Thu 090827 ニューヨーク滞在記10 ニューヨークとヨーロッパのクリスマス | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Thu 090827 ニューヨーク滞在記10 ニューヨークとヨーロッパのクリスマス

 遠慮なくバカバカしいクリスマスは、大いに楽しいものである。そういうクリスマスを楽しむなら、是非ニューヨークへ行くといい。最近新聞でデカデカと広告しているパックツアーを見ると「ドイツ・クリスマス市」が日本人には人気のようである。みんなで同じワッペンをつけて「ニュルンベルグのクリスマス市を満喫」したりするらしいのであるが、ヨーロッパのクリスマスは日本人には向かないと思う。ヨーロッパ人のクリスマスは遥かに厳粛なもので、あくまで内輪の精神的なお祭りであり、観光客が入り込める余地は小さい。「観光客が一緒にエンジョイできる」などというのは幻想であって、彼らの輪の外側でむなしく指をくわえて見ているだけ、ということになりかねない。

 

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(5番街の雑踏から見たロックフェラーセンターの巨大クリスマスツリー。写真が下手ですみません)

 日本人のバスツアーがどやどやバスから降りてきて、集団で「クリスマス市を満喫」なんかできるものではないし、「いやあ、私はニュルンベルグ(ミュンヘンの/ボローニャの/ウィーンの/マルセイユの/コルドバの)のクリスマスを満喫しましたよ。店の人たちの愛想も良かったなあ」と回想する人たちがいたとしても、彼らは要するにパッチものにダマされたのである。

 クリスマスのヨーロッパ人は、もっと遥かに厳粛で、場合によっては意地悪で、いや、むしろ陰険と言ったほうがよくて、アジア人の集団観光など決して受け入れない。教会は閉ざされ、部外者は排除する。排除されなかったとすれば「うるさいからあの辺に入れといてゴマかしちゃえ」という戦術に乗ってしまっただけのことである。私はそういうヨーロッパ人の態度が大好きなのだが、よその家のマジメな団らんに、「trapics」「LOOK JTB」「クラブツーリズム」みたいなワッペンなんかつけて、ドカドカ踏み込むようなマネは慎んだほうがいい。
 
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(ロックフェラーセンター、スケートリンク)

 

 昨年(2008年)、ロンドンのクリスマスを体験したのであるが、24日の午後から26日(Boxing Dayという名前がついている)夕方まで、バスも地下鉄も全部止まってしまい、徒歩以外の移動手段はなくなる。店もみんな閉まってしまう。するといきなり観光客は食糧危機に直面することになり、PRET A MANGERの冷たいサンドウィッチか、スーパーマーケットで買ったスナック菓子かで過ごさなければならなくなる。ヨーロッパのクリスマスとは、そういうものである。

 

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(ロックフェラーセンター、昼さがりのクリスマスツリー)

 

 昨年のロンドンでのことは近いうち詳しい滞在記を書くが、24日、全てが止まったロンドンで、営業しているレストランは、ハイドパークの北東に広がるアラビア人地区のみ。何の因果か知らないが、12月24日の夕食は、モロッコ料理店ということになった。いま思い出しても爆笑を禁じえない。12月24日、ホンキでチャドルをまとって全身まさに黒々としたアラビア系の女性客たちに取り巻かれ、チャドルを着たままどうやって食事をするのかわからないが、例のまっ黒い四角の中からの妖しい視線で四方八方から睨みつけられつつ、テーブルにドシンと置かれた野菜だらけのクスクスを平らげるのに冷や汗をかいた。

 

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(ビジネス街のクリスマスツリー)
 

 大音量で延々と生演奏されるアラビア音楽、そのナマのアラビア音楽に合わせて店の中で踊り狂うアラビア系の子供たち、巻き起こる手拍子、アラビア系の不思議な笑い。この店の中でアラビア系でないのは、隣りのテーブルに座ったカップルだけ。しかも店の中につめこめるだけの人間をつめこんだせいで、隣りのテーブルとの間隔は言語道断に狭い。約5~6cmというところか。要するに「テーブルは離しましたよ、文句でもありますか?」ということである。

 

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(再びロックフェラーセンターで)
 
 とても平らげきれそうにないクスクスと2時間近く格闘しながらこのカップルを観察していたのであるが、30歳半ばの女性のほうは、明らかにこのシチュエーションにご立腹のご様子。彼女より少し若く見える男子のほうは、ほとんど無言。無言というか、アラビア音楽が大音量すぎて、おそらく何を言っても聞こえないのであるが、「とんでもない失敗をしでかした、今すぐにでも謝ったほうがいいかも。しかしこんなに怒らせてしまって、もうダメかも」と抽象的に頭をかかえている様子である。
 
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(再び5番街から見たロックフェラーセンターのクリスマスツリー)

 

 最後までカップルを見守ることはできなかったが(私より15分ぐらい前に憤然とした女性が先に立って帰ってしまったのだ)、おそらくあの2人はあのあと大ゲンカをして、別れることになったような気がする。大ゲンカが、かえって「地、固まる」ということになれば、それはそれで大いにおめでたいのであるけれども、要するにヨーロッパで外国人がクリスマスを過ごすというのは、こういうことである。


 クリスマスは、ぜひニューヨークか東京で、思いっきりバカバカしくぜいたくに過ごしたまえ。