恐怖の改正憲法案とTPP | 館山市議会議員「石井としひろ」のブログ

恐怖の改正憲法案とTPP

改憲勢力が2/3を伺うということで憲法改正が現実的になり、改めて自民党憲法改正草案を読みましたがあまりにひどい内容です。これほどの悪い法案を私は、日本の国内法では見たことがありません。こんな憲法になってしまったら、日本は自由主義でも民主主義でもなく、「開発独裁」の国になります。まさしく、自由民主党という党名は偽りありです。

自民党の改憲案が通って、「開発独裁」の国になったといっても、まだマシなのが現在のシンガポールで、日本もこのような国になる可能性があります。意外と知られていませんが、シンガポールは一党独裁で言論の自由はかなり制限されています。また、現在の中国は、共産主義国家というより、開発独裁国家になっているので、そのようになる可能性もあります。そして、そこまでは落ちないと思いますが、最悪のケースを想定すると、東洋のナチスになります。

まず、憲法の位置づけですが、「国民が政権を縛る」というものです。国民が政権に、人権を守ることを約束させるものです。そして、政権は国民のために法律を作ります。法律の作成にあたって人権侵害は出来ません。ただ、他者の人権を侵害するものについては、人権を一部制限することもできるようにしています。また、法律では国民に義務を課せますが、それは憲法で許される範囲しかできません。そして、原則的には憲法により、国民に直接、義務を課すことはしません。憲法の内容は、あまり細かく規定はしませんが、時代によって簡単に変化しない「普遍的な理念」を網羅します。普遍的な理念ですから、一時の扇動で改変されないように、改正にあたっては、十分な議論が尽くされるよう、改正要件を通常の法律よりも厳しくするものです。

くれぐれも重要なのは、憲法で国民に直接、義務を課さないことです。義務は法律で課せば済むことです。

もし、憲法で義務を課しているなら、政権が悪しき独裁をしようとした場合に、それを止める術がなくなります。

例えば、今回の自民党憲法改正草案ですが、公の秩序に反する言論はできません。公の秩序とはたいてい政権ですから、どんなに政権が悪行をしても、それが駄目とは言えないし、止める術はありません。公の秩序に反せないという「義務」が憲法にあるだけで、自由主義も民主主義も死にます。

義務を憲法で国民に課してはならない、この立憲主義が近代国家の常識です。

ところが、自民党憲法改正草案では国民に義務を32も課しています。特に、32番目の「憲法尊重義務」でガチガチに国民を縛っています。まさしく、国民のために政権を縛る憲法ではなく、「独裁政権のために国民を縛る憲法」になっています。

1 国と郷土を誇りと気概を持って自ら守る義務(前文)
2 人権尊重義務(前文)
3 和を尊ぶ義務(前文)
4 家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する義務(前文)
5 自由と規律を重んじる義務(前文)
6 美しい国土と自然環境を守る義務(前文)
7 教育や科学技術を振興する義務(前文)
8 国を成長させる義務(前文)
9 良き伝統と我々の国家を末永く子孫に継承する義務(前文)
10 国旗・国歌尊重義務(3条2項)
11 国際平和誠実希求義務(9条1項)
12 国防協力義務(9条の3)
13 自由・権利保持義務(12条)
14 自由・権利を濫用しない義務(12条)
15 自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚する義務(12条)
16 公益及び公の秩序服従義務(12条)
17 身体拘束しない義務(18条)
18 個人に関する情報を不当に取得し、保有し、又は利用しない義務(19条の2)
19 宗教参加を強制しない義務(20条2項)
20 通信の秘密を侵さない義務(21条3項)
21 家族相互助け合い義務(24条1項)
22 相互協力による婚姻維持義務(24条2項)
23 環境保全協力義務(25条の2)
24 教育を受けさせる義務(26条2項)
25 勤労の義務(27条1項)
26 児童を酷使しない義務(27条3項)
27 納税の義務(30条)
28 現行犯人以外を逮捕しない義務(33条)
29 両議院議員を兼職しない義務(48条)
30 地方自治負担分担義務(92条2項)
31 緊急事態下指示服従義務(99条3項)
32 憲法尊重義務(102条1項)

32大義務は下記サイトから引用しています。現行憲法と自民党憲法改正草案の対比と解説があり優れたサイトです。

【自民党憲法草案の条文解説】
http://satlaws.web.fc2.com/

これだけガチガチに国民を義務で縛ったのですが、なぜか22条の「経済的自由」については、現行憲法の「公共の福祉に反しない限り」という言葉が削除され、自由が拡大し、法規制が困難になりました。これにより、弱い産業の保護や、経済的強者の横暴に対しての規制が難しくなります。

この経済的自由の拡大は現在、進んでいるTPPと非常に相性が良いものです。TPPでは、大幅な経済的自由が認められる多国間条約です。多国間条約というのは、一度結んだら、多国間で再度、同意しない限り変えられません。ですから、多国間条約は憲法よりも改正が難しいかも知れません。基本的にTPPとは、多国間で弱肉強食の経済競争をするものですから、条約で規定されてしまうと、独自に国産品保護や消費者保護の規制ができなくなります。田舎の市町村でやっている地産地消という保護主義的な政策も出来なくなるでしょう。

田舎は困窮し、一部の都市で人口は過密状態となり、一党独裁、1%の富裕層と99%の低所得層という日本社会が実現する可能性があります。

ちなみに、お隣の中国ではそういった状況になっています。そして、やはり中国の憲法は国民に多大な義務を課しており、立憲主義ではないものです。

よく勘違いしている人が多いのですが、別にナチスドイツ下のドイツ国民、現代の中国国民はレベルの低い人間では決してありません。日本人と同じ普通の人間です。ただ、悪い法制度や社会体制に組み込まれると、人間は悪い性質が出てしまいがちなものです。

ところで、自民党の多くの地方議員というのは、現行憲法の意味もよくわかっていないし、多分、読んでも理解する能力がないと思います。また、
自民党憲法改正草案を読んでも、理解できないでしょう。(ちなみに、私は法学部卒業で、在籍していた時、私は憲法を理解していませんでしたし、それ以前によく読みませんでした。だから、読んでいない人を責める資格もありませんし、責める気もさらさらありません。)

人間は色々ですから、法律的な能力がないのは悪いことではありません。そもそも、努力不足はともかく、能力不足は責められるものではありません。ただ、なにがなんだかわからないのに、ただ強者が推進しているからとか、多数派が推進しているとかいう理由で賛成しているとしたら、全く自己がないということであり、問題です。

そういうわけのわからない長いものに巻かれろという「多数派主義」で、自由主義や民主主義というのは破壊されるのです。その最悪の例がナチスドイツです。

さて、改憲勢力が2/3になりそうですが、その勢力は、そもそも改憲するとどのような事態が想定されるのかわかっているのでしょうか?

現行憲法は、もちろん完璧なものではありません。ただ、法改正だけではできない「何を」具体的に実現するために改憲するのか、改憲勢力は考え直した方がよいと思います。