Sun 121230 ムール・モナムール チョコとグラタン ムール軍殲滅(ベルギー冬物語6) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Sun 121230 ムール・モナムール チョコとグラタン ムール軍殲滅(ベルギー冬物語6)

 ブリュッセルは、ベルギーの首都であると同時に、今やヨーロッパの首都である。EUの本部があり、NATOのヒトビトも颯爽と街を闊歩する。コトバは、フランス語/オランダ語/ドイツ語。もちろん英語も使えるが、サービス業以外の地元の人々は、フランス語かオランダ語が母語である。
 こうしてコトバが4つも5つも混在しているから、人々はみんな優しく相手の言っていることを理解しようとする。「英語が分からなかったら、バカ」みたいな英語帝国主義は微塵も感じられない。
 相手がフランス語を話そうがオランダ語を話そうが、「相手の言いたいことを理解するのが人間のツトメ」「理解できなかったら自分が悪い」「どうしても理解してあげたい」と考えているようである。そういう優しいヒトが圧倒的に多い。オドオドしている外国人を「田舎者!!」と冷淡に蔑むようなヒトは全く見かけない。
ムール鍋
(ムール貝を注文すると、熱々お鍋がドンと運ばれてくる)

 さてと、1月12日の今井君は、まずどうしてもムール貝を食べに出かけたい。ベルギー人がこんなに優しくしてくれるなら、こちらも徹底してベルギーの文化に溶け込みたいじゃないか。ベルギーと言えば、まず多種多彩なベルギービール、チョコにワッフル、そしてムール貝である。
 さすがにサトイモ君には「チョコ」「ワッフル」は似合わないだろう。今ではチョコレートなんか、1年に1回食べるか食べないかである。ワッフルは、ベルギーでは「ゴーフル」であるが、いやはや、今井君にとってゴーフルとは、ザラメのお砂糖がガシガシする網目パンに過ぎない。
 昔はこういうパンを「甘食」と呼んだが、789歳にもなって甘食なんか食べているようじゃ「まだまだ修業が足らんのぉ。わは、わはは、わはははははは」と爆笑の対象にしかならない。
ムール1
(中には黒い大きなムール貝が60個ほど)

 もっとも、実際のサトイモ君はチョコレート大好きであって、むかしむかしの学部生時代には、大学の帰りに連日コンビニに立ち寄って、板チョコを2枚も買って帰ったものだった。コンビニがまだ珍しくて、セブンイレブンは「朝7時から夜11時まで営業している」という創業当時の方針をまだ貫いている時代だった。
 大学から地下鉄を乗り継いで、はるばる常磐線の北松戸まで帰ってくる。夜9時半、もう開いている店はセブンイレブンしかない。すると若きクマ蔵は、冷凍食品のグラタン2つと明治の板チョコ「BLACK」2枚をカゴに入れてレジに運ぶ。どういうわけか、昔から今井君は同じものを2つずつ買って帰るクセがあった。
LEFFE
(ムール軍と戦うには、相棒のベルギービア「Leffe」が必要だ)

 下宿先の「松和荘」に帰ると、まず電熱器のスイッチを入れる。学部時代の今井君はたいへん貧しかったので、「電子レンジ」だの「チン」だの、そういう便利な文明の利器をもってはいなかった。
 コンビニで「あたためますか?」が始まったのは、もっとずっと後の時代。買って帰ったグラタン2個は、電熱器の上のフライパンで融かして食うか、またはトースターでトーストみたいに焼いて食した。「電熱器」、知らない若者は、ググってくんろ。
ムール2
(もう1度、勢揃いしたムール軍団の勇姿)

 こうして、若きクマ蔵の夕食は、「冷凍グラタン2個+板チョコ2枚」という極端に偏ったものになることが多かった。そういうマコトに非常識な夕食をとりながら、今井君の脳裏をよぎったのは、懐かしき駿台の世界史講師・柴田師(昨日の記事参照)についての「アイツは、食べてるモンが違うんだよ」というコトバであった。
 柴田師があんまりエネルギッシュだったからかもしれない。「何でアイツは朝からあんなにエネルギーがあるんだ?」という話題になったとき、駿台の友人の一人が吐き捨てるように言ったのが「食べてるモンが違うんだよ」の一言だった。
 うにゃにゃ、そうか、食べてるモンが違うのか。東大に不合格を言い渡され、夢も希望もなくなった気持ちで長い一人暮らしを続けながら、この「食べてるモンが違うんだ」の一言を、クマ蔵は何度も何度も思い出した。そりゃ、グラタン2つと板チョコ2枚じゃ、力も何にも出てこないに決まってる。
ムール3
(サトイモ男爵は着々と殲滅作戦を遂行する)

