6.遠い遠い記憶~そこへ行けば彼に会えるの? | かおり流 もうひとつの「宮」

かおり流 もうひとつの「宮」

「チュ・ジフン&イ・ジュンギな毎日」のまほうの手・かおりが
こっそり書き溜めた「宮」の二次小説を今更公開(四十の誕生日2013/08/18にOPENしました)
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王冠1 かならず はじめまして  を お読みください 指輪
前のお話→5.遠い遠い記憶~それまでのは恋なんかじゃなかった  


婚礼の儀を終え パレードの馬車から 手を振りながら
心から笑える日が来るのか それだけが気がかりだった

義愛合で女官から 皇太子殿下と交互に 酒と食事を振舞われ
煌びやかな寝所には一組の床が敷かれ 私はいつも以上に強引な皇太子さまに
組み敷かれた
「ファヨン 約束する 君は最も幸せな皇后として歴史に残ることになる」

皇太子殿下の唇がそう紡ぐのを じっと見つめた
唇も 手も指も 強引ではあったけれど
沢山の優しい言葉を掛けられ 愛していると囁かれた

皇太子殿下の指が 私の最後の砦にたどり着いたとき
彼の顔がちらついたけれど 今さらどうすることもできなかった
涙が零れたけれど いったいそれが どんな涙なのか… 自分でも もう よくわからなかった



春が来て 夏が来て 秋が来て 雪が降る前に 大君殿下の婚礼の儀が執り行われた
儀式を終え 義弟夫妻が初めて東宮殿を訪れた日

「この度は おめでとうございます」
私が 彼と彼の新妻にむけて発した言葉は 文字で書けばちゃんとした祝辞だったけれど
新妻ミン妃の表情が硬くなるほど 寒々しい音色だった

「ヒョンオッパ…」
東宮殿を去る彼を追って 車寄せで公用車に乗り込む彼を呼び止めた
振り返った彼は 険しい顔をして首を横に振り 先に乗せた大君妃閔(ミン)氏の隣に乗り込んだ

もう 私を愛してはいないのね…
そうよね… 彼が愛したのは女優ソ・ファヨン
あなたの 想いも 期待も裏切って
女優の道を捨てて 皇太子妃になった私なんて 抜け殻同然だものね…

皇太子殿下は お忙しくても ほぼ毎晩
ご自身の寝所ではなく 妃宮の…私の寝所でお休みになられたわ
でも
雪が解けて春が来ても私の元には 親王も公主もやってこなかった

内医院からの漢方薬 鯉の生血に… 様々なものを吞まされ 食べさせられた
ついには入宮前に受けた検査以上の精密検査まで…

そんなとき 大君妃閔(ミン)氏が 懐妊… 長女を出産した
王立病院の産科で 産後間も無い義妹大君妃閔氏を見舞った

「この度は おめでとうございます」
私の紡ぐ言葉に もはや色など無かった もう何も感じない…

王立病院の産科で生まれた公主はすぐ隣の小児科病棟の保育器に居た
少し小さいだけで 健康そうにふにゃふにゃと蠢いていた

「イ・ヘミョン…」

プレートに書かれた生後五日の 彼と 義妹閔氏の娘の名を呟く…
自嘲気味に笑う自分の顔が ガラスに映るのが見えた

「ファヨン」

微かに聞こえたその声 私は耳を疑った
振り返ると 彼が私の手首を掴んでいた

「離して… 離しなさい!」

彼は手を離し 素早く周りを見回し
若いイギサが 離れたところから此方を見ているのを確認すると
「後程 茗禪堂(ミョンソンダン)へ 書物を探しに行きます」
とだけ言った

茗禪堂は 皇太子妃が受け継いできた建物で
古い書物の保管された書庫として使われている
といってもほとんど人の出入りなど無い場所だ…

茗禪堂 そこへ行けば彼に会えるの?
私の想いはそれだけだった

軋む階段をおそるおそる登り 薄暗い部屋に目を凝らすと
一冊の本がテーブルに出されていた

リルケの詩集『ドゥイノの悲歌』?
「ああ、たとえ私が叫ぼうとも、天使の序列の誰がそれを聞いてくれよう?」

私は冒頭部分を読み パラパラと先を捲る

「もはや求愛ではない
求愛ではなくとも それを超えて沸き起こる声
これこそお前の叫びの本性であれ…」

そのページに挟まれていた私宛の手紙… !?

「遠くで見守るしかない愛する人よ。
私のあなたへの愛は、魂の果てほど深く、魂の果てほど高い。
宝石より輝き、真珠より美しく、
真実と純粋な信義をたたえたあなたの唇が忘れられない。
私は去っていくあなたをただ見つめている。」

私の唇が彼に触れたのは あの一度きり…
あんなに簡単に私を手離した彼を 憎もうとしていたのに…
どうして今更…
求愛を超えて沸き起こる叫び…?


かおり流 もうひとつの「宮」
※今日もお読み頂き ありがとうございます。
 8/18(日)より 一週間 お送りしてきました かおり流 もうひとつの「宮」如何だったでしょうか…?
 土曜日を 定休日にと考えています。
 明日はお休みして 明後日8/25(日)に またお会いしましょう。

次のお話は→ 7.遠い遠い記憶~さよなら 私の愛した人…