巻き込んで、そのモラルの皮を剥ぎ取ろうとし、彼らの持つ「純粋悪」の存在を確認しようとし続けているんです。

 

…ということは。

 

これ、逆な見方をすると。

 

他人の「純粋悪」を確認し続けなければ、自身の「純粋悪」への信念が崩れてしまうのではないか?

「純粋悪」の存在を信じる信念は、意外にも脆く。

自分の心の奥底にある「善」の存在に、うすうす気付きながらも。

それを否定するために、「人間は、本来的に “悪” なのだ」ということを確認する旅をし続けているのではないだろうか??

 

人間が「純粋悪」でないとするならば、自分自身の心が壊れてしまうから・・・

 

 

…ここから想像するに。

 

ジョーカーは、過去に、人間の「悪」の側面の犠牲になり。

そのせいで、人間は「悪」なんだと思い込まされてしまった。

「悪」の被害者だからこそ、人間の「善」を認めたくない。。。

 

具体的に言えば、犯罪の犠牲者。

いわゆる、PTSDの状態。

 

例えば。

自分が過去に、愛すべき実の親からひどい暴力を受けた、とか。

あるいは、戦争で人を殺し、自分の心を「悪」に染めざるをえなかった、とか。

 

人間は「悪」の存在なのだと思わされた、あるいは、そう思い込まなければ乗り切ることができなかった、恐ろしい精神的なショック、ストレスを経験した場合。

 

その後も、人間は「悪」だと思い込み、自分自身も「悪」になり切ることで、過去の経験を正当化しようとする、ということは、有り得ると思うのです。

 

 

しかし。

当然ながら、本来的に人間が「悪」だということなど、ありません。

 

映画「ダークナイト」の中でも、ジョーカーは、最後にそれを思い知らされます。

 

 

 

さて。

 

『貴婦人の訪問』で僕が演じるボディガード・トービー。

 

彼もまた、ご主人クレアの命に従い。

 

人間が羽織る皮を剥ぎ、本質を暴く「旅」のお供をします。

 

そして彼は、ギュレンの町へと降り立ちます。

 

 

 

では。

 

彼には一体、どんなトラウマがあるのか?

 

彼には、どんな過去があるのでしょうか??

 

 

 

その過去を作るために、僕は。

実際にあった、二つの事件をモデルにしました。

 

 

その一つは。。。

 

 

『貴婦人の訪問』の稽古開始より、少し前くらいの事件だったでしょうか。

 

テレビで報道された、ある、殺人事件。

 

それは、酔って帰ってきた母親を、「だらしない!」と、殺してしまった、という女の事件でした。

 

…その事件の報道を見た時、

「そんなことだけで殺してしまうなんて、ひどい!!」というショックとともに、

「本当に、それだけの原因だけで、母親を殺すなんてことができるのだろうか…」という疑念が、僕の心に湧いたのでした。

 

母親を殺すなど、とてもじゃないけれど、想像もつかない行為。

 

それまでの生活の中で、よほど母親に酷い仕打ちをされていたのか?

そして、母親を殺した後、犯人は、一体どんな心境だったのだろうか?

「やってやった!」と、満足したのか?

それとも、我に返り、その恐ろしい自分の行為に恐怖の叫び声をあげたのか?

 

この事件については、この先のことはわかりません。

報道されなかったか、僕がその先を見逃していたか。

それはわかりませんが。

人間が、それほどまでにおぞましい行為をするということが、どうしても信じられなくて。

隠された原因や、その時の犯人の思いについて、いろいろと想像を巡らせてしまったのでした…。

 

 

 

 

そして、もう一つの事件。

 

 

半年前くらいに、知人から聞いた話。

実際に起きたある事件と、その裁判の話です。

 

…ある一人の女性が、父親を殺した罪で、逮捕されたそうです。

彼女の事件は、当時、世間に大きなショックを与え。

彼女は、父親を殺した恐ろしい悪魔だと、世間から嫌悪と恐怖の眼差しを向けられました。

 

しかし、その裁判で。

 

実は、彼女は父親に、幼い時から性的虐待を受けていたことが発覚。

殺人を犯すまでに、父親の子を、6人も産み落としていたという、壮絶な父娘関係が明らかになったそうです。

 

 

 

…この、二つの事件。

 

 

人間は。

「親殺し」という、この世で一番恐ろしい罪をも犯す可能性のある存在なのだという、事実。

 

しかし。

その悪魔の顔の裏側には、もしかしたら、見えない「被害者」の顔が存在するのかもしれない、ということ。。。

 

これは決して、「親殺し」の犯人を擁護しているわけではありません。

 

殺人など、どんな理由があろうと絶対に許されない、非道な行為です。

 

ただ、僕が言いたいのは。

 

恐ろしい犯罪や、戦争といった、人の道を外れた出来事の被害に遭った者は。

結果、その後の人生をも「悪」に染めてしまう可能性がある、ということ。

 

精神的ショックから逃れ、自らの過去を正当化し、自らの存在を正当化するために。

 

「純粋悪」を追い求める旅に出てしまう人間だって、いるかもしれないのです。

 

「ダークナイト」のジョーカーも。

 

 

きっと、トービーも。

 

 

犯罪の犠牲者が犯罪を生み。

 

 

処罰されようとしている中で、クレアに助けられたのだろう、と…

 

 

 

なぜなら、そのクレア本人こそ。

 

 

人間の悪しき行いが、その被害者の人生を捻じ曲げ、時に新たな犯罪者を生み出してしまうことを知っているから…

 

 

…ここまでお話ししたら。

 

なんとなく、トービーの過去も見えてきたのではないでしょうか??

 

心を殺され。

やがて、罪を犯した。

「悪」となった彼は、ある日。

理解者に助けられ。

そして、旅に出た。

人間が羽織る皮を剥ぎ取り、その本質を暴く旅に。

なぜなら、それを続けていないと、

自分の犯した罪に、心が殺されてしまうから。

「善」に気づいたら、

「悪」が崩壊してしまうから。

自分が、崩壊してしまうから。

 

 

これから地方公演も残っていますので。

 

 

トービーの具体的な過去は、まだしばらく、皆様のご想像にお任せしておきますね。

 

 

 

 

犯罪や、戦争の罪というのは。

 

その場だけに留まらず。

 

その被害者がまた、新たな被害者を生んでしまうのです。

 

 

「悪」の連鎖を止めるためにも。

 

平和と、感謝の心を。