1970年代の小説・作家で忘れられない一人が五木寛之であり、
作品は大河小説の「青春の門」。1969年から執筆が開始され、
現在もシリーズは完結していないのかな。私が70年代に読んで
いるのは、「筑豊篇」「自立篇」「放浪篇」「堕落篇」「望郷篇」の第
5部まで。その後の「再起篇」「挑戦篇」「風雲篇」は未読である。

青春の門 

物語は九州の炭鉱町出身の伊吹信介のビルディングス・ロマン
であり、五木寛之版「人生劇場」といったところ。70年代のブーム
の中で映画化もテレビドラマ化もされている。主要キャストは、


               東宝・映画(75・77) テレビドラマ(76・77) 東映・映画(81・82)
                    ↓             ↓            ↓
伊吹信介(成長後)・・・   田中健         江藤潤         佐藤浩市

牧織江(成長後)・・・    大竹しのぶ       秋吉久美子       杉田かおる

伊吹重蔵・・・        仲代達矢        北大路欣也       菅原文太

伊吹タエ・・・         吉永小百合        小川真由美       松坂慶子

塙竜五郎・・・        小林旭          中村敦夫        若山富三郎


青春の門 青春の門  東宝版(1975・77)
 
小説の第1部「筑豊篇」は東宝版でも東映版でも、タイトル『青春の門』
で公開されている。福岡の田川に生まれた伊吹信介。男気のある父・
重蔵の死後、義理の母であるタエの女でひとつ育てられる。幼馴染み
の織江との恋も交えながら、やがて故郷を捨て上京するまでを描く。

そして第2部「自立篇」の舞台は、戦後の色濃い昭和30年前後の東京。
早稲田大学に入学した信介は、貧乏暮らしの中アルバイトに励み、石井
講師(高橋悦史)から指導を受けるボクシングにものめり込んでいく。

演劇に入れ込んでいる友人から新宿二丁目の遊び方を教わり、そこで
出会うのが学生たちに人気のある娼婦カオル(いしだあゆみ)。やがて
九州から上京してきた織江との間で、気持ちが行き違い、織江は信介
の前から姿を消す。その後、ヤクザのもとで街娼として働く織江を見つ
け、何とか連れ出すが、カオルとの関係を見て、再び姿を消す織江。

やがて尊敬する石井講師とカオルが心中未遂の事件を起こして、自分
の前から去って行く。信介は織江が北海道に向かったらしいという噂も
あり、演劇部の友人に誘われる北海道へのドサ廻りの旅に出る。

青春の門 青春の門  東映版(1981・82)
 
こうしてストーリーをまとめてみると、いかにも時代がかった内容だなと
改めて思う。1970年代に人気があったとはいえ、「筑豊篇」「自立篇」で
描かれるのは戦後から1950年代まで、20年ほどの「時代差」がある。
70年代当時にあっても、すでにノスタルジックな物語であったわけだ。

そして、この五木寛之の大河小説は東宝版の「自立篇」が、映画の評価
も興行もそこそこ良かったのに、続編は作られることがなかった。その後
のテレビドラマも東映版も、右にならえで「自立篇」で打ち止めである。

そもそも「青春の門」のタイトルでの映画化は、大学時代の伊吹信介に
はフィットするが、その後の物語にはそぐわない感じだ。かくして映画・
テレビ版「青春の門」の伊吹信介は、永遠にモラトリアム人間のままだ。



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