銀魂 de V'day&W'day イベント記念小説 (沖田総悟篇) | じゃすとどぅーいっと!

じゃすとどぅーいっと!

ヨノナカニヒトノクルコソウレシケレトハイフモノノオマエデハナシ

特別な日だけの素直な気持ち



「三次元ではモテてようがなんだろうが・・・こっちの世界じゃイモ侍はモテないんでさァ。」


「チョコレート?姉上からは貰った事ありまさァ。別に欲しいと思った事はありやせんけどねィ。」


「とにかく、バレンタインなんて俺には関係のない日でさァ。」


「その手の話だったら、土方さんの方がいいんじゃないですかィ?」


そんな事を言っているのは、真選組一番隊隊長 沖田総悟。



亜麻色の髪、可愛い顔、綺麗な声。

その割りにしっかりとした身体つき。


どう見たって、女受けするはずの彼が何故こんなにモテないのか。


理由は知っての通り・・・


ドSだから。


要は、中身に問題があると言う事だ。


見た目に惹かれ寄ってきた女たちも、彼の異様なほどのドSっぷりに“恋心”などはすぐ冷めてしまうのだろう。


まぁ、そもそも総悟自体が女を欲しいと思っていないのかもしれないが。



総悟の好み・・・


ドMでどんな事でも従っちゃう女?


いや・・・違う気がする。


ドSな人ほど、自分の言う事を素直に聞き入れる女より、自分に反発する女が好きなものだ。


反抗するその顔にゾクゾクする・・・なんてのは、ドSの世界では定番。


だから、ドSな人にとってのドM女はただのオモチャでしかない。


そう考えると・・・総悟の好みは神g・・・


「何勝手に話し進めてるんでさァ。俺ァ、女になんざ興味ありやせんぜ。まぁ、雌豚を調教するのは好きですがねィ?」


どうやらこの名前は禁句のようだ。


だが・・・今年のバレンタインは特別な日になりそうな予感がする。






2月14日。

普段と何も変わらない・・・なんて事のない土曜日。


いつもと違うことと言えば、毎日見ているドラマの再放送がないことくらい。


「土曜日は番組がガラッと変わっちまうからつまんねぇんでさァ。」


そうぼやきながら、今日も公園で昼寝。


もちろん仕事中なのだが、当たり前のようにサボリである。


「ここは人気も少ないし、真選組の奴らにも知られてない穴場ですぜィ。」


この調子で、真選組一番隊隊長なんだから驚きだ。


剣の腕前は認めるが・・・


「大体、土曜日も仕事だなんてかったりぃんでさァ。近藤さんも今日ばっかりは嘆いてましたぜィ。バレンタインなのに・・・って。俺には関係ないですがねィ。」


そう言いながらも・・・総悟の頭には一人の少女の顔が浮かんでいた。


「何でアイツが出てくるんでィ・・・」


一人ブツブツとそんな事を言っていた総悟だったが、ポカポカした陽気のお蔭で、いつの間にか眠りについてしまった。



数時間後。

ふと何かを感じ、目が覚めた。


「ん・・・」


感じたのは人の気配。


(こんな辺鄙なところに人なんか来る訳ないでさァ・・・これは夢ですぜィ。)


再び眠りにつこうとした総悟が寝返りを打つと


(カサッ)


ベンチの上に何かが落ちる音がした。


「んん・・・」


起き上がり、アイマスクを外した総悟の目に映ったのは・・・


兎のイラストが描かれた包み紙に包まれた小さな物体。


手にとってみると、何やら奇妙な触り心地だった。


「何でィ、これは・・・」


中身を確認するために顔に近づけると、甘い匂いが漂ってきた。


「チョコ・・・レート?粉々じゃねぇですかィ。一体誰が・・・」


そう言いかけて、包み紙に描かれた兎に目がいく。


「まさか・・・」


再び総悟の頭に浮かぶ少女の顔。


「いや・・・アイツがこんなことする訳ないですぜィ。」


だが・・・

兎と言えば・・・夜兎族である彼女のシンボルマーク。


それに・・・

いくら小さいとは言え、ここまでチョコレートを粉々に出来る奴なんてそういない。


「じゃあ、やっぱり・・・」


チョコレートを懐にしまい立ち上がった。




その日の夕方。

総悟はとある公園に来ていた。


探し人がこの時間、この公園に来ると聞いて。


公園を覗くと、大きな白い犬が走り回っている。

そして、その探し人がいる事を確信した。


どこにいるのかと辺りを見回すと・・・


「いた・・・」


見つめる先には、ベンチに腰掛ける少女の姿があった。


正面から面と向かっていくのが何だか気まずくて・・・

ワザワザ公園を半周し、少女の後ろに回る。


「オイ。」


振り向いたのは・・・神楽だ。


「お前・・・!」


「何の真似でィ、チャイナ。」


平常心を装いそう告げた。


「な、何のことアルか?」


「コレ・・・お前だろ?」


懐から、さっきのチョコを取り出す。

「何言ってるアル!そ、そんなの知らないネ!」


明らかに動揺している神楽。


(やっぱり・・・)


