中二病でも恋がしたい(1) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

いったい、いつ、誰が、あの現象に「中二病」という名前をつけたのだろう。
確かに、14歳という年齢は、体が成長を始めるのと同時に、それまでに獲得した世界に関する知識を集大成して、「世界観」を作り始める時期である。それまでに獲得した、といったって、子どもは現実社会を知らないから、その知識は、小学生時代に夢中になった童話だったり、映画だったり、アニメだったりがその内実なのだが、それで、荒唐無稽で自己中心的な「世界観」を形作る。
例えば、「実は、ぼくは魔法使いの末裔で、悪い組織に裏切られて現代に転生させられたのだ」とか、「実は、私は異次元にある国から来たお姫様で、今の両親に預けられ、やはり同じ境遇の王子様と運命的な出会いをして、キスをすると記憶がよみがえり、元居た世界に戻れるの」とかいう、気恥ずかしくなるような「設定」を創りあげ、アイデンティティを確立するという現象だ。
今の子どもたちは、RPGとか、マンガとか、ライトノベルとか、アニメとかがあるから、その「知識」すなわち、天使や悪魔、神の体系、魔術とその呪文・アイテムの種類、ドラゴンの生態、召喚儀式の方法などなど、ぼくの子ども時代とは比較にならないくらい多彩だ。
ラヴクラフト全集が刊行され、ネクロノミコンや渋澤龍彦の著作が学研文庫や河出書房新社から文庫化されたのは、1980年代だから、ぼくの中学時代にはぜんぜん間に合ってない。
それでも今考えれば、ぼくは、中二病だった。
中学一年生の終わりに、我が家は東京からある地方都市へ引っ越した。マセガキだったぼくは、当時、ちょっと髪を伸ばしていて、背は高かったけれど運動が苦手で、バレーボール部に入ったがすぐやめてしまった。勉強はできた方だが、ガリべンタイプではないし、友達と話すのも好きだったが、休み時間になると文庫本を出して読み始めるので、「東京からきたとっつきにくいヤツ」という印象だったかもしれない。父親がNHKの「趣味の時間」でクラシックギターを始めたので、ぼくも小学校時代からギターを弾き始め、前にいた東京の小学校や中学校では、友達と「明星」や「平凡」の歌本で、天地真理や南沙織、アグネス・チャン、郷ひろみ、西城秀樹を歌ったりしていた。これで年齢がほぼ特定されますね。
で、とっつきにくいヤツであったぼくが、音楽室にあったギターをポロンとコード弾きしたのをきっかけに、ピアノを弾く男の子と仲良くなった。たぶん裕福な旧家だった彼の自宅のピアノ室で、くだらないオリジナルソングを作ったり、二人でつるんで街に出かけたりしていた。ところが、中二になって半年くらいたったある日、何かの拍子に、ぼくが彼の機嫌を損ねるようなことを言ったらしい。次の日から口をきいてくれなくなった。それどころか、地元出身で影響力のある彼は、クラス全員に、ぼくとしゃべってはいけない、という号令を出した。それから、誰も、ちょっと気にかかっていた女の子までも、ぼくと目を合わせず、一切話さなくなった。いわゆる「村八分」だ。
ぼくは、そのことを、親に言えなかった。当時は「イジメ」という言葉も「シカト」という言葉もなかった。イジメを苦にして自殺する子どもはいたのだろうが、報道されなかった。
ぼくも一度、悔しくて、ナイフで腹を刺してみたことがあったが、本当に死のうとは考えなかった。
熱が出て学校を休んだ日、ふと思いついて架空の大陸の地図を書いてみた。社会科の地図帳を参考にして、複雑だけど、「美しい」と思える曲線を組み合わせて海岸線を描き、等高線をひいて山を作り、湖や川を描いてみた。それが面白かった。大陸の形ができると、都市をいくつか作り、名前をつけた。好きな女の子の名前をちょっとひねった都市もあった。それらを鉄道で結び、途中の駅も作り、工業都市や農業地帯、牧場のある高原、発電所のあるダムと、どんどんそれらしい地図を作っていった。あまりに複雑になってきたので、トレーシングペーパーを買ってきて、元の海岸線を写し取り、それを重ねて、地図帳風に「地形図」「行政区分図」「産業地図」などの種類を作った。すると、今度は、Google Earthみたいに、もっと都市に近づいてみたくなった。それで、同じ判型の方眼ノートを買ってきて、地形図をマスごとに拡大し、小縮尺の都市図を描き、細かい家やビルや道路を書き込んでいった。この仕事には終わりがなかった。次に、この「国」のライバルになるもうひとつの「国」を作り、さらに悪い別の「国」、謎の大陸、人間ではない妖精みたいなのが住んでいる「国」も作った。最後の、というか、この作業が別次元の大仕事になったのは、「そうだ。歴史が必要だ」と思いついたことだった。ぼくは、最初に作った国を「夢の国」と名づけ、その国の歴史を書いていった。その歴史はこんな風に始まる。
