ギタ女 | 私、BABYMETALの味方です。

私、BABYMETALの味方です。

アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

白ミサ大阪初日、お疲れ様でした。レビューは明日2日目が終わってからと思っています。

今日のお題は、ギター女子。

ロッキンジャパンで、BABYMETALの三人は、同じ事務所の藤原さくらのステージ(ヒルサイドステージ15:10~)を見たそうだ。

藤原さくら自身がツイートしている。三人に裏であいさつしたときには緊張したそうだ。年はSU-より上(1995年12月30日生)なのにね。

藤原さくらはいいよ。マーチンのエレガットギターを持ち、小編成のジャズっぽいバンドを従えて弾き語る歌はほぼオリジナルで、英語も時々入る。ピッチはいいし、低音から高音まで、きれいに出る。

ポール・マッカートニー好きな父親の影響で、高校時代に福岡のボーカルスクールVOATに入り、オリジナル曲を作り始め、3枚のミニアルバムをリリース。3年生の時に1stアルバム「full bloom」を発表。2014年5月11日、東京と福岡で購入者限定の無料ワンマンライブ「bloom & green」を開催。これはBABYMETALが初のワールドツアーに出る直前、「BABYMETAL」がビルボード200の187位に入ったと大騒ぎしていたころだ。2015年3月18日には「a la carte」でメジャーデビュー。2016年4月期のフジTV系のドラマ「ラヴソング」で、女優としてもデビュー、福山雅治と共演し、福山が作詞作曲した主題歌「Soup」は2016年6月8日にリリースされ、オリコン4位になった。

「ラヴソング」には、新山詩織も出演していた。新山詩織もBeing所属のシンガーソングライター。埼玉県出身の1996年2月10日生まれだから、やはりSU-よりはお姉さんだ。ブルース、パンク、ロック好きの父親の影響で、中学入学と同時に軽音部に入りガールズバンドを結成。中学卒業直前に作ったオリジナル曲「だからさ」で初の路上ライブを行う。高校入学後も本格的に創作活動を行い、新宿、大宮、池袋、渋谷などでストリートライブ修行の毎日。2012年、高校2年生の春にBeingのオーディションを受けて合格。「音楽が天職の人」と評価される。2012年12月12日に「だからさacoustic version」でインディーズデビュー、2013年4月17日に「ゆれるユレル」でメジャーデビュー。以後、主にフェンダーのアコギを用いて、“現役女子高生シンガーソングライター”としてライブ活動を続け、2016年には前記「ラヴソング」で女優デビューし、劇中歌「恋の中」にカップリングされた「あたしはあたしのままで」リリース。ロッキンジャパンでは、8月7日ヒルサイドステージ17:30~(トリ)を務めた。

このように、SU-の年齢に近い女の子が、主にアコギを弾き語る“ギター女子”としてここ数年脚光を浴びている。

SU-が憧れたYUI(1987年生まれ、もちろんMETALじゃない方)や、MCZと共演し「行くぜっ!怪盗少女」や「サラバ愛しき悲しみたちよ」をガンガン弾いていたMIWA(1987年生まれ)の世代が先鞭をつけ、大森靖子(1990年生まれ、もうママになっちゃったけど)、家入レオ(1994年生まれ)、大原櫻子(1996年生まれ)、山崎あおい(1993年生まれ)、片平里菜(1992年生まれ、エピフォンの公認アーティスト)、井上苑子(1999年生まれ)、Rei(1993年生まれ)、Saku(1993年生まれ、「ビリギャル」主題歌の渋谷タワレコ店員)、Suzu(1994年生まれ)、Anly(1997年生まれ)、Chay(1990年生まれ、「テラスハウス」出演)、吉澤嘉代子(1990年生まれ)など、挙げ出したらきりがない。抜けてる人ごめんなさい。

PVを見て、気になった人だけ何人か紹介すると、Reiはアコギであのアルビノの白人ブルースギタリスト、ジョニー・ウインターをカバーするなと、テクニック的にはピカイチ。椎名林檎のバンドにいた長岡亮介(浮浪雲)がプロデュースしている。

