第八章 ワールドツアー大勝利(1) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

2015年1月10日の「新春キツネ祭り」のあと、BABYMETALは、4月23日のファンクラブ限定ライブまで活動休止に入った。水野由結と菊地最愛が、3月末の「卒業式」に向けてさくら学院の活動で多忙になるし、私生活では高校進学の準備もあるからだ。
2014年、海外ツアーと並行して、二人はさくら学院でも最上級生として活動していた。
さくら学院での二人は普通に可愛い小柄なアイドルだ。海外での活躍を知り、BABYMETALファンになった新参者にとっては、制服を着て、胸がキュンとするような友情・努力・青春のアイドルソングをさわやかに歌い踊っている二人の姿は、「Road of Resistance」の2万人の大合唱を煽っていたYUI、MOAとは別人に見える。
菊地最愛は、機転が利き、トークがうまく、リーダーシップもあり、さくら学院の2014年度(四代目)「生徒会長」となった。
さくら学院在籍中、彼女はTV埼玉のアイドル紹介番組「HOTWAVE」に4回出演した。
最初は2013年2月、BABYMETALとして登場。リリースしたばかりの「イジメ、ダメ、ゼッタイ」のキャンペーンだった。このときの主役はSU-だったが、中1で、まだ幼さの残る菊地と水野も、好きなアニメやカードゲームについて熱弁していた。
二度目は2014年2月。この番組としては、さくら学院初登場の時だった。堀内まり菜(な)ら中3生三人とともに、菊地最愛は一人だけ中2生として出演した。2013年、国内の名だたるロックフェスを席巻したBABYMETALの話題は出なかったが、顔つきも体型も1年前からだいぶ変わっている。コメントも、身振り手ぶりの激しい「会長」の堀内より落ち着いており、実質的なリーダーのような雰囲気だった。
三度目は2014年10月、水野由結、磯野莉音とともに出演した。菊地の肩書は「生徒会長」。磯野が「小等部の頃は一緒にふざけていたのに、中3になって自覚が出てきた」と評した。DVDシングル「ハートの地球」は、「課外活動」として“北米”に行っていた合間に2日間でレコーディングしたとのこと。忙しさがうかがえる。
四度目は2015年3月、さくら学院2014年度「卒業式」へ向けた告知のための出演。後輩4人を率いた「生徒会長」のトークは、小ボケをかましながら、堂々たる貫録。海外ツアーを終え、「新春キツネ祭り」を経た菊地最愛は、「課外活動」には一言もふれないが、自信に満ち溢れていた。
さくら学院に「転入」したころは、やせっぽちで小さく、クルクル変わる表情とおしゃまな発言が魅力的だった菊地だが、「卒業」目前には、頬がふっくらとし、体型もがっちりして、たくましく見えた。
“プニプニほっぺ”と“ふわふわの髪の毛”がチャームポイントだった小等部の頃の水野由結は、さくら学院で一番身長が低いのがコンプレックスで、教室で椅子から足をぶらぶらさせる姿は、“お人形さん”そのものだった。だが、「卒業」の頃には菊地最愛より一回り背が高くなり、声変わりして、落ち着いた印象になった。
2014年度は「プロデュース委員長」として、さくら学院の全ライブイベントのセットリスト構成を担当。ニコ生の「南波一海のアイドル三十六房」(2015年3月5日)では、トマト好きということから、この世には存在しない「トマトくん」の物まねを披露している。といっても低い声で男言葉をしゃべるだけだが。
二人は、さくら学院開校の1年以上前からオーディション兼レッスンに通っていたから、足掛け6年以上、さくら学院に所属していたことになる。普通のアイドルを演じるさくら学院こそ“本籍地”なのであって、BABYMETALは「部活の遠征」のようなものだったのだ。中元すず香にとっても2年前に「卒業」するまでは同じで、今では、さくら学院が本当の「出身校」のように懐かしい場所なのだ。
2015年3月31日、「さくら学院2014年度卒業式」が、3,600人収容のNHKホールで行われた。さくら学院初の試みとして全国21会場でのライブビューイングも行われた。「卒業」するのは、それぞれ小6、中1から「転入」した田口華(はな)と野津友那乃(ゆなの)を合わせて四名。開校年度から居た水野と菊地はさくら学院一番の人気者であり、BABYMETALで世界的に知られた。過去最高の「父兄」参加数となったのは、当然であろう。
