フロンティアスピリット | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

BABYMETALは、過酷なバスツアーを続けている。現地時間5月8日、ぼくが見たCarolina Rebellionのあと、5月10日ワシントンDCのシルバースプリングへいったん戻り、11日からは、デトロイト(ミシガン州)、13日シカゴ(イリノイ州)、14日ミネアポリス近郊サマーセット(ウィスコンシン州)のNorthern Invasion フェスまで、その侵攻を中西部へと進めていく。

アメリカ国内で知名度が上がるにつれ、ヘイター(Hater)、つまりオーソドックスなメタルに固執するあまり、BABYMETALを「まがい物」「作られたJポップバンド」「幼児性愛者の音楽」などと言って攻撃する連中の過剰反応が出てきた。

いわく、「俺は成長した男で、これには泣きたくなる。BABYMETALはメタルというものにとって恥さらしでいらいらする。あいつらの(いわゆる)音楽は、俺を、殺したい気分にさせるんだ。」

「奴らはメタルに対する冒とくであり、すべてのファンに対する侮辱だ」

この2つは、真正メタラーは、BABYMETALをメタルだと認めない、という宣言に近い。

「子どもの付き添い以外でBABYMETALのライブに行く大人は、いかなる理由があろうと、全国的な監視データベースに入れられる必要がある」

これは、BABYMETALファンが暗にペドフィリアだと言っているのだ。

イギリスではもう2年前の2014年に起こったことだから、全然驚かない。典型的なヘイター反応だ。当時のイギリスでは、Metal Hammer誌などで、メタル評論家たちがBABYMETALの音楽を分析し、メタル界の重鎮たちがソニスフィアや02アカデミーブリクストンでのパフォーマンスを実際に見たことによって、BABYMETAL擁護の言説が確立された。神バンドのテクニック、ファーストアルバムの多様な楽曲にメタル史の断片がオマージュされていること、そしてSU-の天性の歌声、YUIとMOAの卓越したダンスをメタルに融合したユニークさなどを総合的に見て、BABYMETALが、オーソドックスなメタルではないが、メタル界の救世主になる存在であること、「論議を呼ぶこと自体、本物の革新者である証拠だ」といった論調が生まれたのだった。

ところが、アメリカでは、ヘイターに対してBABYMETALを擁護したのは、なんとCarolina Rebellionにも出ていたメタルのアイコンのひとり、Rob Zombieその人だった。

Robは現地時間5月9日、「あいつらの(いわゆる)音楽は、俺を、殺したい気分にさせるんだ。」とフェイスブックに書いたヘイターに対して、「おい、彼女たちはツアーをがんばっているナイスな子たちだぜ。あんたは気難しい老人であること以外に何をやってるんだ?」とコメント。

これに対して、別のヘイターが「俺をからかっているのか?BABYMETALはメタルじゃなくてJポップだ。」と書くと、Robはさらに、「この3人の女の子は、俺たちのように演奏するバンド(つまり、メタルバンド)の90%よりエネルギーを持ってるぞ」とBABYMETALを完全擁護。Rob Zombieファンらしき、また別のヘイターが「あいつらは最低だろ。萎えるぜ。ロブ、俺はあんたを愛してるけど、恥さらしだ」と書くと、Robは「彼女たちは、あんたよりずっと一生懸命やっているぜ」とダメ押し。

このやりとりを見たBABYMETALの公式ツイッターアカウントは、Rob ZombieがBABYMETALを応援し、ヘイターの化け物退治をしてくれた」と彼への感謝をツイート。

別のスレッドでは、Robへの大絶賛が続き、イギリス同様、BABYMETAL擁護の論調が形成されていった。

いわく、「ここの多くの奴ら(BABYMETALファン)がお前ら(ヘイター)を嫌ってるぜ」「そして多くの人たちがBABYMETALを愛している」

「奴らはメタルに対する冒とくであり、すべてのファンに対する侮辱だ」というヘイターの書き込みに対しては、「皮肉なしで“真のメタル”って言葉を使い、自分だけがメタルを聴くことを許されているかのようにふるまい、メタル狂と結び付けられるものだけが許されるかのようにふるまうやつは、誰であろうと、カスだ。」とか、「そんなものは、ママの家の地下室でいまだに生活しているおっさんのメタルエリートがやってる議論だ」と応じ、「子どもの付き添い以外でBABYMETALのライブに行く大人は、いかなる理由があろうと、全国的な監視データベースに入れられる必要がある」という書き込みに対しては、「BABYMETALは男性、女性、すべての年齢層のファンを持っている。女の子の一人は成人だし、ほかの2人もほとんど近い。だから、おまえがほのめかしているものは、めっちゃ知恵遅れだ。お前は、ただ音楽が好きだっていう人たちを受け入れられないんだと思うぞ。いい加減、大人になれ」という書き込みがつく。