Anlyは、沖縄の伊江島出身でパンクコアっぽいバンドを従えたボーカル兼ギタリスト。沖縄バンドの伝統で、演奏はガレージっぽい感じでかっこいいけど、歌詞が素直すぎるかなという感じ。

一番若いのは、井上苑子で、YUI、MOAと同じ現役女子高生。小学生からオリジナル曲を創作し、ストリートライブを行っていたという。PVを見たがそのへんの半素人アイドルよりビジュアルは上だし、楽曲もアイドルっぽい、恋に恋する心を描いた曲だけど、半素人用にプロが作ったものより、よほどよくできている。ロッキンジャパンでは、BABYMETALと同日、ヒルサイドステージで10:30だった。

Chayと吉澤嘉代子は、意図的に昭和歌謡曲の匂いをさせている。椎名林檎や大森靖子ほど腐女子の完成度は高くないが、それでも、ぼくなどには到底理解できない女性のいやらしさ、あざとさを意識的に前面に出している。ハマる人はハマるだろう。吉澤嘉代子も、ロッキンジャパン(ヒルサイドステージ8月7日12:50~)に出ていた。「せっかくのロッキンジャパンなのに、ムダ毛の処理をしてくるのを忘れましたー」と言って、お下品な「ケケケ」という歌を歌う。これはこれでロックだ。

あとは、好みの問題。

ぼくはHR少年だったから、いくら上手でも、アコースティックギターの弾き語りで、愛だ、地球だ、青春の応援歌だとか、逆に暗ーく、情念を切々と歌うみたいなのはどうしても受け付けない。

エレキでも、テクニカルでないパンク、グランジっぽいのはそれほど好きになれないので、女性シンガーソングライターといえども、Saku、Anlyには少しだけ注文がある。

デビュー時のCharや、グランジの雄、ニルヴァーナのカート・コバーン(レフティ)の愛器だったフェンダー・ムスタングを弾きながら歌うSakuは、タワレコ渋谷店の店員をしながら、シンガーソングライターとして曲を書き溜め、「ビリギャル」の主題歌となった「Start Me Up」でブレークした。信じられる男性に出会い、恋をして自信をつけ、強くなっていく女の子のマニュフェストソング。ハスキーボイスときれいな英語の発音。サビのどこまでも上がっていくメロディに、今、ここから人生を始めようとする女の子の決意性が感じられ、心が動く。だが、ぼくだけの感覚かもしれないが、後半の「何度でもやり直そう…」以降、「あれれ、ちょっと応援歌っぽいぞ」と思わせ、やや醒める。歌声や表現力はピュアな感じがするのだが、実は、レコード店勤務なだけに、音楽的素養がぴょこっと顔を出す瞬間があり、上手すぎて「これ、本当かな?」と疑ってしまうのだ。難しいね。

Anlyの愛器は、ピンクのフェンダー・テレキャスター。テレビもインターネットもなかった沖縄・伊江島出身。ロック好きの父親が買ってくるクラプトンやZZトップを聴き、ギターをおもちゃにして育ったという。中学時代から作詞・作曲をはじめ、那覇の高校時代、MIWAに見出され、上京。デビュー曲「太陽に笑え」のガレージっぽさを演出したPVはカッコイイ。だが、カッコ良すぎて、歌詞から作るという曲の、言葉のチョイスの甘さが目立ってしまう。セカンドシングルのアコギを弾いて歌う「笑顔」は、素直な中学生みたいな歌。おそらく彼女の本質はここにあるのだろう。それなのに「太陽に笑え」やサードシングルの「Emmergency」では、よくある不良っぽいフレーズを使い、黒っぽい感じに仕上げている。なんか不自然なのだ。

ロックは、なんじゃこりゃ、と思うような奇抜な言葉使いやファッションだけど、歌っているフロントマンにとってはそういう風に世界が見えるわけで、その生き方があまりにピュアで真っすぐなので、聴くものの価値観を変える、という構造を持つ音楽だ。BABYMETALだってそういう風に作られている。それがAnlyでは逆になっている。等身大のAnlyは、純朴な子なのに、わざと都会のワルっぽくふるまっている。このままでは、嘘くさいし、もったいない。

