4月28日のブログでODA大綱見直しについて書きましたが、その見直しが最終局面に入っています。
名称を「開発協力大綱」と改めた政府原案が10月29日に発表され、パブリックコメントが募集されるとともに、各地で公聴会が開催されました。

3月下旬から始まったODA大綱見直しに対して、NGOの間でしばしば会合を開いて声明を出したり、意見交換会を開催したり、NGO-外務省定期協議会全体会やODA政策協議会などの場で議論してきました、これから10年以上にわたって日本政府の海外協力の基本方針となる新大綱が、世界の平和とすべての人々の幸福の実現に貢献する内容になるよう、市民社会の視点で読み解き発言しています。詳しくは、JANICのODA大綱見直し専用ウェブサイトをご覧ください。

政府原案には、「人間の安全保障の推進」を基本方針に掲げ、脆弱な立場に置かれやすい子どもや女性、障害者等の保護と能力強化に言及したり、女性の権利を含む基本的人権の促進に積極的に貢献すると明記している点や、「市民社会との連携」においてNGOとの連携を戦略的に強化すると明記している点、またODAのGNI比0.7%とする国際目標も記載している点など、評価すべき点もあります。

一方で、懸念すべき点も多数見られます。特に私が懸念するのは、経済成長重視とODAの非軍事利用における曖昧さです。

政府原案では、貧困削減を日本のODAの主目的と位置付けているいますが、貧困削減を実現する手段として経済成長を重視しています。確かに貧困を解消していくためには一定の経済的な成長も必要ですが、「富める者が富めば、貧しい者にも自然に富が滴り落ちる」といういわゆるトリクルダウン理論は、実際には多くの場合豊かな層はより豊かになる一方で貧しい層は取り残されるという格差拡大を助長する結果になっています。まず、教育、保健医療サービスの改善など、人づくりや人々が安心して暮らせる社会基盤の整備に取り組み、貧困解消、格差削減に支援を集中し、その上で「質の高い経済成長」を目指すべきです。

大綱案は「基本方針」で「非軍事的協力による平和と繁栄への貢献」と明記し、現ODA大綱の原則を引き継いで平和主義の姿勢を堅持しています。ところが、「実施の原則」の中に「民生目的,災害救助等非軍事目的の開発協力に相手国の軍又は軍籍を有する者が関係する場合には,その実質的意義に着目し,個別具体的に検討する。」という文章を付け加えて、現ODA大綱が禁止している「軍及び軍籍を有する者」へのODAの使用を一定の条件の下で容認しています。「その実質的意義に着目し,個別具体的に検討する」ということですが、誰が、何を基準にして、どのように判断するのかが不明です。こういった点が明確でない場合、恣意的な判断によって歯止めなく「軍や軍籍を有する者」に関係する事業にODAが供与される危険性があります。本来軍という組織は高い機密性を保持しており、いったん供与されたものが当初の目的通りに非軍事に使用されるかどうかの保証もありません。 日本の平和主義を守り抜くためにも、ODAの軍事利用につながるような文章は、新開発協力大綱から削除すべきだと思います。

政府は、今年中の閣議決定を目指して最終調整をしています。
既に公聴会もパブコメ募集も終わってしまいましたが、政府への意見表明の場が全くなくなったわけではありません。12月2日はNGO-外務省定期協議会ODA政策協議会が開催されて、「開発協力大綱」案について議論が行われる予定です。新大綱がより良くなるようにぎりぎりまで声を挙げていきたいと思います。


(市民セクター全国会議でJANICが主催したODA大綱に関するセミナーでのグループディスカッション)