「卒業証書授与式」では、「課外活動」であるBABYMETALのことには、ほとんど触れられないが、企画・構成作家で「校長」の倉本美津留は、式辞でこう述べた。
「いちばん最初からいた水野と菊地が、今日卒業というのはやっぱり迫るものがありまして…。小学校5年生からさくら学院の歴史を全部経験して、全部乗り越えて…。しかも、彼女たちが所属した部活が、とんでもないことに世界進出という渦に巻き込まれながらも、さくら学院の活動を怠ることなくやってきたというのは、本当に凄いなと思います。」
倉本は、さくら学院以前から「新しい子ども番組」というトヨタ提供の配信番組で、子役時代の水野や菊地と出会っている。はにかみ屋だった水野は、発言しようとしては他の子にさえぎられ、いつも悔しそうな顔をしていた。2011年、水野は、さくら学院の上級生と一緒に「校長」宅をサプライズ訪問した。倉本の手を引きながら「カニさん歩きして」と狭い机と椅子の間を導き、ブーブークッションを仕掛けた椅子に座らせるのが水野の役目だったのだが、仕掛けが不発。上級生が作り直しているとき、水野は、「見ちゃダメ」といわんばかりに、小さな体で“通せんぼ”して、倉本の目をごまかした。いたずらが成功し、笑いを取ったときのうれしそうな顔。
大きくなったなあ…。卒業しちゃうんだな…。世界に羽ばたいていくんだなあ…。その気持ちは、彼女たちに「世界で活躍するスーパーレディ」を目指せと教えた倉本自身はもちろん、さくら学院時代からSU-、YUI、MOAを見てきた古参のBABYMETALファン=「父兄」には、共有される感慨だったろう。
前述3月5日の「アイドル三十六房」のインタビューで、今後の抱負を聞かれた水野由結は「高校生になったら、さくら学院ぐらい夢中になれるものを探したい。今は“ひとつ”というものはない。いつか有名になって、スーパーレディになって、さくら学院はこんなにすごいってことを広めたい」と言明した。
続いて菊地最愛は、「いずれスーパー最愛ちゃんになりたい。とりあえず卒業したらSU-、YUIとBABYMETALとして信じる道を進んで、さくら学院を広げてって、いつかはMOAMETALじゃなくて、菊地最愛として戻ってきたい。」と述べた。“スーパー最愛ちゃん”とは何ぞや、という質問に、菊地は「月島きらりみたいになりたいなあって思ってるんですよ。」と答えた。月島きらりとは、アニメにもなった中原杏の少女マンガ「きらりんれぼりゅーしょん」の主人公で、トップアイドルを目指す14歳の少女のこと。菊地は2007年に、このマンガが連載されていた「ちゃおガールオーディション」で準GPとなり、アミューズにスカウトされた。
二人が2012年にBABYMETALを続けるかどうか逡巡したことや、さくら学院を大切に思ってきたことは前にも述べた。YUIMETAL、MOAMETALとして世界中を回り、賞賛を受けることは、「スーパーレディ」「スーパー最愛ちゃん」に当たらないと思っていたのだろうか。2015年には、イギリスの2つの音楽雑誌から表彰されるだけでなく、世界で活躍した女性に贈られる雑誌VOGUE JAPANのWomen of the Year 2015や雑誌GQのMen of the Year 2015「ディスカバリー賞」までも受賞するというのに。
こうした発言には、二人は、あくまでも“アイドル”であり、BABYMETALもさくら学院の一部であって、いうならば、アイドルの「新しいスタイル」なのだ、というニュアンスが感じられる。それはそうだろう。メタルヘッドが「本物か、ギミックか」と論争しようが、小林氏が「メタルの新しいスタイル」と主張しようが、BABYMETALは最初から「アイドルとメタルの融合」なのであって、アイドルであることを捨象したことは一度だってないのだから。
「アイドル三十六房」での発言が、あまりにそっけなかったことを反省したのか、水野は3月31日の「卒業式」では、自らの抱負を、こんなふうに言い直している。
「これからは、YUIMETALとしての夢も、水野由結としての夢も、全部叶えたいと思います…。」