お下品でロックな吉澤嘉代子は、実はものすごくピュアに、あの歌詞と音楽世界を追求している。だからぜひ一度ライブで見てみたくなる。

ジャズっぽいテイストの入った藤原さくらや、自然にアイドルっぽくなってしまう井上苑子も、それぞれ等身大の個性を全開しているから、今後が気になる。

ちょっと深入りしすぎたかな。

なぜギタ女をとりあげたかというと、理由は二つある。

ひとつは、空前といっていいほど、今の日本には、若くて、容姿と才能を併せ持った大勢の女性アーティストがそろっているのに、なぜ、いまだに「半素人」のアイドルグループに夢中になれるのか、ということ。A-KIBA系のグループは、特に最近、水着になってグラビアを飾ることが多くなったように思う。季節もあるのだろうが、5月以降車内吊りでよく見かける。ちょっと前までイノセントな魅力を訴求していたはずのメンバーまで、「大人になっちゃった○○」「意外!ダイナマイトな水着姿」になっている。バラエティ番組で素人っぽい天然さを売るだけでは人気を維持できないので、疑似恋愛モードを強調しているのだろう。プロデュースサイドも、それを歓迎するファンも、その心理の根底にあるのは、女は何もできず、イノセントなのに、意外にナイスバディなのが一番という、しょーもない女性観である。同じ年齢、同レベルのビジュアルなのに、才能のあるアーティストを毛嫌いし、天然アイドルを好むというのは、どう考えてもその男性ファン自身が、自分に自信がなく、たいしたことない自分にも従順に従う=自分よりバカなのが理想の女だと思っているからだろう。

でもね、言っておくが、そんな女性はいないよ。セックスの時は役割分担があるけど、一人の女性は、どんなに勉強ができなくても、家族や歩んできた人生の背景と、感情とプライドをもった一人の人間なんだよ。付き合ったり結婚したりするってことは、全く別のバックボーンをもって生きてきた人間同士が、お互いを相方として尊重しつつ、譲り合いながら毎日共同生活をするということだよ。バツ2のぼくが言うんだから間違いない。そんなことも考えず、天然かつダイナマイトボディなアイドルを理想化しているファンは、本当にキモオタといわれてもしかたないと思う。

初期のAKBやMCZのように「たとえメンバーが不祥事を起こしても、彼女の成長を親のように見守る」というオトナのファン心理からの、明らかな後退だ。これこそ世も末ではないか。

もう一つの問題は、もっと深刻だ。

藤原さくらの生ステージを見てしまったBABYMETAL、特に、ギターの弾ける菊地最愛のことだ。

絶対好きになってしまったと思う。下手をするとYUI(METALじゃない方)に憧れていたSU-もファンになってしまったかもしれない。

藤原さくらは、冒頭に紹介したように、この年でかなりの場数をふんできたライブ・アーティストだ。歌のピッチが狂うことはほとんどないし、独りライブでも、MCもそつなくこなして、場を持たせてしまう。そしてオリジナル楽曲の歌詞には、同世代の女子の共感を呼ぶ、ある種の深さがある。

BABYMETALはアイドルとメタルの融合であって、世界中に受け入れられている。だが、それはメタルという汗臭い音楽にKawaiiアイドル要素がミックスされたことが革命的な事件だからだ。アイドル三人の渾身のパフォーマンスのクオリティが、メタル界、ポピュラーミュージックの世界で抜きんでているからだ。だが、この音楽が、当の三人の心に心底根差しているかというと、どうだろう。

