黒澤明生誕100年ということで、『隠し砦の三悪人』 | 平平凡凡映画評

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映画を観ての感想です。

【タイトル】『隠し砦の三悪人

【評価】☆☆☆☆(☆5つが最高)

【監督】黒澤明

【主演】三船敏郎

【製作年】1958年


【あらすじ】

 戦国時代、秋月家と山名家の戦は山名の勝利に終わった。だが秋月家の雪姫と莫大な財宝は行方知れずとなる。そして山名の兵士は雪姫と財宝の発見に手を尽くした。その頃、戦場から逃げ出した太平と又七の二人は、偶然の川原で枝の中に隠された黄金を見つける。喜びを爆発させる二人だが、彼らの前に真壁六郎太と名乗る男が現れる。そして二人は六郎太の言葉に乗せられ、秋月家の同盟国である早川家へ財宝と雪姫を届ける羽目になる。


【感想】

 黒澤明の生誕100周年ということらしい。100周年を記念して、東宝の映画館で多くの黒澤作品が上映されていた。黒澤明の名前はよく耳にしていたが、リアルタイムではほとんど観たことがなかい。黒澤明の全盛期は、1950年代から1960年代までと言われたりする。晩年は作品自体よりも、監督の武勇伝や伝説で話題となることが多かったようだ。


 遺作は1993年に公開された「まあだだよ」。公開年を考えれば観ていてもおかしくはないのだが、ほとんど気にもかけていなかった。何となく所ジョージが出演したことを覚えているくらい。ある年齢以上になると、黒澤明の神通力は通じなくなるのだろう。辛うじて世界の有名監督や大スターが、黒澤明云々という絶賛の言葉で“世界のクロサワ”の存在を知るくらいだったりする。


 それでも黒澤明の名前を連呼されると、どんなものなんだろうという気が起こってくる。少なくても映画が趣味と言うからには、一応黒澤明という古典を知っておいたほうがいいのかもという貧乏臭い考えも浮かんでくる。自分が始めて観た黒沢作品が何だったのか今では全く覚えていない。ビデオで観たのは確かだと思うのだが、作品名は思い出せない。おそらくは「羅生門」だったような気がするくらい。


 実際、映画館でリバイバル上映される黒澤映画を観るようになると、“世界のクロサワ”の意味が少しずつ分かってきた。黒澤明の映画は面白い。多分偉大だ。ストーリーの線が太く、展開のリズムが力強い。大きな波に乗っているような気持ちになる。そして多くの作品に主演している三船敏郎がこれまたカッコイイ。背筋がピンと伸びた立ち姿に、本物の侍を見たような気がする。多くの外国人が侍見たさに来日する気持ちが分かる。


 そしてこの「隠し砦の三悪人」の三船敏郎も格好よかった。立ち居振る舞いを見ているだけで、存在感がありありとしている。ジョージ・ルーカスが惹かれたのも理解できる。物語はエンターテイメントのど真ん中を行っている。戦場から命からがら逃げ出した足軽二人のやり取りはほとんど漫才といった感じ。大きなボケに、大きなツッコミ。ドタバタ調のコントを見せている。世界中で理解される笑いともいえそう。


 2008年に阿部寛や長澤まさみの出演でリメイクされている。ストーリーの質はリメイク版の方が面白いような気もしたが、興行的には今ひとつだったよう。確かに小ぢんまりとしているような印象はあった。それと出演者が今の日本人ぽくなっていた。現代を生きる若者には通じても、それ以外の広い世界では無視されてしまうのだろう。


 そして黒澤版の「隠し砦の三悪人」には、時間への抵抗力があるような気がした。他の多くの黒澤作品にも言えることなのかもしれないが、当時の世界で受け入れられただけでなく、ある程度の時代を超えて生き残る映画なのだろう。今観ても十分楽しめる。また黒澤明が集団を巧みに動かすことに驚かされる。エキストラの質が高いように思える。手を抜いたところのない、隙の少ない映画といえそう。時間を忘れて楽しめる。