日経新聞では、盛んと「経営リスク」だとか「経営継続リスク」だとかという表現を使っていますね。
われわれ会計の世界の住人は、「GC注記」(GC:Going Consern、継続企業の前提)って言うほうが、なじんでいるのですが・・・。
このGC注記、あるいは、経営継続リスクの注記に関して、どんなときに必要になるのかという点については、こちらのトピックをご覧ください。
■四半期報告書でゴーイング・コンサーン注記がキツい?
http://ameblo.jp/ir-man/entry-10127799064.html
直近の日経新聞の記事を洗ってみると、
3/17 3Qでの四半期報告書において、新たに22社がGC注記をつけたという記事が出ています。
また、ゼンテックやジャパン・デジタル・コンテンツ信託は、この記事の時点で3Qの四半期報告書は未提出だったようです。
そのほか、松本建工が経営破たん、クオンツなどが監査法人による意見不表明(四半期ではレビュー報告書であって、監査報告書ではないので、そこで表明される監査法人の結論も「監査意見」ではありません。記事中、「結論不表明」となっていました。)をくらったとしています。
さて、危ない綱渡りをしている企業にとって、その綱を両端からグラグラ揺らされるかのようなGC注記ですが、金融庁はこのGC注記のあり方を変更しようとしています。
ざっくり言うと、いわゆるこれまでのGC注記の部分については、重大なリスクが発生していたとしても、事業の継続に問題がなければ監査法人としてはGC注記をムリには求めない。
その代わり、有価証券報告書などで、会社の「事業等のリスク」の部分で、経営の継続に関するリスクが存在することを記載することが求められるようになります。
金融庁は、すでにこのGC注記に関して、財務諸表等規則の改正案や企業内容等の開示に関する内閣府令(有報の事業等のリスクについて、記載上の注意を定めています)の改正案を公表しています。
これに対応して、日本公認会計士協会でも、4/6(月)~4/13(月)まで、一連のGCに関係する「委員会報告」を改正しようと、パブリックコメントを募集中です。
■「継続企業の前提」に関連する実務指針改正案に対するご意見の募集について
http://www.hp.jicpa.or.jp/specialized_field/post_1113.html
新聞では、4月上旬にも金融庁は改正案を成立させて、前期決算、つまり2009年3月期決算から適用させたいとの意向だといいます。
ずいぶんと、猛烈なスピードで改正手続を進めていますね
やっぱり、金融危機の影響で、ほっておくと相当数の企業が、本決算で新たにGC注記のえじきになってしまうという危機感があるのかもしれません。
では、もう少し、詳しく改正案の内容をチェックしておきましょう。
財務諸表等規則(財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則)第8条の27が、継続企業の前提に関する注記の条項です。
【現行】
貸借対照表日(=決算日)において、債務超過等財務指標の悪化の傾向、重要な債務の不履行等財政破綻の可能性その他会社が将来にわたって事業を継続するとの前提(以下「継続企業の前提」という。)に重要な疑義を抱かせる事象又は状況が存在する場合には、次の各号に掲げる事項を注記しなければならない。
一 当該事象又は状況が存在する旨及びその内容
二 継続企業の前提に関する重要な疑義の存在
三 当該事象又は状況を解消又は大幅に改善するための経営者の対応及び経営計画
四 当該重要な疑義の影響を財務諸表に反映しているか否か
【改正案】
貸借対照表日において、企業が将来にわたって事業活動を継続するとの前提(以下「継続企業の前提」という。)に重要な疑義を抱かせる事象又は状況が存在する場合であって、当該事象又は状況を解消し、又は改善するための対応をしてもなお継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められるときは、次に掲げる事項を注記しなければならない。
一 (同上)
二 当該事象又は状況を解消し、又は改善するための対応策
三 当該重要な不確実性が認められる旨及びその理由
四 当該重要な不確実性の影響を財務諸表に反映しているか否か
ね 違いが分かりますでしょうか。
従来は、財務諸表等規則の条文のなかに、債務超過だとか債務不履行だとかの事象が例示列挙されていたので、監査法人サイドとしても、そうした事情を無視できなかったのでしょう。
