誇大妄想 | 高橋いさをの徒然草

誇大妄想

相模原の障害者施設殺傷事件の被疑者U(26)が、事件の前に衆議院議長の公邸に持参したという手紙を読んだ。わたしは精神分析医ではないが、この文章が本気で書かれたものだとしたら、明らかにUは「誇大妄想」と呼んでいいのではないかという感想を持った。「障害者は不幸を作ることしかできません」という部分はUのまったくの独断に他ならず「そんなこと第三者のお前に決められないじゃないか!」と思う。つまり、現段階では、Uはまったくの独断と歪んだ思い違いによって本件犯行に及んだとしか思えない。その身勝手さは殺傷した人々の人数に表れている。

事件の全貌はまだ闇の中にあるが、本件に関して裁判所はどんな判決を下すのだろうか。「二人殺害で死刑」の量刑相場に鑑みると、19名殺害は文句なく死刑に相当する事案である。しかし、Uの手紙や言動、大麻使用の過去、そして精神鑑定の結果などを根拠に弁護側は当然「犯行当時、被告人は心身耗弱状態にあり、責任能力はなかった」と主張するにちがいない。そして、もしも裁判所がその意見を採用したとしたら、量刑は死刑ではなく無期懲役に止(とど)まる。そんな判決が出たら世論は黙っていないと思うが、どうか。

「ミリオンダラー・ベイビー」(2004年)の老トレーナー(クリント・イーストウッド)は、脊椎を負傷して全身麻痺に陥り再起不能の女性ボクサー(ヒラリー・スワンク)を薬物注射によって安楽死させた。自殺幇助罪、あるいは殺人罪である。しかし、女性ボクサーは暗に自ら死を望んでいたのに対して、障害者の人々はまったくそうではなかったはずだ。老トレーナーの行動には同情できる点が大いにあるが、Uのそれは比べようがないくらい自分勝手で短絡的である。最後に謹んで亡くなった方々のご冥福をお祈りする。


※事件のあった障害者施設。(「Y!ニュース」より)