このブログ自体もしばらく更新しておりませんでしたが、再開第一回は、更にその前身の「北京で考えたこと」の好評(??)連載、「ドラマからみた中国」シリーズ、今回は昨年から放映され大ヒットしたと「虎妈猫爸(Tiger Mom)」です。ちなみに前回のドラマから中国エントリーは4年前の8月、もう随分経ったんですねえ。きちんとドラマを見終えたのはその頃以来というから久々です。4年もご無沙汰すると新しい中国語ボキャブラリーも随分あるもので、中国語の勉強にも大分役立ちました。

humamaoba1ベトナムZingTVで見たのでタイトルもベトナム語字幕付きです


 今年5月に放映され始めて中国国内で大ヒットしているこのドラマ。自分が見始めたきっかけは、ベトナム人であるうちの妻が「これ面白いよ」といって薦めてきたこと。今回はZing TVで全て見させてもらいました。ベトナム語の字幕も付いているので相当多くのベトナム人も観ていたよう、まあ便利な世の中になったものですねえ。今後も使わせて頂きます。

 主人公の女優は赵薇、そして董洁と豪華キャスト。個人的には赵薇は(いまだに)「情深深雨蒙蒙」のイメージで今もいる赵薇が、すっかりお母さん役なのは驚きですが、1976年生まれ(自分と同い年)なんだから当たり前といえば当たり前なんですけどね。けど気の強いタイガーママの役柄にはピッタリですね。男性の主人公は佟大为、「八〇後」として紹介した「ドラマからみた中国(6)「80後」を考える「奮闘」と「婚姻保衛戦」の恋愛・結婚模様」でも主役でしたお馴染みの顔です。確かに超ハンサムというわけではないところ(笑)も含めて、ねこパパの親しみやすさを感じます。

humameoba2赵薇もママ役ですかあ、でも変わらぬ美人ぶりです(笑)


 ストーリーの基本は至って明快、「子どもの教育をどうするか」。幼稚園から小学校に上がっていく年頃の女の子(一人っ子)の教育を巡り、「競争社会を強く勝ち抜いていける強い子ども」を目指す教育熱心なタイガーママと、「小さいころは楽しい子ども時代を過ごせばイイ」と思っている、けど妻と周りの勢いに飲まれる弱い立場のネコ型パパの対立に、双方のおじいちゃんおばあちゃん、親戚一同、昔の彼女や会社の同僚、学校の先生やらクラスメートの親御さんまでガツガツ、ドタバタと入ってくるというお話です。

 古くて新しいテーマだとは思いますが、やはり色々な現代的エピソードが散りばめられています。やはり出てくるのは、現代の都市部中国人からは切っても切れない不動産の話題。特にビックリしたのは「学区房」を巡る話。学区房とは、中国でのエリート校である「重点学校」の学区内にある不動産物件のこと。そういったエリート校に子どもを入れやすくなるということで、不動産物件の「付加価値」となっているわけです。

 ドラマでは「重点小学」に我が子を入れるために、ボロい同校学区のマンションの部屋を買うのですが、価格は平米辺り9万元(180万円)!それまで住んでいた郊外の広々して素敵な部屋を売り払って、父親の両親から60万元も支援してもらい、やっとのこと50平米の手狭な部屋を、つまり約9000万円(!?)の部屋を手に入れるわけです。タイガーママは売り払う部屋を去る際に娘に言います、「手放してしまうこの部屋に報いるためにも、一生懸命勉強しなさい」。6歳やそこいらでそんなこと言われたくないもんですよね。

 ドラマの話題だしホンマかいなと思い中国での各種報道を見ると、この「学区房」現象は結構広くにあるよう。鳳凰網が7月31日に引用したニュースでも、全国の大都市で学区房の値段が上がっており、10万元/平米を超えることも珍しくないと有ります。人民元高のせいもありますが、もう平気で「億ション」のレベルで日本人にもちょっとそっとでは手が出ません。ドラマとはいえ、こういう価格帯がリアリティーのある今の北京、確かにストレスはありそうですね。

 その他にも、重点校に入れるために学校関係者や教育行政関係者とコネを作ろうとしたり、或いは学校に入ってからも「家长会」(保護者会ですね)で学校教育にツッコミを入れまくるタイガーママたち。既に一人っ子政策が長く、少子化が懸念されるまでになった中国の人口構成と、可処分所得の上がる都市経済の中で、子どもの教育熱が相当激しいことが、面白おかしく伺える楽しいドラマでした。

 ドラマにお決まりの結婚だ、離婚だ、或いは「职场剧(職場劇)」と言われるオフィス内での人間関係や利権争いといったエピソードも色々盛り沢山なのは、もちろんのお約束。人気も出たのでか結局全部で45話構成とは、まあ長いのですが、個人的には気に入ったものであれば割と長くなるのは気にならず、感情移入もしやすくなるので悪くはありません。

 最近久々に北京に遊びに行ったのですが、北京の友人も「子どもは一人で十分」と話していましたが、確かにその一人にかけるお金と、そして時間と体力を考えると一人以上は難しいかなと思わされるほどの教育クレイジー振りがドラマでは展開されます。もちろんドラマの筋立てとしては、子どもへの過剰な圧力を諌めるような展開にはなるのですが、中国の、そしてそのドラマを結構見ているベトナム都市部の親御さんたちの中にも、結構過熱してしまっている人が多いからこそ人気がでているのと感じます。タイガーママ的なやり方に皆が疑問を持ちながらも、周りに流されながら子どもに勉強を強いているということなのでしょう。

 中国の現代ドラマは基本的に好きなのですが、都市生活を描いているということもあり、また世代が自分と近い人たちを描いているということもあり、これほどドラマの内容が身近に感じられるのも新鮮でした。自分が初めて中国・北京に行ったのはほぼ20年前、その時は何もかもが異質に見えましたが、最近は同じような問題を、かなり似たような肌感覚で感じているのかなあと感じます。違いはもちろん沢山ありますが、悪い意味で違いばかり、或いは「トンデモ話」ばかりが強調される中国の紹介のされ方、こんなドラマを見たら「そうそう、お互い大変よねえ」なんて世間話が国境を超えてできるような、そんな気がします。