【南北間対話の進展と米朝関係の見通し、「一帯一路」と朝鮮統一について】

北朝鮮の金正恩委員長が、1月1日の年頭演説で、韓国で開催される平昌オリンピックに代表選手を派遣することを発表、それを受け、9日に両国間で閣僚級会談が行われ、南北間の対話ムードが拡大しています。

10日、韓国の文在寅大統領は、北朝鮮の対話姿勢を歓迎し、条件が整えば首脳会談の開催もあり得るとする一方、アメリカの強硬姿勢が北朝鮮の対話姿勢を生み出したとしてアメリカを持ち上げ、アメリカへの気遣いも示しました。

これに先立つ1月5日に、6カ国協議の中国側主席代表と韓国側主席代表とが会談しており、文在寅大統領の10日の発言は、北朝鮮問題を外交を通じて解決しようという中国側の配慮と調整が反映していたのかも知れません。

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今回、北朝鮮が、アメリカに対する強硬姿勢から一転して韓国に対する対話姿勢へ変化した理由は、北朝鮮がアメリカ本土を攻撃出来る核兵器と弾道ミサイルの開発を完了したからです。

北朝鮮の移動式弾道ミサイルは、地下トンネルと山岳地帯に隠されており、アメリカは、軍事力を使って、北朝鮮の核兵器と弾道ミサイルを取り除くことは出来ません。そのため、もしアメリカが北朝鮮を攻撃すれば、北朝鮮は、アメリカ本土に対して核ミサイルによる報復攻撃を行うことになります。報復を恐れるアメリカは、北朝鮮を攻撃出来ません。

北朝鮮がすでに核兵器の小型化に成功しているかは不明ですが、北朝鮮の最新の弾道ミサイルは、非常に大型化しており、核兵器搭載の可能性は高いと思われます。

また、北朝鮮が大気圏再突入の技術を得ているかも不明ですが、もし得ていないとしても、北朝鮮は、アメリカ上空の大気圏外で核兵器を起爆し、「電磁パルス攻撃」を行うことが可能です。電磁パルスによりアメリカの電力網・通信網・経済システムが破壊され、最悪の場合、アメリカの全人口の90%が餓死すると予想されています。

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アメリカは、これまで一貫して、北朝鮮が核兵器を放棄することを話し合いの条件としていますが、北朝鮮が核兵器を放棄することはないと思われます。もし北朝鮮が核兵器を放棄すれば、アメリカの攻撃を受けるからです。北朝鮮は、核兵器が交渉の対象となることは絶対にないと明言しています。

アメリカは、平昌オリンピックおよび南北間対話の間は、米韓合同軍事演習を行わないと発表しました。今後、もしアメリカが米韓合同軍事演習を再開すれば、対抗上、北朝鮮も、核実験と弾道ミサイル実験を再開することになるでしょう。その場合、北朝鮮の核兵器と弾道ミサイルの開発がさらに進むことになります。

一方、中国とロシアも、朝鮮半島の非核化を目標としています。しかしながら、非核化の時期については明確にしていません。むしろ核保有国である中国とロシアは、北朝鮮が、これ以上核兵器と弾道ミサイルの開発を進め、核ミサイルの多弾頭化や大気圏再突入の技術を確立する事態だけは避けたいと考えていると思われます。

そのため、中国とロシアは、当面、北朝鮮とアメリカの話し合いの開始を求めつつ、もしアメリカが対話を拒む場合には、北朝鮮が核兵器と弾道ミサイルの開発を「無期限停止」することを条件に、北朝鮮に対する制裁を解除し、北朝鮮に対する経済援助と経済交流の再開に動く可能性があると思います。

もし北朝鮮が条件をのめば、中国とロシアは、北朝鮮の核兵器および弾道ミサイルの開発を「無期限停止」させるとともに、北朝鮮を「一帯一路」に巻き込むことが可能となります。それは、「一帯一路」の進展と北朝鮮の経済復興につながります。

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現在、中国の「一帯一路」政策は、北東アジアにも及び、中国、モンゴル、ロシアの間で、道路や鉄道網の整備が進み、経済的協力関係が進んでいます。北東アジアは、経済成長の大きな可能性を秘めています。

もし北朝鮮が「一帯一路」に参加し、経済復興が進めば、南北朝鮮統一へのハードルも下がることとなります。というのも、統一に反対する韓国国民があげる理由のひとつは、統一が実現した場合の経済的負担だからです。

そして、仮に南北朝鮮が統一すれば、「一帯一路」が、韓国南端の釜山にまで及ぶことになり、釜山から平壌、ウランバートルを経由してモスクワ、さらにヨーロッパまで陸路および鉄路でつながることになります。それは、通商・交易・金融を通じ、統一朝鮮に大きな経済的繁栄をもたらすことになるでしょう。逆に、それが、南北朝鮮統一への大きな経済的誘引となるでしょう。

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このような状況の下、今後、朝鮮半島情勢は、アメリカの意向にかかわらず、事実上、中国、ロシア、北朝鮮、韓国の間で進展して行く可能性があると思います。

かつてアメリカは、クリントン政権下の1994年、北朝鮮が核開発プログラムを凍結することの見返りに日本・韓国の資金で北朝鮮に軽水炉を提供する合意をまとめましたが、現在のアメリカには、そのような外交的能力はありません。

アメリカが、国際問題を解決する能力は後退しつつあります。トランプ政権の国務省・国防省では、幹部スタッフの政治任用も遅れています。

すでに中東においてはロシアが状況の主導権を取りつつあります。東アジアにおいても中国とロシアが状況の主導権を取りつつあるようです。


参照資料:
(1) "South Korean President Moon Jae-in Says He's Open to Meeting Kim Jong Un" by Hyung-jin Kim, Time, January 10th 2018

(2) "South Korea’s Leader Credits Trump for North Korea Talks" by Choe Sang-hunjan, The New York Times, January 10th 2018

(3) "North Korea and Beyond: An Alternative Vision of Northeast Asia" by Lyle J. Goldstein, The National Interest, December 28th 2017