 学部2年の夏から、クマ蔵は生活を立て直す。「こんなんじゃダメだ」「まず朝食から」というわけである。立ち直ったクマ蔵の朝食メニューは、今でも忘れていない。キュウリ1本、トマト1個。ヨーグルトをカップ1杯。ハム&チーズをはさんで食パン2枚。牛乳1杯、インスタント味噌汁1杯、冷奴1丁。マコトに不可思議な献立である。
 牛乳とトマトは今もなお大キライな食品であるから、毎朝必ず息を止めて飲み込んだ。人間とはおかしなもので、「キライなものほど身体にいい」と思い込む傾向があるから、わざわざキライなものばかり献立に盛り込み、連日この上なくツライ朝食を飲み込んだ。
 以上、今井君がチョコレートを食べなくなった歴史を詳細に述べてみた。諸君、どんなことであれ、このぐらいの長く不可思議な歴史があるものである。ま、いいか。だから今回のブリュッセル滞在で、チョコとワッフルは今井君には無関係。そのぶん、徹底的にベルギービールとムール貝を堪能してこようと思う。
ムール4
(殻入れのお皿は2枚くる)

 貝類については若干の心配がある。サトイモ男爵は、世にも珍しい「アワビ・アレルギー」なのだ。アワビを食べると、おそらく命を落とす。「命に別条なし」の場合でも、顔はムックリ腫れてスーパー・オイワサンに変貌し、皮膚はただれ、心臓も血管も肥大して、肉体のあらゆる器官がマトモに機能しなくなる。
 そもそも日本人はどうして、あんなグロテスクなものを平気で食べるんだ? 高級鉄板焼屋さんで、優雅な職人さんにマコトに優雅な手つきでアワビなんか切り分けてもらって、お客のほうもデレデレしながら嬉しそうにそれを口に運んでいるけれども、アワビ、ナマコ、ホヤ、今井君はどうしてもイヤなのである。
 江戸末期から明治初期まで、日本の主な輸出品は干しアワビと生糸であるが、外貨を稼ぐために貝や虫に頼っていたこの国が、今井君はホントにいとおしい。国はいとおしいが、アワビは憎たらしい。人間とは、つくづく身勝手なものである。
完食
(カンタンにカラッポだ)

 さて、そろそろムール貝の話をしないと、今日もまた「ベルギー冬物語」のタイトルが羊頭狗肉に終わってしまう。何しろサトイモ男爵は、「1月はベルギー滞在」と決意した瞬間から「滞在中の食事はすべてムール貝」と決意したほど、ムールへの愛に燃えている。「ムール、モナムール」でござるよ。
 中世から続く、ヨーロッパで最も美しい広場グラン・プラス。広場から北へ、レストラン街が細く続いている。有名なイロ・サクレ地区である。今井君が選んだ店は、この地区の名店「オー・ザルム・ド・ブリュッセル」。フランス語のスペルだと「Aux Armes de Bruxelles」。ブリュッセルのフランス語のスペルがBruxellesだから、フランス語圏以外のヒトは「ブラクセルズ」と発音する。なかなか難しい街である。
ザルム
(Aux Armes de Bruxelles )

 おそらく土曜日の午後ということもあるのだろう、店内は大混雑でまさに立錐の余地もない。お隣のテーブルでは幼いコドモ2人を連れた家族連れ。まだオシャブリを口にくわえた赤ちゃんが平気でiPadをいじっている。「恐るべし、ブラクセルズ」である。
 クマ蔵が注文したのは、「ムール・オー・ピモン」。シコタマ辛いサラサラソースで煮込んだムール貝である。待つこと10分、大きな鍋が1個、ドンと運ばれてくる。鍋のフタを開けると、中には愛しのムールくんたち、ムール・モナムールが約60個、熱々の湯気を上げている。
ムールとともに
(第1回ムール戦争に勝利。白ワインで祝杯をあげるクマ大将)

 さて、いよいよムール軍団との勝負である。ソースが激しく辛いから、頭頂部からダラダラ汗が噴き出すけれども、その汗をトロトロの味わい深いベルギービール「レフ・ブロンド」で抑えつつ、15分ほどかけてムール軍団殲滅作戦に成功。気がつくと、隣の席の赤ちゃんはiPadから目を離し、頭頂部を汗マミレにしてムール軍と戦う不思議な東洋のサトイモの様子に、夢中で見入っているのであった。

1E(Cd) Alban Berg:BRAHMS/KLARINETTENQUINTETT & STREICHQUINTETT
2E(Cd) Backhaus(p) Böhm & Vienna:BRAHMS/PIANO CONCERTO No.2
3E(Cd) Solti & Chicago:BRAHMS/EIN DEUTSCHES REQUIEM 1/2
4E(Cd) Solti & Chicago:BRAHMS/EIN DEUTSCHES REQUIEM 2/2
5E(Cd) Solti & Chicago:BRAHMS/SYMPHONY No.1
total m153 y2218 d10112