Fri 140425 パリも混乱のさなか 危機一髪を何とも思わない(ヨーロッパ40日の旅33) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Fri 140425 パリも混乱のさなか 危機一髪を何とも思わない(ヨーロッパ40日の旅33)

 今井君の疑似放浪の旅は、こうして最終目的地のパリに行き着いた。マルセイユを午前10時に出て、パリ・リヨン駅には14時過ぎの到着。大ストライキのスキマを見事に縫って、「さすがに旅の達人」という実感がある。
 ところが、いざパリに着いてみると、滞在予定のホテルに向かう地下鉄が動いていない。地下鉄の入口には黄色いビニールテープが汚くゾンザイに張られ、おそらく「立入禁止」という意思表示である。マルセイユの大ストライキがTGVを追い抜いて、すでにパリにも波及してしまったのだ。
 リヨン駅がダメなら、近くにオーステルリッツ駅がある。小さな川を一つ渡ればすぐそこだし、メトロ10号線に乗るならオーステルリッツのほうがいい。滞在予定のホテルは、10号線のシャルルミシェル駅から至近である。クマ蔵はスーツケースを引きずって、徒歩でオーステルリッツを目指した。
エッフェル塔1
(パリに到着。まずエッフェル塔に挨拶にいく。あの頃パリは、2012年オリンピックの候補都市だった)

 パリはもうすっかり春の雰囲気である。思えばちょうど30日前、夜のベルリンに降り立ったときには、真冬のドイツの風は一瞬で凍りつくほどに冷たかった。1ヶ月の間に、ヨーロッパは一気に春に変わったのである。
 今回の旅のコンセプトもそれだった。真冬のドイツに降りて、イタリアに向かって大きく南下。しかし早春のイタリアを吹き荒れる風に凍える思いを繰り返し、ローマ☞ナポリ☞リビエラ☞コートダジュールを通過しながらどんどん春が深まって、マルセイユ☞パリで春本番を迎える。
 そういう「真冬から春へ」がコンセプトだったのだから、いま降り立ったパリの汗ばむほど暖かい空気は、まさに予定通りである。ただし予定に一切なかったのは、フランス全土を覆ったこの大ストライキ騒ぎであり、鉄道がことごとく停止する事態である。
 案の定オーステルリッツの駅でも、地下鉄が動いている気配はない。「閉鎖中」を示す汚い黄色いテープはここにはなくて、いちおう10号線のホームには入れるが、待てど暮らせど電車はこない。ホームには、いかにも暇そうなオジサマたちが5~6人、諦めきった表情でニタニタ笑っている。
 考えてみればクマ君も、疑似放浪中。ならばこの暇そうなオジサマがたの仲間入りをして、日が暮れるまでニタニタしていても問題はないわけだが、丸1ヶ月かけてせっかくたどり着いたパリだ。もう少し感動的にホテルにチェックインしたいじゃないか。
エッフェル塔2
(エッフェル拡大図)

 30分待って、クマ蔵は「オーステルリッツ駅から10号線でシャルルミシェルへ」というルートを諦めた。街のあちこちからデモ隊のシュプレヒコールが聞こえてくる騒然とした雰囲気で、何となく「事態は一刻を争う」という切迫したムードになってきた。よし、もう1度リヨン駅に戻ろう。「地下鉄の状況がリヨン駅でも改善されていなかったら、タクシーに頼るしかない」という判断である。
 いま思うに、この判断はマコトに危険であった。そもそもこの状況で地下鉄が動き出す可能性なんか完全にゼロであるし、もしタクシーをつかまえるなら、オーステルリッツのほうが圧倒的に有利。大規模デモ隊が暴力的なシュプレヒコールをあげているリヨン駅周辺には、近づかないに越したことはない。
 それでもあの日のクマどんは、一昨日からのデモとの付き合いで疲労しきっていた。「迷惑デモ、上等じゃないか。こうなったらその真ん中を突っ切ってやる」ぐらいの、野蛮で捨て鉢な勢いがクマの肉体の奥底から湧き上がってきていた。
凱旋門
(もちろん凱旋門にも挨拶しなければならない)

 リヨン駅に戻ると、デモ隊はもう目の前に迫っている。その規模を目撃するに、諸君、こりゃたいへんだ。おそらくは1789年のフランス革命にも負けない規模。10月5日、ルイ16世をパリに連行したヴェルサイユ大行進を髣髴とさせるスケールである。
 「髣髴」も何も、さすがのクマ蔵だってヴェルサイユ大行進を目撃したことはないのであるが、1万人規模のデモ隊がパリの街を占拠してゆっくり迫りくる迫力は凄まじい。待ち受ける警官隊もほぼ諦め気味で、デモ隊が迫るスピードに合わせて、ジリジリと後退するだけである。
 デモの渦が、リヨン駅前の広場に迫ってくる。タクシーの運転手さんたちだって、こんな渦に巻き込まれてクルマをメチャメチャにされるのはイヤだから、ほとんどはとっくに撤退して、乗り場に残っているクルマはごくわずか。危機一髪の今井君に残されたチャンスは、いま目の前に残った1台だけであった。
オペラ座
(オペラ・ガルニエにも挨拶)

 諸君、こうも危機一髪ばかりがつづくと、危機一髪を危機一髪と思わなくなるから不思議である。すでに大規模デモ隊はすぐ目の前。彼ら彼女らの表情がわかり、体臭が身近に感じられるほど。横断幕やプラカードを揺らしているのと同じ風が、ほぼ同時に今井君の首筋を吹き抜ける。デモ隊の最前列を占めるヒトビトの激しい鼓動さえ聞こえるぐらいであった。
 それでもクマどんは、危機一髪つづきですでに危機意識がマヒしている。実にゆっくりとクルマに乗り込み、マコトに落ち着いてドライバーに行先を告げた。向かうのは、NOVOTEL PARIS TOUR EIFFEL。パリの街を穏やかに流れ続けるセーヌの畔である。
 この時、乗り込んだタクシーとデモ隊最前線の距離は10メートルほど。もしもデモ隊の中の誰かが、タクシーなんかに乗りこんだ暢気な東洋人に反感をいだき、思わず「やっちまえ」の一言を叫びでもしたら、たちまち八つ裂きにされてしまうほどにお互いが接近していた。
サクレクール
(サクレクールにも挨拶)

 あのとき警察のヒトビトはどの辺りまで後退していたのだろう。おそらく1万を下らない巨大デモ隊の勢いに押されてジリジリと後退を続け、あえて言うならあの時の最前線は、今井君と運転手さん。ヒトの渦に飲み込まれるわずか数秒前にタクシーは急発進し、すんでのところで難を逃れた。
 こういうわけだから、タクシーがパリの街を大きく迂回してホテルに向かったのはヤムを得ない。左の車窓にノートルダム。右の車窓にはサクレクール。セーヌ右岸に沿うように走り、やがて目の前に大きくエッフェル塔が見えて、20分ほどでホテルに到着した。ベルリンから数えて9軒目のホテル。今日からここに10泊して、この疑似放浪のすべてが終わる。

1E(Cd) Bernstein:HAYDN/PAUKENMESSE
2E(Cd) Holliger:BACH/3 OBOENKONZERTE
3E(Cd) Holliger:BACH/3 OBOENKONZERTE
4E(Cd) Brendel:BACH/ITALIENISCHES KONZERT
5E(Cd) Haydon Trio Eisenstadt:JOSEPH HAYDN:SCOTTISH SONGS 2/18
total m122 y588 d13518