前のお話→167.いってらっしゃい~彼はまさに龍 喉元に 誰にも解らない逆さに生えた鱗が有るんだわ
このお話は162-Ⅰ.外奎章閣図書~叫びだしたいほどの衝動を必死で抑え込み彼女の手を握る手に祈りを込めた に続くシン目線のお話です
俺を狙えばいいものを チェギョンをこんな目に… キタナすぎる
これは俺の内に秘めたチェギョンへの想いを知っている者の仕業…
まさかユルが関わっている?
そんなはずはない…ユルだってチェギョンの事を憎からず想っていることぐらい知ってる…
親玉が解っていたって 誰が手を下しているのかが解らなきゃ防ぎようが無い…
だが 間違いなくペク翊衛司(イギサ)は関わっている…
今日チェギョンがあのゴンドラに乗って作業をすると決めたのは一昨日の夕方の事…
短期間の動きだ 何か掴めるかもしれない
俺は長期戦を覚悟していたが 戦いが長く続けばきっと チェギョンの身が持たない…
だが ペク翊衛司(イギサ)はチェギョン達のA校舎では無く B校舎内で俺の警護に当たっていた事が解った
ペク翊衛司は決して単独行動させず 信用のおける三人の翊衛司(イギサ)カン・ワンス チン・グァンウン チェ・チュンボムを交代で同行させている
その翊衛司達はいずれも 俺が初等部から中等部に上がる頃から東宮殿勤務で 俺には必ず三人のうちのいずれかが同行してきた 間違いは無い…
病室に移り 血の気の弾いたチェギョンの冷たい手を 祈るような気持ちで握っていた
ピクリと身じろぎ 声にならない声で痛みを示すチェギョン
「チェギョン!…わかるか?病院だ」
「確か ゴンドラから…」
「ああ… 無事で良かった…」
無事が確認できて安堵する俺とは反対に 包帯とアイマスクで覆われた目が見えない事を不審に思ったらしいチェギョンは 口をへの字に曲げる
「ああ 切れたワイヤーが弾いて頬に当たり 目にも少し当たったらしい 網膜に傷は入ってないらしいが 俺も見たが 右の瞼が切れてた 大事を取ってしばらくアイマスクをしておけって 心配ない」
「それで…他に誰か怪我をしなかった?大丈夫?ゴンドラは落ちたの?」
こんな時なのに チェギョンは自分の事よりもまず他人の心配をする
「いや…傾いてお前が落ちた意外はだれも… 下に居た物にも怪我はない」
「そっか…良かった…」
何が良かったもんか! 俺は心臓が張り裂けんばかりに胸が痛くて 今も苦しいのに…
「不幸中の幸いだ 大腿部を骨折した意外は打撲とかすり傷だけだそうだ
脳波も異常ない………」
人の話を聞いてるのか?今取っちゃいけないと言ってるのに…
右手でアイマスクを取ろうとするチェギョンの手をそっと包んで咎める
「……ダメだ 医師が良いというまでは」
「…そうなの?」
「医師が言うには 大腿部の骨折は少し 長くかかるらしい…完治するか解らないと…
だが」
脚なら俺がいくらでも支えてやれる… だけど お前のその手の代わりには成れないからな…
「骨折したのが腕じゃ無くて良かったな…」
幼い頃から 俺のいや…人の心を動かす素晴らしい絵をたくさん描くその手が無事で 本当に良かった
「あ…フランス…」
なんだよ こんな時に そんなこと 気にするなよ…
お前が行かなくても 俺と大臣で話を付けてくるさ
「気にするな 俺一人で行くさ っていうか外務大臣も一緒だしな」
チェギョンの目が覆われているのを良い事に 今までに無いほど その顔をじっと見つめる
と言っても右目と右頬に切れたワイヤーが当たったらしく裂傷した部分もガーゼで覆われている
「お前こそ 一人で平気か?」
ふと 左の頬にあるホクロが目に留まる
あれ?俺も同じところにホクロがあるよな…?
