米国時間11/8(火)に実施された米大統領選挙は共和党のトランプ氏が勝利を収めて終わりました。また、同時に実施された米上下院の議会選挙では両院とも共和党の勝利となりました。

米大統領選挙の開票は東京株式市場の取引開始直前となる日本時間11/9(水)の午前8時頃から始まり、同日15時頃には大勢が決しました。時間の経過とともに、トランプ氏の優位が明らかとなり、それを横目に見る形で取引が進行した東京市場では、日経平均株価が一時16,111円(前日比1,059円安)まで下げ、終値も16,251円(同919円安)と波乱になりました。

しかし、米国時間11/9(水)のNY市場ではダウ平均が3営業日続伸の256ドル高と、急落を警戒した市場の心配をよそに下げませんでした。これに驚いた11/10(木)の東京市場では日経平均株価が前日比1,092円高の17,344円となる急反発劇を演じました。週明けの11/14(月)には日経平均終値が17,672円(前週末比297円高)となり、本年4/25(月)の17,613円を超える高値を回復しています。

東京市場では、トランプ政権の誕生で追い風を受けそうな業種・銘柄を中心に大幅高が目立ち「トランプ相場」などと言われ始めています。この相場で日経平均株価はどこまで上昇するのでしょうか、またいつまで上がるのでしょうか。

<今週のココがPOINT!>

 

 

「意外」続きの中で4月以来の高値水準を回復

今回の大統領選挙では、市場参加者にとって意外な出来事がいくつも重なりました。もっとも意外だったことは、トランプ氏が大統領選挙に勝利したことだと思われます。また、市場では「トランプ氏が当選した場合は米金利が下げ、外為市場では円高が進み、株価は下がる」と予想され、11/9(水)の東京市場に限ればそうした動きになりました。しかし、その後は米10年国債利回りが急上昇したことから外為市場では円安・ドル高が進み、11/10(木)の日経平均株価は急上昇に転じました。

すなわち、米大統領選挙の開票作業時間と取引時間が重なった11/9(水)の東京市場では、日経平均株価の下げ幅が一時1,059円に達し、終値も919円安の16,251円となり、外為市場では一時1ドル101円18銭まで円高・ドル安が進みました。しかし、11/10(木)の東京市場では日経平均株価が1,092円高と急反発し、終値も17,344円(前日比1,092円高)と11/1(火)の高値水準近くまで回復。11/14(月)にはさらに17,672円まで値を伸ばし、4/25(月)の高値水準を上回りました。一方、外為市場では11/14(月)に1ドル108円54銭まで円安・ドル高が進みました。

米国のメディアの7~8割が「民主党寄り」であるとの指摘があります。トランプ氏が大統領選挙の最中でも過激な発言を繰り返していたこともあり、トランプ氏が大統領になった場合のメリットについては、事前にはほとんど報じられませんでした。しかし、11/9(水)にトランプ氏が行った勝利宣言は一転、次期米国大統領に相応しい内容であったと捉えられ、「どこよりも強い経済を作る」との方針は肯定的に理解され、株式市場では次第にトランプ氏の政策が追い風になる銘柄を中心に買われる展開へと変わっていきました。

国内については、米大統領選挙の結果によっては円高・株安となる懸念が指摘されていただけに、そうならなかったことは市場マインドの好転をもたらしました。また、大統領選挙や決算発表など、リスクを取りにくい投資環境が続いていただけに、重要日程を無事に通過できたことで、リスク許容度が一気に高まったことも強い追い風になりました。

図1:日経平均株価(日足)~米大統領選の開票を受けて乱高下

図2:ドル・円相場(日足)・過去1年

図3:米10年国債利回り(日足)・過去1年

 

当面のタイムスケジュール~安倍・トランプ会談は11/17(木)の予定

我が国の上場企業の決算発表は保険など一部の企業を除き終了しました。米国大統領選挙も終わり、重要なタイムスケージュールの少ない時期に入ってきます。逆に考えれば、投資家にとってはリスクを取りやすい局面が続きそうです。

ただ、11/17(木)に予定されている安倍首相とトランプ氏の会談(ニューヨーク)は今後の「トランプ相場」を考える上で重要だと考えられます。トランプ氏自身に政治経験がないため、当面は人間的な関係の構築を結ぶことが重要とみられます。日米安保問題については、米軍駐留費問題等で対立のイメージを残さなければ「良し」と言えそうです。なお、電話会議で話題にのぼらなかったTPP(環太平洋経済連携協定)問題については、ここで譲歩を勝ち取ることは難しそうです。

その後の市場の関心事としては12/14(水)に結果が発表されるFOMC(米連邦公開市場委員会)に向け、米国経済の堅調が続くか否かにあるとみられます。今後2週間には、小売売上高(11/15)、消費者物価指数(11/17)、住宅着工件数(同)、中古住宅販売件数(11/22)、耐久財受注(11/23)等について10月分の数字が発表されますので、一応の注目が必要です。

表1:当面の重要なタイムスケジュール~安倍・トランプ会談の後、市場の関心は米国経済へ

月日(曜日)

