観戦記 サウル・アルバレスvsリアム・スミス | ボクシング独我論~最高の技術と,戦術眼と,知識を,君に~

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試合結果:アルバレス9回KO勝利





初回、カネロの立ち上がりの出方はスナッピーで多角的なコンビを活かした目眩ましのフラッシュ攻撃。
上体打ちとブレーキング、グローブの重さを効かせたパンチでペースの先取、そしてあわよくば、だがダメージングからの短期決着までを狙っていたと思う。

シャープなパンチで出鼻を叩いて、シフトウェイトからフルショットのパンチを叩き込む。リング中央で相手を迎え撃つ、正面突破と一点集中のパワーボクシングの片鱗を見せたが、スミスのディフェンスが意外な冴えを見せる。

カネロのスピーディーなパンチと多彩なコンビネーション、フルショットパンチの剛力があれば並の選手のディフェンスを崩すのなんて赤子の手をひねるようなもの。しかしスミスのディフェンスはその辺の選手のハンドディフェンス、脚を止めたままパンチに反応し、ガードを動かしてのブロッキングとはレベルが違った。
上体で作ったブロックを保持しながらボディワークでパンチを外し、常に前後のステップとピボットを連動させながら複合的に守るスミスの角度とポジショニングの見事なディフェンス。



スミスの実力は、カネロにとっては予想以上のもので、ハッキリ言って、この時点で誤算があったのではないか。
私もカネロの圧倒的なハンドスピードに対するスピード差、パンチの交換での劣勢、ディフェンス面を心配していたが全くの杞憂に終わった形。
確かに何時見ても素晴らしいボクシングを見せていたスミスだが、対戦相手はローカルレベルの選手ばかり。カネロほどの選手相手でも、これ程難なく適応してみせるとは驚きだ。やはりボクシングはフレームワークだ。



2回の立ち上がり、カネロの1stアタックの左フック、サイドステップからの重心を移して繋ぐ右ストレートに対し、左フックにはウィービング、シフトにピボットで反応し事も無げに完璧なディフェンス。
一呼吸間をおいてジャブを放ったカネロに左フックを合わせると、反転して守るカネロに対しジャブを追撃、重心を押し込み足場を固めて右ボディストレートをフォロー。これに対しカネロも熱気のこもった高血圧なラッシングで押し返し牽制。

試合が動き出す予感。そしてカネロの驚きと焦りを感じる、この試合で最も印象的なシーン。
スピーディーな連打で押し返そうとするカネロ、圧力を強めるスミスと激しいペース争いが熱を帯びる。


3回終盤にはカネロの左アッパーに対し、右アッパーを見事アジャスト。左右連打、クロスのフォローで押し返す芸当を見せるスミス。

「勝手が違う」、「こんなはずでは」、多少やるとは思っていただろう。しかし予想を遥かに超えるスミスのディフェンスの確かさとシフトと同時に打ち込む鋭いカウンター、包括的で穴のないボクシングにはカネロも心底驚いたはずだ。

ジャブから手堅く入り、上体を落とし込みながらエッジーなアッパー、フック、角度のあるクロスに繋ぐスミスのアタックを受け止め、時に打たれながらも最大限に迎撃のバランスを意識しパワーカウンターと高速連打で対抗する粘りのボクシング。

はっきり言って、4回~7回1stダウンのシーンまではギリギリの勝負だった
流れを掌握され、ロープ際まで押し込まれながらも要所要所で印象打を奪い、時にラッシングパワーをフルに発揮しリング中央まで押し返す。体力、ポイント、ダメージとスタミナの残量、回復のペースを頭に入れ、各局面でのパンチングパワー、コンビネーションのボリュームとエネルギーを配分(もちろん等分って意味じゃない)。

派手なダウンシーン、KOシーンには言及不要でしょう。カネロのパワーやスピード、多彩なコンビネーションや洗練された動作についても。
過去最強の難敵を相手に、劣勢を跳ね返しギリギリの勝負を手繰り寄せた心身のタフネス、正解を引き当てる勝負勘は素晴らしかった。

ミドル転向、なんて辞めてくれよ。SWの方がまだマシじゃないか。