洪水拡大「観測機器が旧式」 タイ気象局 ダム放水調整に生かせず
   
2011.10.20 05:00
http://www.sankeibiz.jp/macro/news/111020/mcb1110200500003-n1.htm


 タイ気象局は、今回の大洪水を引き起こした豪雨を予測できなかったのは、観測機器などの設備が旧式だったことが原因だとして、要求していた機器の更新が行われていれば被害の規模は低減できたとしている。


 タイ気象局のソムチャイ副局長は16日に電話インタビューで、レーダーや気象モデリングシステムの40億バーツ(約100億円)規模の整備を求める同局の複数の申請が2009年から、無視されていることを明らかにした。新設備があれば、同局は季節的降雨をより正確に予測し、ダム運営者に貯水位調節に必要な情報を提供できるだろうと説明した。


 ソムチャイ副局長は「雨量がここまで多くなるとは誰も予想していなかった。ハードウエアもソフトウエアも、現在のわれわれのシステムは時代遅れの遺物だ」と述べた。


 国営タイ電力公社(EGAT)で国内最大のプミポン・ダムの運転を監督するブンイン・チュエンチャバリット氏は「雨量が今年、増加することは認識していたが、これほどの規模となるとは予想していなかった。7月下旬から天気や洪水の状況を考慮し放水を行っている。大量の放流は洪水の状況を悪化させる」と説明した。


 同氏によると、同ダムは乾期に穀物の灌漑(かんがい)用に潤沢な水源を確保するため、8月前の時点で、貯水の大半を保持。それ以降の降水量は職員の不意を突くものだったという。


 タイ王立灌漑局のデータによれば、プミポン・ダムは6~7月、貯水率が前年同期比2倍の63%となり1日の平均放流量を450万立方メートルとしていたが、降雨が増した8月に2200万立方メートル、9月に2600万立方メートルへ増え、10月1~14日には、6~7月の17倍にもなる7700万立方メートルを連日、下流へ放出した。


 洪水防災の専門家らは、放水が適切であれば被害はこれほどにならなかったと指摘。「乾期に使える水量を蓄えようと水を増やせるだけ増やした。それが一番の問題」という。


 これに対し、灌漑局で河川や湖沼の水資源管理部門の責任者を務めるスセップ・ノイパイロ氏は、国内ダムの放水量が4月から減ったのは、下流の農地の一部が既に冠水していたためと説明。「国内ダムが容量いっぱいなのは、北部の降水量が今年最大記録を更新したからだ」と反論した。


 灌漑局は14日、国内大型ダムの貯水は容量の平均93%に達していると発表。同局の元幹部は「雨量が増えると確実にわかっていれば(事前の)放水量がもう少し増えていたかもしれない。気象局は複数の台風がタイを直撃し豪雨をもたらすとは予測できなかった」と指摘した。(ブルームバーグ Daniel Ten Kate)





いすけ屋


 タイの実態がようやくわかってきた。タイは水不足に対する灌漑事業には熱心で、日本もJICAを通じて技術協力しているようだ。ところが浸水被害には5年に1回ぐらいの頻度で経験しており、もう慣れっこになっている。よって、少々浸水してきても動じないのだ。例え浸水しても2時間程度で引いてゆく。今年は50年に1回の災害なので、なかなか引いてくれない。1983年の水害の時には2ヶ月かかったという。


 バンコクは標高1.0m~1.5mの低湿地地帯にあり、大潮の満潮時は水位は2.5mにもなる。ところが肝心のチャオプラヤ川の両岸の高さは1.5m~3.0mで計画上の余裕高が0.50mしかない。これでは大潮の満潮時にはあふれ出てくる箇所もあるだろう。チャオプラヤ川の許容流量は2500m3/sであるが、日本の場合、計画流量200m3/sまでの河川は余裕高0.60m、それ以上500m3/sまでは0.80m、2000m3/sまでが1.00m、5000m3/sまでが1.20mである。この1.20mの余裕高を設けていれば、大潮の満潮も関係なく、川の水があふれる事はないだろう。


 また縦横に水路(運河)が切られており、いわゆるバック堤(本川堤防と同じ高さ)が整備されてないから、チャオプラヤ川の水位の高い時に、このゲートを開ければ、たちまち街中に浸水してくる。明らかに政府の失敗である。開門に反対したのが政敵だったので、美人首相も聞く耳を持たなかったのか、側近に治水の判る人がいなかったのか、いずれにしても兄の残したインフラを引き継いだだけの美人首相が可哀そうな気もする。


 上流のダムは全て貯水ダムであり、洪水調整ダムはないようだ。日本なら、ダムを造るなら多目的にしないと経済効果があわない。従って、ダムなら大なり小なり、洪水調整能力を持っている。貯水ゾーンの上に調整ゾーンを設け、ここで下流の能力分を放流し、それ以上は貯め込んでおく。


 とにかく、海面より地盤が低ければ自然流下はできないのであるから、後は機械(ポンプ)排水しかない。ところがタイはその地形、降雨量(年間平均1500mm)に比してポンプ場が少ない



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 下の表が、タイ国全体のポンプ施設である。毎秒5m3クラス(φ1650)が25台、毎秒3m3クラス(φ1200)が310台である。このうち何台がチャオプラヤ川にあるのか判らないが、2500m3/sの規模の川で強制排水以外方法のない川では、足らないのは一目瞭然である


 そこで、この国の抜本的治水対策は、上流のダムのかさ上げをして調整ダムにすることと、チャオプラヤ川の堤防をあと1mかさ上げする。支川あるいは運河の川との合流点では、必ずゲートを付けること。これで、タイのバンコクは水害から解放される。