暖流

 

3月に劇場鑑賞の最後の作品にたどり着きました。作品は1957年の大映映画『暖流』ですが、岸田国士の同名小説の再映画化です。戦前の1939年に吉村公三郎監督のもとで最初の映画化がなされ、佐分利信、高峰三枝子、水戸光子らが出演しています。

 

この戦後版の『暖流』を撮っているのは、1957年に『くちづけ』で監督デビューしたばかりの増村保造。同じ年に公開の若尾文子主演の『青空娘』が好評だったこともあり、たて続けの監督作品です。主な出演者は野添ひとみ、根上淳そして左幸子。脚本は『青空娘』に引き続いて白坂依志夫。ロイヤル劇場(回数券5,000円⑤)。グッド!

 

暖流

 

主人公の日疋祐三(根上淳)は病床にいる恩人の院長から病院の建て直しを依頼されて何年ぶりかで東京の地へ。病院内は院長の息子(船越英二)の無能をよいことに、その腐敗は目にあまるものがあった。日疋はある看護師の自殺事件の件で看護師・石渡ぎん(左幸子)と知り合い、病院内の様々な情報を入手するようになる。目

 

やがて日疋はぎんから強い愛情を寄せられるようになりますが、彼は院長の娘・啓子(野添ひとみ)に憧れに近い気持ちを抱いている。日疋は啓子の婚約者である医師・笹島(品川隆二)の素行を職務上の一環として調べますが、その女性関係は乱脈をきわめており、それを啓子にありのまま報告します。しかし、その日疋の行動を啓子は強く非難する。啓子もまた日疋に対して好意めいた感情を抱いているのです…。

 

暖流

 

病院の乗っ取りを画策するドラマが進む一方で、展開していくのは「男1+女2」の構図の三角関係のドラマです。恋愛に関してはいかにも凡庸な感じの根上淳に対して、告白というアクションを自ら起こしていくのは、左幸子が演じるぎんであり、野添ひとみが演じる啓子です。戦後まもない時期の“新しい映画”という印象を受けます。

 

すでに2人の女優の“その後”の作品やキャリアを知っている私です。個人的には“芸達者”な左幸子よりも、若き日の野添ひとみの美貌に心を寄せる気持ちが勝っています。とはいえ、本編における左幸子のストレートな愛情表現にはやはり驚かされます。

 

「女って、気持ちを打ち明けてしまうと、とことんまで図々しくなってしまう」というセリフもありますが、駅舎での別れの場面で「情婦でも二号でもいいんだから待ってます、本当よ」と屈託なく大声を発する左幸子の印象は、やはり強烈です。こんなこと言われた男は、どう立ち振る舞わなければならないか…ちょっと怖いです。パー

 

(1957年、監督/増村保造、脚本/白坂依志夫、原作/岸田国士、撮影/村井博、美術/柴田篤二、音楽/塚原晢夫、録音/須田武雄、照明/米山勇

暖流

 


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