実際にそうした状況に陥ってしまったら、GC注記を付けないと監査法人のほうが金融庁というか公認会計士・監査審査会に怒られてしまいますからね。
今度の改正案では、そうした具体例が外れているので、実際には、各種委員会報告などで手当てされることになるのでしょう。
現行規定だったら間違いなくGC注記が付くような、「短期借入金の借り換えに失敗するかも」というリスクが発生しても、銀行に代わって別の支援先を見つけてくれば、経営に問題が生じる可能性は小さいと考え、GC注記をうたないというケースも考えられます。
このへん、3/21付の日経新聞の記事は、非常に読みやすく、うまくまとまっていますので、ぜひご参照ください。
ただ、上記のような運用を緩和する方向だけだと、よりシリアスな局面になって、ようやく開示されることになり、投資家が知ったときには完全に手遅れ、というケースもありえます。
そのため、有価証券報告書に従来からある「事業等のリスク」のパートにおいて、早期に経営リスクを書かせることにする方向です(企業内容等の開示に関する内閣府令で手当て)。
【事業等のリスク】(改正案にて新設)
提出会社が将来にわたって事業活動を継続するとの前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況その他提出会社の経営に重要な影響を及ぼす事象(「重要事象等」という。)が存在する場合には、その旨及びその内容を記載すること。
【MD&A(財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析)】(新設)
「事業等のリスク」において、重要事象等が存在する旨及びその内容を記載した場合には、当該重要事象等についての分析・検討内容及び当該重要事象等を解消し、又は改善するための対応策を具体的に記載すること。
上記、「記載上の注意」に対応して、「企業内容等の開示に関する留意事項について」(平成11年4月 大蔵省金融企画局)というのが出ています。今回、これにも手が入り、事業等のリスクについての個別的な具体例に関しては冒頭でご紹介した別トピック で書いた内容が取り込まれています。
MD&Aについての取扱いガイドラインに関しては、次のような内容が新設される予定です。
「当該重要事象等を解消し、又は改善するための対応策」については、当該提出会社に係る財務の健全性に悪影響を及ぼしている、又は及ぼしうる要因に関して経営者が講じている、又は講じる予定の対応策の具体的な内容(実施時期、実現可能性の程度、金額等を含む。)を記載すること。なお、対応策の例としては、おおむね以下に掲げるものがある(ただし、これに限るものではないことに留意する。)。
(1) 資産の処分(有価証券、固定資産等の売却等)に関する計画
(2) 資金調達(新規の借入れ又は借換え、新株又は新株予約権の発行、社債の発行、短期借入金の当座貸越枠の設定等)
(3) 債務免除(借入金の返済期日の延長、返済条件の変更等)
(4) その他(人員の削減等による人件費の削減、役員報酬の削減、配当の支払の減額等)
うーむ・・・。
こうした例示を見てみると、事業等のリスクでGCリスクについて触れてしまうと、MD&Aのパートでかなり突っ込んだ対応策に関する記述を、自動的に求められてしまうということになりますねぇ。
まぁそれ以外の、一般的な事業リスクならいいのでしょうけど。
基本的には、事業等のリスクは監査対象外なはずなので、どこまで書かなければならないか、あるいは、経営陣も訴訟リスクを避けるために、あらかじめ事業等のリスクにそれとなく書いておくとしても、どの程度で済ますか、というところが微妙な勝負になってきそうですね。
監査法人からのお助けもあまり期待できなそうなパートですしね。
これについては、今後の(実際に破綻した企業がどう書いてあったかという)事例を待たなければならないように思われます。
いずれにしても、バックデートで前期決算(2009年3月期決算)の有価証券報告書での対応を求められることになるのでしょうから、GCの一歩手前みたいな記述をするかしないかのギリギリの判断に関しては、財務報告に係る内部統制との関係も出てくるように思われ、一層、開示実務に関して混迷の度合いが深まりそうな気配です。
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