「いにしえ、光があった。光は闇を貫いて飛び、地上に降り立った。人は光を神とあがめ、神は人に一握りの草の種を与えた。これをオリザという。オリザは荒れ地にしか育たず、人が八十八日、労苦して初めて実を結ぶ。オリザの実は甘く、人を養った。ゆえにこの人々をオリザの民という…。」
これが夢の国の建国神話で、第二章では、悪魔が人々に「イヴァンの泉」を与える。イヴァンの泉の水をオリザにかけると一夜にして実を結ぶ。このため人々は働かなくなった。ところが、イヴァンの泉の水で実を結んだオリザは、次の年には実を結ばなくなる。わずかに残った実のなるオリザの苗木をめぐって人々は争い、戦争になる。この戦争を水かけ戦争という。どのオリザに実がなるのかわからないので、「水をかけて確かめよう」派と、「水をかけずにとにかく一年待ってみよう」派が争ったからである。この戦争を治めたのが、わが身をイヴァンの泉に投げて埋めた伝説の王子、つまり、ぼくなのであった。
第三章は、このぼくの王子として生まれた時の逸話とか、幼少時から天才だったとか、剣の達人のところで修業するとか、全国を行脚して人々の苦しみを救うとか、各地で女にモテまくり、子どもを世継ぎにして、夢の国の版図を広げていくとか、まあ、これ以上は恥ずかしくて、もう書けない。
つまり、魔術とかの知識はなかったけれども、明らかに中二病だったのだ。ぼくは。

アニメ「中二病でも恋がしたい!」は、虎虎のライトノベル(KAエスマ文庫/京都アニメーション)が原作で、中二病を卒業した高校一年生の富樫勇太と、団地の上の階に住む同級生で、父の死を受け入れられずにいまなお中二病に罹患している小鳥遊六花(たかなしりっか)の恋を描いた純愛コメディ。
第一期が2012年10月から12月まで、第二期「中二病でも恋がしたい!戀」が2014年1月から3月まで、TOKYO MX、アニマックス、BS11などの深夜枠で放映された。
物語は、高校の入学式前夜、勇太が団地のベランダで、恥ずかしい中二病、妹の富樫樟葉(くずは)によれば、「お兄ちゃんがちょっと変だった頃」の残滓、おもちゃの大剣などのアイテムを片づけているところから始まる。上の階からゴスロリ姿で片目に眼帯をつけた、小柄な美少女がロープを伝って降りてくる。これが、メインヒロイン、小鳥遊六花だ。
翌朝、勇太は、同じ学校の制服を着た、勝気でスタイル抜群の美少女、丹生谷森夏(にぶたにしんか)と、駅の鏡の前で鉢合わせになる。よくあるラブコメ的展開に、「高校生活はバラ色かも」とほくそ笑む勇太。その直後、やはり同じ制服を着た小鳥遊六花が現れ、電車のドアが開く瞬間、まるで自分が魔法で開けたように芝居がかったポーズをとり、「ヘヘン」と自慢げに勇太をチラ見する。
中学時代、右腕に包帯を巻き、黒龍炎を宿した「ダークフレイムマスター」になり切り、黒いコートを着、穴あき皮手袋をつけて、近所中に響きわたる声で、見えない敵と戦っていた勇太は、幼稚な変わり者として、クラスで孤立していた。高校では、その恥ずかしい中二病を卒業し、青春を謳歌するさわやかな、普通の高校生になろうと決意していたのだ。
入学式直前、体育館の裏で「わが名はダークフレイムマスター。闇の炎に抱かれて消えろ!」とひとしきりキメ台詞を唱えた後、「生・涯・封・印!」と叫び、勇太は、黒歴史と決別する。
教室へ行ってみると、丹生谷森夏は、同級生だった。「やった!」と思っていると、眼帯をつけた小鳥遊六花が、勇太の座席へ来て、「幾星霜の時を経て、やっと巡り合えたというのか」「目が共鳴している…目が…」とつぶやいて倒れる。クラス中の好奇の目にさらされ、保健室へ連れて行くと、六花は「闇に侵されたモノはもとより、浄化された聖水もまた危険」として目薬を「封印」する。
勇太が、「こいつは現役の中二病だ…」と恐れながら、「昨日の晩、ロープで降りてきたよね。どういうつもりだ」と尋ねると、六花は「悠久の昔、二人は出会っている。すでに昨晩、絆は確認した。わが心の同志、ダークフレイムマスター」と言い放つ。
「なぜ、その名を知っている…」と驚愕する勇太に、六花は、自分は「邪王真眼(じゃおうしんがん)」の持ち主であり、すべてを見通す力がある。姉である十花(とおか)は自分を監視する敵、「不可視境界線管理局のプリーステス」で、二人は、敵の目を逃れて「不可視境界線」を探し、その向こう側「並行世界」へ行かねばならない使命を負っていると告げる。そして、契約を完了するため、眼帯を外し、オッドアイ(色違いの瞳)を見せようとする。パニックに陥る勇太。
だが、六花のオッドアイは、ただのカラーコンタクトレンズだった。
「ダークフレイムマスター」の名を知っていたのは、体育館裏で勇太の最後のキメ台詞を聞いたからだった。落ちたレンズを探しながら、勇太は六花に、「いいか、おれはもう中二病を卒業した。ダークフレイムマスターも、黒龍炎も、現実には存在しない。そんな想像をしていたって、何の力にもならないんだ。」と六花を説得する。
ところが、六花は、やけに強情に「力はある。」と言い張るのだ。