国・地域

予定内容

ポイント

11/15(火)欧州ユーロ圏7~9月期GDP(改訂値)暫定値は前年同月比+1.6%
ドイツドイツ7~9月期GDP(改訂値)暫定値は前年同月比+3.1%(季節調整前)
ドイツ11月ZEW景況感指数向こう半年間の景況感を機関投資家・市場参加者等350人にアンケート
米国10月小売売上高市場コンセンサスは自動車・ガソリンを除いた部分で前月比+0.3%
米国11月NY連銀製造業景気指数 
11/16(水)日本10月訪日外客数10/30までの累計で初の年間2千万人を達成
米国10月生産者物価指数食品・エネルギーを除くコア指数の9月は前年同月比+1.2%
米国10月鉱工業生産・設備稼働率市場コンセンサスは前月比+0.2%
米国NAHB住宅市場指数市場コンセンサスでは63
米国◎米決算発表~シスコシステムズ通信インフラ関連銘柄の先行きを示す参考指標に
11/17(木)米国10月消費者物価指数食品・エネルギーを除くコア指数の市場コンセンサス前年同月比+2.2%
米国10月住宅着工件数市場コンセンサスは前月比+10.3%
米国11月フィラデルフィア連銀製造業景況感指数市場コンセンサスは7.8の予想
米国◎米決算発表~ウォルマート、アプライド・マテリアル他ウォルマートの決算が米国の個人消費の動向を反映。アプライド・マテリアルの決算は東京エレクトロン等半導体製造装置関連株に影響
米国安倍首相がトランプ氏と会談米軍の駐留費の負担をどうするのか?TPPで譲歩を求めることは困難か
-APEC閣僚会合 
11/18(金)日本★決算発表~主要保険各社決算発表シーズンが終了
11/21(月)日本10月貿易統計収支に加え、輸出の好不調もポイントに
米国10月シカゴ連銀全米活動指数9月は▲0.14
11/22(火)日本10月全国百貨店売上高2016/3~9は前年同月比でマイナスが続く
米国10月中古住宅販売件数市場コンセンサスは前月比±0%
米国10月北米半導体製造装置BBレシオ 
11/23(水)日本◎東京市場は休場(勤労感謝の日) 
米国10月耐久財受注市場コンセンサスは輸送用機器を除く部分で前月比+0.2%
米国9月FHFA住宅価格指数市場コンセンサスは前月比+0.5%
米国10月新築住宅販売件数市場コンセンサスは前月比-0.5%
米国FOMC議事録(11/1~2開催分) 
11/24(木)ドイツ11月Ifo景況感指数ドイツの7,000社を対象に現在と6ヵ月後の見通しをアンケート
米国◎米国市場は休場(感謝祭) 
11/25(金)日本10月消費者物価指数 
英国7~9月期GDP(改定値)暫定値は前年同期比+2.3%
米国ブラックフライデー米年末商戦がスタート

表2:日米中央銀行会議の結果発表予定日

 2016年2017年
日銀金融政策決定会合12/20(火)1/31(火)、3/16(木)、4/27(木)、6/16(金)、7/20(木)
FOMC(米連邦公開市場委員会)12/14(水)2/1(水)、3/15(水)、5/3(水)、6/14(水)、7/26(水)

※各種報道等をもとにSBI証券が作成。「予想」は市場コンセンサス。データは2016/11/15現在。予定は予告なく変更される場合がありますので、あくまでもデータ作成段階のものです。

 

【ココがPOINT!】日経平均はどこまで上がる?いつまで上がる?

「トランプ相場」で日経平均株価はいくらまで上昇するのでしょうか、さらにいつまで上昇するのでしょうか。

ちなみに「トランプ相場」とは市場で俗に言われている表現で、無論、定義なるものは存在しないと思います。トランプ氏が大統領選挙に当選し、次期大統領に就任するに当たり、恩恵を受けそうな銘柄を中心に展開されている株式相場と言えそうです。

現実に「トランプ大統領」が就任するのは2017/1/20になる予定です。「トランプ相場」はそこまでの「理想買い相場」になるとみられ、「賞味期限」もそこまでになると予想されます。ただ現在からみると2ヵ月も先であり、そこまで現在のような勢いのある相場が続くとは考えにくいので、保守的には「年内いっぱい」を目処に考えたい所です。

それでは日経平均は当面、いくらまで上昇するでしょうか。2016年に入り、日経平均株価の予想PERはおおよそ13倍から15倍の間で推移してきました。その範囲をはずれたケースとしては、業績予想の中心が16/3期から17/3期に移行した4~5月頃と、Brexit(英国のEU離脱を問う国民投票)を意識した6月下旬頃で、一応例外的存在と考えられます。今、日経平均の予想PERは15倍まで上昇すると仮定した場合、日経平均株価の当面の上値メドとしては17,839円(11/14の予想EPS1,189円27銭×15倍)が想定されます。

もっとも、2016年は図2にもあるように、急速な円高・ドル安が進み、企業業績への不安が強まった年でもありました。したがって、そのことが市場心理を冷やし、予想PERの上限を抑えてしまった可能性があります。仮に、ドル・円相場において、ドル(円)が中長期的な安値(高値)を付けたとし、市場心理が明るくなると考えれば、予想PERは15.5倍程度まで上昇する可能性もあります。その場合、日経平均株価の上値メドとして18,433円(図4参照)を想定することができます。

図4:日経平均株価と予想PER