唇も…切れてしまって… 痛いだろうに…
傷ついた愛しいその唇を見ていると キリキリと胸が軋む
「それは…仕方ないよ… 行かないでって言ったら 行くのやめてくれるの?」
見詰めていた唇が そう動いくので ドキリとした
なっ!?////可愛い事言ってくれるじゃないか…
「…悪かった」
だけどそれは無理だ 今回のフランス訪問は 大韓民国にとってそして皇室にとって 重要な意味を持っている
「確かに それは 無理 だな…」
チェギョンの傷ついた唇が さっきよりずっとへの字になって 泣くのを堪えてるのが解る
病室へ入る前にキム内官から聞いた チェギョンの家族が勢ぞろいしていると…
昼間 キム・スヒョン氏とイ・スジ夫妻も見えたそうだ…
皆に愛され可愛がられてきたシン・チェギョン…
俺の元へ嫁いだばかりに こんな目に合って…皆に心配をかけてしまった事を きっと本人でさえ心苦しく思っていることだろう…
俺が部屋に入ると 和んでいた空気が一変した事を肌で感じる
入口で軽い会釈をし 府院君(プウォングン/皇太子妃の父)に歩み寄る
涙ぐんでおられる府院君を 直視できない…
「私の目が行き届かなくて チェギョンさんをこんな目に合わせてしまい 申し訳ありません」
「殿下…そんな…」
正直な気持ちを打ち明けたまでの事なのに 慄く事ないだろうに…
「何言ってるの ただの事故だよ!」
チェギョンが俺の腕をとる
俺の顔を覗き込んでいる…
右目は覆われたままだが…左の目が確かに俺を見ている
あれ以来俺を見なかったチェギョンが今 俺を見詰めている
胸が…痛くなった ずっと謝りたかった
目が合ったら謝ろうと決めていた
「ごめん…ごめんなチェギョン…ごめん…」
なのに…涙を堪えることが精いっぱいで 碌な言葉が出て来ない…
「なあに?殿下どうしちゃったの?変だよ?」
はは…タイミング悪いな…
何を謝ってるのか全く伝わって無いじゃないか…くっ
「そうですよ殿下 気になさらないで!保険金もガッポリ入ってきますからネ!」
ふっ …この人は…府夫人である前に 未だ俺の乳母なんだな…
実家に帰してやることはできそうにないが 入院している間は 自由に家族に会えるから 俺がフランスへ行き留守の間に 少しは元気になるだろうと思っていたのに… チェギョンは まるで駄々を捏ねる子どもの様に 俺がフランスへ発つ二日前に退院した
夕食の後 部屋へ戻ろうとする彼女の介添えをしようとするチョン女官を手で遮るように合図して下がらせ そっと腕をとる
俺を見上げて ニコリと笑うチェギョン… ホッとして 思わず頬が緩む////
もう 目を合わせてくれるし 笑ってくれるからって 許して貰った気になるなよ?
お前のしたことは易々と許して貰えるようなことじゃ無いんだからな!
もうひとりの自分が横槍を入れる…ははは
彼女の部屋へ入り カウチに座らせ TVを付ける
週末のニュースで チェギョンがゴンドラから転落した件を取り上げていた
はたして事故か事件か!?という内容に チェギョンは眉を寄せる
「馬っ鹿みたい…ただの事故よ」
俺はカウチの肘掛に尻を乗せてTVを観ようとしてるのに チェギョンが俺の手からリモコンを奪い取り 電源を落とす
「放って置きましょう ね?」
チェギョンが現実を知りたくなくても 俺はそうは行かない 犯人を決して許しはしない
「あ~ やっぱり家(ウチ)が落ち着く あ~んな豪華な病院だって病院は病院なんだもの 色々面倒くさくって …ホッとするなぁ」
そう言いながら 例の犬のぬいぐるみを腕に抱くチェギョン
それは俺の母親である現皇后からの贈り物で… 俺との縁を感じるべきものなのに… お前はそれを知らずに それに実家の面影を感じているんだろう?
