再再掲・第百八十夜・『M.Butterfly(M.バタフライ)』 | 時は止まる君は美しい

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巡りあった美しい人達の記憶を重ねます・・・
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2013年2月10日記事

2021年4月14日再掲

 

映画や舞台としてはそれで成り立つけど、

現実の事件としては、やっぱり「そりゃ、知ってたでしょ」

と、いつも思っちゃいますねえ。

 

 

 

「恋」というもののとらえ方で、事実を元にしてるって点で、

少し『アデルの恋物語』を想い出したりも・・・

 

 

 

愛はかげろう

 

長々と前置きに「蝶々夫人」を拝見して・・・さて、この作品。

1993年、デイヴィッド・クローネンバーグ監督作品、  

デイヴィット・ヘンリー・ファン脚本のトニー賞受賞舞台劇の映画化

『M.Butterfly』

John Lone(尊龍、ジョン・ローン)様、

Jeremy Irons(ジェレミー・アイアンズ)様、主演。  


 

 

現実にあった事件に発想を得て書かれた戯曲で、

M.は通常、女性の敬称「Madame」の略ではなく、

男性の敬称「Monsieur」の略に使われるそうです。  



 

   

 

 

フランスの外交官の中国人の愛人が、実はスパイだったという事件。

・・・というより、その「女性」の筈の愛人が、実は男だったという事件。

↑3枚は実際のお二人の写真。

愛人が男性だった事に気がつかなかったというのが、

外交官側の主張。そりゃ、公然と「ゲイです」と言いたくなかったのが、

実際のところじゃないかい?と事件に関しては思いますが、

作品に関しては別。「ルネ・ガリマール」が「ソン・リリン」を、

女性だと信じている事が大前提。たとえ男だろう?でも。

以下、脚本から引用しつつ、映画のお写真を拝見。  


 

 

 

1964年、中国のスウェーデン大使館の庭園。

京劇の歌手、ソン・リリンが「蝶々夫人」を演じ、

「ある晴れた日に」を歌う。

 

 

 

 

「マドモアゼル・ソン、すばらしかった」(略)

「僕が言いたいのは、美が実感できたって事です。

彼女の死の美しさ。真の自己犠牲だ。

くだらん男だが彼女は愛してしまった。

とても美しい」

「そう、西洋人にとってはね」

「というと?」

「お気に入りの夢物語じゃなくて?

従順な東洋の女と残酷な白人の男」

「そうは思わないね」

「こう考えてみて。チアリーダーの金髪娘が

日本の小男のビジネスマンに恋をする。

結婚後、男は妻を残し帰国して3年。

ケネディ家の求婚さえ断り、彼女は夫を待つ。

やがて夫の再婚を知った彼女は自殺する。

救いようもなくバカ女だと思うでしょ?

でも、東洋の娘が西洋の男のために死ぬと、

美しいわけね」

「そうだ、分かるけど・・・・・・」

「美しいのは物語でなくて音楽なのよお名前は?」

「ルネ・ガリマール」

「本物の演劇が見たいなら、京劇を見にいらっしゃい。

教養を深めにね」 

 

 

 


 

 


 

 

もちろん、ルネはソンの舞台に足を運び、

すったもんだ、駆け引きの後、二人は愛人関係に。

 

 







 

 

「言葉もありません。もう、勿体ぶってはいられない。お望みは何?

もう恥は差しあげました」 


 

 

 

「これから私たち、禁じられた恋路に踏み出すのね。  

運命が恐ろしいわ」

「運命なんて、僕らが自分で作りだすんだ」




 

「ルネ、教えて下さらない?」
「何だい?」

「あなたなら西洋の女も意のまま。

なのに少年のような胸の東洋の女を、何故選んだの?」

「少年じゃない。少女のようだ。

これから学ぼうとする汚れなき乙女だ」




 

 

 

子供が出来たと、大がかりな嘘まで通して、

浮気だったり、傲慢だったりするルネを騙し通したソン。

しかし、時代はますます激化し、スパイ活動では許されず、

芸術家は犯罪者という国政の元、ソンは更生キャンプへ。

ルネも外交官として失脚して、結婚も破たん。フランスへ戻る。

1968年、パリのルネの元にソンが現れる。

 

 


「バタフライ、来ると思っていた」

「奥様はどこなの?」

「ここだ。僕の腕の中にいる」

 

 

 

 

・・・って展開に。数年後、情報漏洩で、ふたりは逮捕される。

法廷に現れるソンは、髪を切り、スーツを着た男性。 

 

 












 

「ガリマール氏は果たして知っていたんですか?