中元すず香は、ことあるごとに「BABYMETALの音楽」を、お客さんに届け、それが受け入れられることがうれしい、と言ってきた。

生真面目な菊地最愛も同じように発言し、お客さんを喜ばせる仕事として、全力でMOAMETALを演じてきた。だが、彼女の本音は、どうか。

2012年、中元すず香、水野由結とともに1週間出演したテレビ神奈川の番組「saku saku」で、菊地最愛はいま欲しいものとして「ソロ」を挙げた。もっとソロで歌いたいというのだ。2014年度、菊地は生徒会長としてさくら学院の“センター”で歌った。その声質は、前にぼくが書いたようにSU-以上によく通る「シグネチャーボイス」であった。卒業間際には、「BABYMETALのMOAMETALとして世界中を回って、さくら学院をひろめて、いつか“菊地最愛”として帰って来たい」(タワレコでのアイドル三十六房インタビュー)と言明もした。

今回、菊地最愛は、藤原さくらの生ステージを見て、自分の心情や考えをギターに託して歌うアーティストの「お手本」が現れた、と思ってしまったのではないか。

それほど、現時点での藤原さくらはかっこいい。

だがしかし、菊地最愛さん。

BABYMETALはもっとかっこいいのだよ。

確かにメタルには、ギミックや、ちょっとギャグっぽいところがある。メタル・レジェンドの方々でも、大の大人が、なんておバカなキャラを演じているんだ、と思うこともあると思う。それよりも等身大の自分を表現した藤原さくらのような弾き語りの方がシリアスで、自分にあっているように見えるかもしれない。

でもね。「The One」の世界がひとつになる壮大な感情や「Road of Resistance」の決意性は、大音量、歪んだギターのリフや重低音のベース、たたきつけるようなドラムの疾走感でしか表現できないでしょう?

「ヘドバンギャー!!」のメタル少女が自立していく瞬間も、「ヘドバンへドバン、バンバンババン」のYUIとMOAのあのダンスなくしては表現できないし、「イジメ、ダメ、ゼッタイ」の駆けっこや飛び蹴りも、いじめの舞台表現として世界中に高く評価されている。

ロブハルと共演した「Breaking the Law」も、本当はどん底の人間の切ない歌詞なのだが、最愛さんが弾いたかっこいいリフが命を与えている。

へヴィメタルとは、どん底の状況にいる人を立ち上がらせ、空気をパンパンに入れる音楽だ。いうなれば、人を生まれ変わらせる力を持つ音楽なのだ。

少なくとも、今夜食べ物がないなんてことはない日本の女子高校生が、心の揺れを等身大に表現するよりも、ぼくは価値があると思う。幼くして、ファンの心を動かす仕事としてメタルという音楽をちゃんと学んできた菊地さんなら、ぼくの言うことがわかると思うのだよ。

どうしても、ギターを弾いて歌いたければ、オリジナルソングを作って、BABYMETALの1曲として、ライブで披露してほしい。アコギでもいい。HR、プログレでは、アコギもレパートリーに入っていることが多い。レッドツェッペリンの「天国への階段」とか、イエスの「Round About」とかね。キッスだって、「Hard Luck Woman」はアコギだ。だから、菊地最愛として、独立してアコースティックアーティストを目指すのではなく、BABYMETALの表現のひとつとして作曲してほしい。きっと名曲になるよ。

もうひとつだけいうと、ぼくは、「手作り」であることだけでは、何の価値もないと思っている。「手作り」であろうが、多くの人の手がかかった「商品」であろうが、大切なのは音楽そのものだ。人の心を動かす楽曲であるかどうかだけが、消費者としてお金を出すかどうかの判断基準だ。ほとんどの場合、荒削りな「手作り」よりも、いろんなプロが知恵と力を結集して作り上げた「商品」の方が優れていることが多い、とも思う。

どうか、藤原さくらを単純に「お手本」とするのではなく、BABYMETALの一員としてどう表現の幅を広げるかという観点で、ギターの弾き語りに挑戦してほしい。

ホント、お願いします。

ちなみに、渡米して修行中で、先日アミューズとの契約を解除された元可憐ガールズ、さくら学院初代生徒会長の武藤彩未が、日本の芸能界に復帰するとしたら、ギタ女の枠しかないとぼくは思う。卒業後しばらく、ソロ歌手として80年代ポップスプロジェクトをやっていた経歴からすると、Chayや吉澤嘉代子風になるのかもしれないけど、かつての太田裕美風というのも似合う気がする。顔笑れ!