2015年1月17日(土)に実施された、平成27年度大学入試センター試験「国語」の古文『夢の通ひ路物語』について、本文の現代語訳を作成いたしました。

出来事の前後関係などは違っていますが、『源氏物語』の桐壺帝-藤壺-光源氏-後の冷泉帝の関係を連想させる、厄介な人間関係・恋模様が描かれています。

こちらの訳は取り急ぎ作ったもので、自信のないところもございますが、設問選択肢との整合性は取るようにしています。センター試験や同日模試を受験された皆さんの内容把握・概要理解にお役立ていただけたら幸いです。

誤訳など、お気づきの点はコメントなどでお知らせいただけましたら幸いです。よろしくお願いいたします。

なお、2015年センター漢文の現代語訳もあります。

リード文 ==============

次の文章は『夢の通ひ路物語』の一節である。男君と女君は、人目を忍んで逢う仲であった。やがて、女君は男君の子を身ごもったが、帝に召されて女御となり、男児を出産した。生まれた子は皇子として披露され、女君は秘密(解説者注:実は、天皇の子でなく男君の子であること)を抱えておののきつつも、男君のことを思い続けている。その子を自分の子と確信する男君は人知れず苦悩しながら宮仕えし、二人の仲介役である「清さだ」と「右近」も心を痛めている。以下の文章は、それに続くものである。

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(男君と女君は)お互いに恋しく思いが募りなさることが様々にあるけれど、夢以外で逢瀬を遂げるということのできる身ではないので、現実に約束したことも叶わず絶えてしまったつらさばかりを思い続けなさり、大空ばかりをぼんやりと眺めつつ心細く思い続けていらっしゃった。

男君にとっては、なおさら恨めしく、どうにもならない恋の苦悩に加えて、皇子のご様子もとても身の縮むような思いであって、自分自身の顔も皇子のお顔にそっくりだと思われるので、ますます「真実をはっきりさせたい」と思い続けなさるけれど、相談相手の右近さえ昔のようにはご連絡申し上げないので、「体裁の悪いことだし、今さら言い出すと、ばかげた話だと困惑されるだろうか(※この部分は自信がないです、すみません)と遠慮せずにはいられなくて、清さだにさえ、心を打ち解けてお話しになることはなく、ますます物思いを募らせておいでである。

こちら(女君)の方も、絶えず思い嘆いていらっしゃるけれど、その悩みの何を漏らしなさるだろうか、いや、ひた隠しにしていらっしゃる。女君が帝の寝所にたびたび召されて、自然と帝のそばにいらっしゃることも多くなり、帝のご愛情がこの上なく深くなっていくのも、本当に苦しいことで、恐ろしく、人知れず悩ましく思いなさって、ちょっと自室に下りなさった。

人少なで、しんみりと物思いにふけっていらっしゃる夕暮れに、右近は女君のおそばに参上して、髪を整え申し上げるついでに、例のこと(男君のこと)をほのかに申し上げる。

「このたび男君を拝見したところ、男君のご両親が気に病んでいらっしゃるのももっともなことでございます。本当に痩せておしまいになり、顔色もこの上なく真っ青であると拝見しました。清さだもしばらく無沙汰でしたので、『男君はどのようにあきらめなさったのだろうか』とここ数日は気がかりで恐ろしく思わずにはいられませんでしたが、やはり男君はこらえ切れないでらっしゃるのでしょうか、昨日、清さだが手紙をよこした中に、このようなもの(後に出てくる男君の手紙のことか)がございましたわ。(清さだの言葉には)『本当に、男君が患っていらっしゃることは、日数が経ち、言葉にする甲斐もなく、拝見していても心苦しくて。参内すれば、皇子がとても可愛らしくまとわりつきなさるので、長らくお籠りになることもないのが、この頃は、連続して参内なさることもできないで、ひたすらに患い、苦しみを募らせていらっしゃる』とございました」

と言って、男君のお手紙を取り出したけれど、女君は、かえってつらく、そら恐ろしく思うので、「どうして、こんな風に連絡するのだろうか」と言って泣きなさる。

右近も、「今回が、最後でございましょう。あなた様がご覧にならなかったら、罪深いことであると男君はお思いになるでしょう」と言って泣き、「昔のままのご関係でしたら、このようにすれ違い、どちらにも苦しいお気持ちが募るでしょうか、いや、そんなことがなくて済みましたのに……」とこっそりと申し上げるので、ますます恥ずかしく、実に悲しくて、振り捨ててしまわないで、手紙をご覧になる。

「《和歌》『そうはいっても(また逢いましょう)』とお約束した甲斐もありません。(落胆した)私の亡き後には、せめて、世間の普通でないほどの深い物思いをしてください

あなたが入内して私の手の届かないところに行ってしまって、遠いの人として拝見するばかりで、帝とあなたの前で笛を演奏したあの夕べから、心地も乱れ、患うように感じておりますので、程なく我が魂が辛いこの身を捨てて、君のあたりにさ迷い出でてしまったら、私の魂をこの世に引き留めてください。もう惜しくはないこの命もまだ絶え果ててはいないので」

などと、しみじみと、普段よりいっそう見所がある感じで書いていらっしゃるのをご覧になると、これまでのことやこれからのことが全て涙にかすみ、女君は袖をひどく濡らしなさる。右近は、女君が横になっていらっしゃるのを拝見するのも気の毒で、「前世がどのようであってのご宿命なのだろうか」と思い嘆くようである。

「人目がないうちに、さあ、お返事を」と右近が申し上げると、女君は心も慌ただしく、

「《和歌》『思わずに隔たってしまったことを嘆いていたら、きっと私の命はあなたの命と一緒に消え果ててしまうに違いない』 私はあなたに死に遅れるつもりはない」

とだけお書きになるのだけど、お手紙として結びなさることもおできにならず、深く動揺なさって泣き入りなさる。

「このように言葉少なく、まとまった長さもないけれど、男君はいっそうしみじみと愛おしくも、気の毒にも、この手紙をご覧なさるだろう」と、男君と女君のそれぞれに思いをいたすにつけても、悲しく見申し上げた。

(夢の通い路物語)

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都内の大学受験塾に勤務する他、隔週月曜13時に東急セミナーBE古典入門講座を担当しています。また、吉祥寺 古典を読む会も主宰しております(1月18日(日)14時『南総里見八犬伝』)。