S心が疼きだし・・・

ニヤリと微笑み、問う。


「顔に書いてあるぜィ?」


その言葉に、神楽は慌てて顔を隠す。


「・・・嘘つくのが下手な女でさァ。」


「っ・・・!」


「まぁ、それがいいところなんだけどねィ・・・」


言っててハッとした。


(何言ってるんでィ、俺ァ・・・)


だが、どうやら神楽には聞こえていなかったようでホッと一安心。


「か、勘違いすんなよ!義理だからな、それ!義理だからな!」


「そうかィ。」


必死にそう言う神楽が、何だか可愛く思えた。


「・・・・・・」


「・・・・・・」


少しの沈黙の後、口を開いたのは神楽だった。


「・・・何で」


「あぁ?」


「何で私だって思ったアルか?」


何て答えようか。

まさか自分の願望でもあった・・・なんて言えるはずがない。


「チョコレートをここまで粉々にするのなんて、お前ぐらいしか出来ねぇぜィ。」


「失礼アル!そんな小さいチョコレートなら、誰でも粉々に出来るネ!」


「いや、無理だろィ。」そう突っ込もうと思ったが、あえて実際思った事を口にしてみた。


「それに・・・」


「何アル?」


「兎の絵を見たら最初に思いついたのがアンタだったんでさァ。」


「!」


顔を赤くする神楽。

すごく愛しい。


「う、兎は夜兎の印ね!私の印じゃ・・・」


「俺にとっちゃ、アンタの印なんでィ。」


ただ、自分の感情の赴くまま・・・溢れ出す言葉たち。


「なっ・・・!」


「色が白くて、小さくて・・・寂しがりなところもそっくりでさァ・・・」


今まで思っていた事を素直に言葉にしてみる。


「お前・・・」


そこでハッと我に返った。


(どうしちまったんでィ・・・この俺がガラにもなくこんな・・・)


神楽の目はまっすぐに総悟を捉えていた。


「なんて言うと思ったかコノヤロー。」


「・・・え。」


今更・・・と思ったが、無理やり誤魔化してみる。


さっきまでのいい雰囲気は一瞬で消え去り、驚く神楽の表情が目に映る。


「まぁ、チョコは貰っといてやりまさァ。お返しはしねぇが。・・・ほら、ガキはさっさと帰んな。」


精一杯、平常心を装い・・・そう言い放つ。


「う、うるさいネ!お前もガキだろ!帰ってゴリラの乳でも吸ってな!いくよ、定春!」


「わんっ!」


捨て台詞を吐いた神楽は、足早に公園を出て行くのだった。



その夜・・・


「総悟ォ!どうだ?今年はチョコもらえたか?」


楽しげに聞いてきたのは、真選組局長 近藤勲。


「近藤さん・・・」


「どうした、総悟。お前がボーっとするなんて珍しいじゃねぇか。」


「いや、何でもありやせんぜィ。それより・・・近藤さんはどうだったんですかィ?」


「俺?俺はなァ・・・」


「局長ォォォォォ!」


近藤の言葉を遮り、大声で廊下の向こうから走ってきたのは、真選組監察 山崎退。


「どうした、山崎。」


「松平のとっつぁんが呼んでます!後5秒で来ないと切腹だって!」


「何ィ!?山崎、それ聞いたのいつだ!?」


「30秒くらい前です!」


「ちょ・・・ええええええええええええええええええ!?」


「とにかく、早く行って下さい!」


「お、おう!総悟、すまん!この話は後でゆっくり聞かせてやる!」


そう言って走り去ろうとする近藤に、総悟は声をかける。


「近藤さん。」


「あぁ?何だ?」


「どうぞ、ご無事で。」


青ざめる近藤を尻目に、自室に向かう。



明かりも付けず、一人部屋でぼんやりとしていると・・・

甘い香りがしてきた。


懐に手を入れ、その香りの元を取り出す。


神楽からもらったチョコレート。


粉々で、もう原型を留めていないそのチョコの包みを開ける。


しばらく見つめていたが・・・やがて、その砕けたチョコを一つまみ取り口に運ぶ。


「甘い・・・」


別に甘いものが好きな訳ではないのだが・・・そのチョコレートはすごく美味しかった。


と言うより、美味しく感じた。


「お返し・・・何にしようかねィ・・・」



今日は特別な日。

サド王子だって、素直になる日があってもいいよね。



                                     ~完~