そして、1年半ぶりの再会。 | ★ON→バリバリやってるデキル女風☆OFF→ホントは疲れ切ってる負け犬女★

そして、1年半ぶりの再会。

金曜の夜12時。

私はずっと踏み入れることを避けていた

彼の最寄り駅までタクシーを走らせた。

ドキドキ半分

でも

思ったよりは落ち着いていた。


昔彼と何度か行った

モスバーガーで待ち合わせ

ドアが開くたび

ドキドキして

待つこと数分


1年半ぶりに会う彼の姿、

顔を上げて、私は精一杯笑いかけた。

相変わらず無愛想な彼。

でもわかってる

本当は彼も

落ち着かないってこと。


斜めに向かい合って

私はうつむいたまま

彼は無言でオレンジジュースの氷をストローでかき混ぜた。

懐かしい沈黙。


どうしたの。


抑揚の無い声で彼がボソッと言った。

私は弱弱しく笑った。


久しぶりだね。

元気だった?

仕事、忙しそうだね。


そんなことないよ。

ふつう。


うまい言葉が見つからなかった。

少し考えて、

私は言葉を選びながら

少しずつ心の中のものを吐き出した。


話し出したらきっと泣いちゃう、

そう思っていたけど

以外にも淡々と私は話していた。

時をさかのぼって

この1年半分の仕事のいきさつを簡単に話し終えた私に

彼が顔色ひとつ変えず言った。


だから言ったじゃん俺が。


彼のお得意のセリフ。


ううん、ちがうよ。

私が悪いの。

私のキモチの問題。


彼は昔のように

優しい言葉すらかけず

辛らつな言葉をおしならべる。

落ち込んだときには

さらに辛さを後押しする。

昔からそう。


でも、この日の私は

それもすぅーっと

心の中に染み渡ってきた。


そうだね・・・


30分少々、

店が閉店の時間になった。

時計を見ると一時。


出ようか・・・


私たちは店の外に出た。

ずっと近寄りたくなかった彼の街。

なんか、少し風景が変わっていた。

他に行く店があるわけでもなく、

私は彼の後ろをついて寒空の下を歩いた。


あんた、香水つけてる?


え?あ、うん・・・


女は敏感だからな・・・


直ぐに彼が何を言おうとしているかがわかった。


俺んち、くれば?

他に行く店もないし


ほら、ね。

でも、少し怖かった。

最後に彼の部屋に足を踏み入れたのは1年半前の夏。

彼と抱き合って目が覚めた次の日の朝

バイバイも言わず、そのドアを開けた

あの日以来だった。


懐かしい景色

懐かしい匂い

私は恐る恐る彼の部屋に足を踏み入れた。


声、出さないで、少し


彼が電話をかけ始めた。

私と話している間

4回もかかってきていた電話


私の隣で

彼女に電話をする彼


私は押しつぶされそうになっていた。


部屋を見渡す勇気もなくて

私はソファに腰掛けても

ずっと顔を上げることができなかった。


彼と一緒に不動産に付き合って決めた部屋、

一緒に選んだ机、テーブル、ソファ、ベッド、棚、

DVD、ラック・・・

部屋のほとんど全てのもの。

彼がこの部屋に越してきてからずっと

私はほとんどの買い物に付き合い

ほとんど毎日この部屋に通っていた。


置いてあるものは何も変わっていなかった。


ただ

私の目に飛び込んできた

テレビの上に飾ってあった

彼女とふたり並んだ写真。


私は直ぐに目をそらした。


私が通っていた頃と同じように

彼はテレビをつけて

部屋着に着替え

ベッドの上で録画していた番組を見ながら

私に話しかける。

ずるい。

私がプレゼントしたベッドカバー、シーツ、枕カバーもそのまま。

変えればいいのに・・・私もそこで寝ていたのに。

だんだんと息苦しくなって

私は再び床に目を落とした。

それでも飛び込んでくる

化粧品

女性誌

料理レシピ本

そして

結婚式場のパンフレット。

私はぎゅっと目を閉じた。

どうしたのあんた、いったい。

わかんない・・・

でも

もう、自分をどこにもっていったらいいか

そのモチベーションもなくて

今は心のよりどころもなくて・・・

結局そこかよ・・・

彼はその瞬間、

私の気持ちを読み取った

ごめん、帰るわ。

ありがとう。

私はソファから立ち上がった。

この部屋にいたくないの・・・

彼の顔も見ないで、私は彼の部屋を出た。

結局そういうことだった。

私をここまで頑張らせてきたものは彼。

彼を追って東京を出てきて

彼のマンションの近くに部屋を借りて

同じような業界に入って

お互いライバル

会えなくなってからも

彼に負けたくない一心で

新しい仕事も

頑張ってきたつもりだったけど。


もう、その一筋の糸も切れてしまった。


私のモチベーションは彼だった。

私の東京での生活の全ては彼だった。

彼なしで、私はここにはいられなかった。


彼の生活から私がいなくなって

絶対彼を後悔させる。

私なしで

彼が幸せになることは許さない。


そんな恨みにも似た執着。


でももう

彼女と幸せな道を歩き始めてる彼を

こうやって目の当たりにして

私は全身の張り詰めていたものが崩れてしまった。

彼が私のところに戻ってくることももう二度とない。

0.1パーセントのかすかな期待だけを心の支えに

私は彼と会えなくなった時間を過ごしてきた。

それだけが

私を動かすモチベーションだった。


私は全てを失った気がした。


でも、これでよかったのかもしれない。


彼に会って

少し肩の荷が軽くなった。

別にいいや

彼じゃなくても。

ほんの少し、そう思えた。

会えない時間、ずっと私は仕事に自分の全てを投じてきた。

仕事で結果を出すことが、

彼の中で私を生かし続ける唯一の方法だと思ったから。


もう、わたし、頑張らなくていいのかな。

ふわっと、身も心も軽くなった。

といえば聞こえがいいけど

つまり

やる気も何もかも

私はなくしてしまった。


家について、私は彼にメールを送った。


付き合ってくれてありがとう。

少しキモチが楽になったよ。

元気そうでよかった。

おやすみ。


気の利いたことは何も言えないけど・・・

俺でよければいつでも話し聞くよ。

またゆっくりメシでも食いに行こうぜ。

でもあんたの根本的な部分に問題がありそうだけど・・・


言い方はキツいけど

確信をついたアドバイスをくれる彼。

彼なりに気を利かしているのはわかっている。

でも

私を部屋に入れたことが

私にとっての「彼の気の利かない」部分。


根本的な部分。

そうかもね。

欠陥だらけだからね、私。


欠陥というか・・・

俺のせいなんでしょ・・・


彼はわかっていた。

私の気持ちが残っていることも、

これまでの私を奮い立たせてきたものが彼であったことも、

意地とプライドで塗り固められた私の内のものは

実はボロボロであることも。

全部全部、彼はわかっていた。


でももう、今更これ以上優しくできない。

彼も私もそれはよくわかっていた。


私自身の問題だよ。

おやすみなさい。


終わりにしなきゃ。

本当に。


頭ではわかってる。

この目で確認して、それも認識したのに。


とにかくめまぐるしい1日、

私は脳が疲れ切って、死んだようにそのまま眠った。