あなたが男だという事を」

 

 

 

「彼は私の裸身を見ていません。一度も」(略)

「彼は東洋的な愛情表現に応じてくれました。

私が彼のために作りだしたものです」

判事が促す。

「質問に答えて。彼は君が男だと知っていたのか?」

「さあ、尋ねた事がありませんから」


 

ここからが、ジョン・ローン様の見せ場。

日本では、市村正親様が同役を演じられ、

役者として快感の頂点のシーンだと語っておられました。

護送車の中で、裸身をさらし、ルネに愛を求めるソン。

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

「あなたのバタフライよ。    

着物の下に秘められていたのは、いつも私よ。

言って、わたしが好きだと」

「私の欲望を知り尽くしたお前。

なのに分からんのか?お前は真の姿を見せた。

愛したのはお前の幻、完璧な幻。

それも崩れた」

「愛してなかったのね」

「私は女を愛したんだ。男が演じた女を。

あれに代わるものは存在しない」

ルネはソンのそばを離れる。ソンはその場に泣き崩れる。


 

続く、クライマックス。今度はジェレミー・アイアンズ様の見せ場。

蝶々夫人はソン・リリンではなく、ルネ・ガリマールだったという、

心理描写の逆転。ルネがカセットで流すのは「ある晴れた日に」

クローネンバーグ監督&アイアンズ様の「戦慄の絆」に次ぐ、

ぶっ飛ばし、自己陶酔ワールド、全開。 

 



 

刑務所のステージ。鏡を手に取り、

真っ赤な口紅を塗るルネ。

「愛が判断を歪め、目を塞いだ。だから、

鏡の中に見えるのは・・・・・・ただ一つ」

折れた口紅が床に落ちる。化粧をし、

かつらを着けたルネがなおも語る。

「私には東洋のイメージがある。

そのアーモンド形の目の奥に、今もいるのだ。

愛のために喜んで身を犠牲にする女たち。

それに値しない男のためにさえ、身を投げ出す女たち。

名誉ある死。不名誉に生きるより、その方がいい。

そして・・・とうとう・・・中国から遠い・・・刑務所の中で

・・・彼女を見つけた。私はルネ・ガリマール。

またの名を、マダム・バタフライ「」

手を合わせ、頭を下げるルネ。拍手喝采が湧きおこる中、

彼は手にした鏡で首を切る。

前のめりになる彼の首から、鮮血が流れだす。

守衛がルネの体を起こすが、彼はすでに事切れている。


時は止まる君は美しい

 

トニー賞を受賞した脚本だけに、様々な舞台の写真も。  


時は止まる君は美しい

時は止まる君は美しい

 

「マリー・アントワネットに別れをつげて」と同じ映画館で、

この作品を見たせいか、同性愛的なニュアンスが含まれるので、

連想して思い出したのか・・・なのですが、

作品自体のテーマとしては「アデルの恋の物語」が、

私の中では同じカテゴリーに属しています。  


時は止まる君は美しい

時は止まる君は美しい

時は止まる君は美しい

時は止まる君は美しい

 

「愛」を、自らが生み出した幻として捉える冷徹さ。

 

 

 

 

 

映画のキャッチコピー「愛したのはお前の幻。完璧な幻・・・。」

アデルの場合とは違って、ソン・リリンも幻を創ってはいますが。    


時は止まる君は美しい

 

作品でのソン・リリンは強制送還になってますが、

実際の事件のシー・ペイ・プー様は、6年の刑を19カ月で釈放。

ベルナール・ブルシコ様は49カ月で釈放。

それぞれ、パリでお暮らしでした。

時は止まる君は美しい

 

ジョン・リスゴー様や、アンソニー・ホプキンス様も、

ルネ・ガリマールを演じておられます。  


時は止まる君は美しい

 

護送車の場面でうならせて下さいますが、「女装」は・・・だった、

ジョン・ローン様。実際に京劇の世界におられた事があるだけに、

「貴妃酔酒」の場面では、吹き替えなしで歌われてます。  


 

 

役柄が限られる難しさか、最近はどうされてらっしゃるか不明の、

ジョン・ローン様ですが、釣瓶落とし的にB級C級と・・・

な頃の、とんでもない~!な作品群、案外楽しく拝見しました。

「上海/1920」(1992年)「ハンテッド」(1995年)等々。 


時は止まる君は美しい

 

2007年、ジェット・リー様・・・どうもリー・リンチェイ様、

李 連杰様って方がぴったりくるなあ・・・と、ご共演されてますね。

また、いつかお会い出来るかな?