家が落ち着く… その言葉は何処まで本心なんだ?
本当は実家に帰りたかったんじゃないのか?こんなところ…もううんざりだろう?
彼女の率直な言葉だと思えば純粋に嬉しく思うところなのに 俺は素直に喜べもしない
「なあ…本当に 一人で平気なのか?」
俺は本気で心配しているのに 彼女が愉快そうに笑みを含んだまま俺を上目で睨む
「ねえ…それ もう聞き飽きたわ?
行くなって言っても 取りやめにできるわけでも無いくせに… もう明後日出発なのよ?
事故に遭って怪我した妻を捨て置いて海外旅行するのって そんなに気まずいのぉ?」
「なっ!?お前っ!」
俺はチェギョンの頭上に拳を翳す
「わぁっ!スト~ップ!もぉ~冗談ですってば!」
そんなんじゃない そんなんじゃないんだ…
こんな状態のお前をひとり残して行く海外公務なんか…楽しいわけがないだろう…
俺の拳を避けて カウチに仰向けに倒れたチェギョン
抱きしめたい衝動を必死で堪えて チェギョンの顔の両脇に手をついて 無言のままその瞳を見つめる
「わ…解ってるわよ 重要な意味を持つお仕事ですものね」
ペロッと舌を出して笑うが… わざと明るく振舞っていることぐらい 俺にだって解る
「病院なら家族と自由に過ごせたし 俺がフランスから戻るまで入院してれば良かっただろうに…」
チェギョンの腕をひいて身を起こしてやりながら言う
「う~ん… あたしの家族はもう宮家の皆さんになりつつあるって事なのかな…
オンマやアッパ チェジュンのノリが 意外とうっとおしくって」
それは…素直に喜んでも良いんだろうか…
俺は可愛いことを言う妻を強く抱き締めたい衝動を もう一度グッと抑え込んで なんとか そっと優しく抱き寄せ
「もう休め」と言った
昨日 父上の元を訪れた外務大臣と フランスでの協議に備えて最終確認をする俺の心は ピリピリと緊張を高めたが 東宮殿に帰ると チェギョンの笑顔が程よく心を和ませてくれた
俺が帰るまで入院していれば良かったのにと言ったくせに… 帰って来てくれていて 良かった… 純粋にそう思った はは…
「いってらっしゃい」
朝 出発を前に車寄せまで行くと言うチェギョンを押し留め パビリオンで向かい合う
東宮殿の洋館内では歩行器のお陰で難なく過ごせそうだ 朝の挨拶も当分免除して貰った
「無理をせず 早く治すんだ」
我儘は言えないと解っているから強がっていたが やっぱり不安なんだろう…
親鳥に置いて行かれる雛のようなチェギョンが俺の手を握るから 俺もそっと握り返す
「はい」
妙にしんみりするのが嫌ですぐにその場を離れたいような気持と…
「ああ…行ってくる」
ずっとこの手を握っていたい相反する気持ちで 胸が疼いた
「行ってくるよ…」
行ってきますのキスでもするべきか?
「なあに?どうしちゃったの?」
不審な目をしたチェギョンが俺を見上げる
って…反省したんじゃなかったのかよ?!俺は当分許して貰えないって!…馬鹿だろお前!
もう一人のひとりの自分が止めてくれて良かった…
「いや…別に…」
俺はチェギョンの髪をくしゃっとひと撫でして 名残惜しく握っていたチェギョンの指先を離した
読んで下さって ありがとうございます
くすっ こんなこと考えていたんだシンくん…(笑)
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の前に 明朝ギョンくんの “Love” make a detour 2~初めて飲んだビールも苦いだけで…