あとは、BABYMETALを認めよう、という大合唱。

「“メタルに対する冒とく”ってのは、すべてのスレのコメントで見るしょーもない議論だ。俺はBABYMETALは好きじゃないけど、もしお前がバンドを執拗に非難するつもりなら、少なくとも“俺は才能がほとんどない、しがないメタルエリートだ”以外の良い理由をコメントしてくれ」

「まず、奴ら(註:ヘイター)はデスコアを嫌い、次にニューメタル、エモ、そして今度はBABYMETALだ。次はなんだろうな?少なくともメタルってのは団結がすべてなんだから、お互いに憎むのはやめるべきだ」「俺は古いメタラーで、Rock on the Range(註:2015)で、BABYMETALを見たんだけど、彼女たちのショーは最高だったぜ」「俺は彼女たちがソニスフィア(註:2014)に出演したとき、バックステージで働いていた。彼女たちは、今までに見たことのあるアクトの半分よりずっとプロだった。バックバンドは、おそらく現在プレイしているほとんどのアクトより戦慄的で、演奏力がある。有名なアーティストやプロのクルーは、この女の子たちに対して敬意しか持っていないね。」「今週末、Carolina Rebellionで見たんだけど、彼女たちはファッキンやばかった。そこで多くの信者が生まれたよ」

という具合だ。そして結論は、こうなる。

「俺はメタルエリートだけど、彼女たちを好きかどうかは関係ない。重要なのは、俺たち(註:メタルファン)には、若い世代がメタルを発見するのを助けるアクトが必要だってことだ。Carolina Rebellionが良い例だよ。多くの人たちがBABYMETALを見に行って、もっと多くのバンドを見た。それってみんなにとっての勝利だぜ。」

イギリスでは、こうした議論にMetal Hammer誌の編集長や音楽評論家など、専門家たちが大きな影響力をもったが、アメリカではアーティストとド素人のメタラーたちが直接やりとりすることによって、BABYMETALはメタル界の救世主である、という結論に至る。この過程そのものが、ヨーロッパとアメリカの文化の違いを表しているようで興味深い。つまり、ヨーロッパ文化では、専門性をもつ者の意見が世論をリードしていくのだが、アメリカでは専門家の意見も大衆の意見も同等であり、みんなでワイワイやって合意を形成していくことを好む。

いずれにせよ、BABYMETALはヘイターをてこにして、大衆に受け入れられつつある。ディスカウントで9$99まで下がっているセカンドアルバム「Metal Resistance」や、5$99まで下がっているファーストアルバム「BABYMETAL」が再びじわじわと売れている。両方買っても16$(1700円前後)なのだから。

また、詳細はまだ見られていないのだが、デトロイトでは「ギミチョコ」の新しい煽りが披露されたようだ。やっぱり、全米ツアーの課題のひとつは、レッドネックを熱狂させるライブバンドとしての英語による煽りの進化なのだ。

だが、英語の板スレでは、まだ、「アイドル(J-POP)とメタルの融合」のもつ、文化史的な奥の深さまで理解しているファンはほとんどいない。

ぼくがこのブログで主張しているのは、明治時代に西洋音楽を受容し、戦後の大衆化の中で、歌って踊るという、独自に発達を遂げた日本のアイドル音楽というジャンルと、少人数のバンドが大音量で観衆に音楽を届けることを可能にした電気楽器を用い、高度な演奏技術と社会批判的な歌詞を表現する、40年におよぶロック‐メタル音楽というジャンルとが、21世紀初頭に“文化のるつぼ”である日本で「融合」した、世界の音楽史上に残る新しい音楽形式、それがBABYMETALなのだということである。

もっといえば、イギリスで生まれ、ロックを大衆化した音楽史上の革命であった4人のイギリス人男性によるBEATLESに匹敵する、3人の日本人女性によるBABYMETAL革命なのだ。

バラカン、わかってるのか?

2016年、イギリスSSEウェンブリーアリーナで、名実ともにイギリスを制覇したBABYMETALは、全米ツアーを実施。ニューヨークから始まって、シカゴ、デトロイト、ミネアポリスなどの中西部へ、そして7月からは西海岸へ。これこそ、西部開拓史をなぞり、オンリーワンの道なきBABYMETAL道を行くフロンティアスピリットの表現なのだ。

まだまだ行くよ!