むかーしむかし


あるところに


おじいさんと、おばあさんと、ボブがいました。






田舎暮らしで、普段から質素な生活を送っていた3人は


その日も朝からいつもどおりの生活をしていました。






おじいさんは畑仕事に精を出し


おばあさんは裏庭でニワトリに餌をやり


ボブは街に出て、仲間たちとバーで葉巻やヒップホップを楽しんでいます。






頃合いはお昼過ぎでしょうか。


おばあさんの元へ、ヨロヨロと1匹のキツネが迷い込んできました。


見ると、その幼いキツネは足に傷を負っているようです。






「おじいさん、おじいさんや。仔ギツネが迷い込んできよったわ。傷を負ってよろけておるわ。」


おばあさんは畑に向って叫びました。






「おお、そりゃ大変じゃ。」






おじいさんがキツネを抱えて足を見ると、罠にかかった様な傷跡があります。


そんなに傷は深くはありませんが、やせ細っているその感触から


お腹をすかせて弱っているのに違いない。とおじいさんは思いました。






まずは、丁寧に薬を塗ってあげて


汚れたカラダを拭いてあげたあと


ボブの部屋からくすねてきたスパムミートを食べさせてあげました。






キツネはとてもおいしそうに


ものすごい勢いで缶のなかに顔を突っ込んでいます。






そして、お腹一杯になって元気が出たのでしょうか。


キツネは外に向き直って、ちょっとだけ足を引きずって歩き始めました。






おや?


よく見ると、おぼつかない歩調のその視線の先には、


大きなキツネがじっとこちらを眺めているじゃありませんか。






きっとお母さんなのでしょうか。


怪我をしたわが子が心配でならないようです。






親子は近づくなり顔を合わせ、何かを話しているかのようです。


お母さんは子供の口の周りに一杯付いたスパムミートをきれいになめて


そして一旦こちらを振り返ってじっと見ると、木々の中へ走り去っていきました。






おじいさんとおばあさんは、この仲睦まじい親子を笑顔で見送り、


よかったよかったと微笑み合い


そして、それぞれの仕事に戻りました。






そして、その日の夕方のことです。


日も赤く暮れ始め


家に戻ってきたおじいさんは驚きました。


軒先に沢山のブドウが置かれていたのです。






おばあさんを呼んで尋ねてみましたが


おばあさんも全く身に覚えがまったくないようです。


ブドウなんて高価な物は、この家にとっては手が届く果物ではなかったのです。


二人は首を傾げました。






ですが、


ふと見ると、それぞれのブドウの一部に大きい歯形や小さい歯形が残っているじゃありませんか!


あの親子が、お礼にと持ってきてくれたものだったのです。






小さい歯形のついたブドウには、


きっと重かったから、何度も下ろしては噛み直して運んで来たのでしょう。


大きな歯形のブドウよりも、たくさんの歯形が付いていました。


おじいさんとおばあさんは、目を丸くして顔を見合わせ


そして、再び静かに微笑みあったのでした。






ちなみに後日、里の八百屋が


ブドウを丸ごと盗んだ犯人を捜してると二人が聞いたのは、それはまた別の話・・・。


とにかくもうビタ一文静かに微笑みあったのでした。






夜になって、ボブが友達のキャディラックに送られて帰ってきました。


おびただしい数のホットドッグが入った紙袋にを抱えています。


ポーカーで大勝ちして、お土産に買ってきたのです。






おじいさんとおばあさんは、今日のこの出来事を


ボブにゆっくりと


ひとつひとつ


嬉しそうに聞かせてやりました。






すると、ボブがこう言いました。






「Pardon?」






相変わらず全く言葉は通じませんでした。






でも、なんだか楽しそうな二人の顔を見て、言葉を超えてキモチが伝わり


なんだかボブもあったかい気持ちになって「Hahaha!」と笑ったのでした。






その日の晩ごはんはホットドッグ。


皆でおいしくホットドッグをチンして食べましたとさ。






ちなみに


キツネの親子がわざわざ運んできてくれたブドウは


エキノコックスという寄生虫によって引き起こされる感染症が心配のため


きれいさっぱり捨てました。






お陰で病気にもならずに、二人ともその後も楽しく健康に働き続けたのでした。


めでたしめでたし。