一葉です。いつもありがとうございます。(。-人-。)
予想通り長くなってしまいましたのでコンパクトな挨拶でお届けです。
このお話は魔人sei様のリク罠№160 をお題としてスタートさせた現代設定パラレル蓮キョの完結話です。
少しでも楽しんで頂けたら嬉しいです♡
前話こちら【1 ・2 ・3 ・4 ・5 ・6 ・7 ・限8 ・9 ・10 ・11 ・12 ・13 ・14 】
■ 恋する生徒会長 ◇15 ■
15時を知らせる鐘の音を合図に俺は意識を手放した。
そんな俺に向かって派手に舌を打った不破が俺を足蹴にしようと膝を上げ、俺を受け止めてくれたニワトリが逆に不破を返り討ちにしようとしたらしいけど……結果として一瞬早く村雨の蹴りが飛んだという。
中庭の一掃に尽力を注いでくれたのはその村雨に違いなく、中庭を取り囲むように配置していた武術系の彼らと共に、不破をはじめとするアカトキの連中をあっという間に追い出してくれたらしい。
もっとも、不破以外のアカトキの連中は容易く引き上げて行ったと、コトの顛末は後で聞いた。
校内を見てくれていた社さんのそれは完璧で、俺が中庭で奴らの相手をしていた間も学園祭は問題なく運営されていたと聞く。
俺が再び意識を取り戻したのは女学園の保健室で、瞼を開けたその一瞬、目に入った室内灯をやけに眩しいと感じた。
目覚めと同時に養護教諭の声が俺の耳に届いたのは、俺の目が開くのを今か今かと見守っていてくれたからではなく、俺が起き上がったことでベッドが軋んだせいだろう。
白衣を纏ったその人は、俺を見てふふんと笑った。
「 よう、目覚めたか。生徒会長、敦賀蓮 」
「 ……宝田理事長… 」
「 よく頑張ったじゃねぇか。ぶっ倒れたって聞いたときはさすがに少々焦ったがな。しかし大乱闘だった割には特に大きな怪我もしてねぇし。……ま、5時間もあんなことしてりゃ疲れてもしゃーないな 」
「 なんで俺をわざわざ女学園側の保健室に… 」
「 んなもん、俺の職場がこっちだからに決まってんだろ 」
LME女学園及びLME高等学校の理事長であるローリィ宝田氏は養護教諭の資格を持っていて、彼の職場は数年前から女学園の保健室だった。
今回、俺達が自由に動くことが出来たのは、この人に話を通していたからに違いなく、俺は改めて許可をくれた理事長に頭を下げた。
「 ……そっか。願い通り、静観して頂いた事に感謝します。本当にご迷惑をおかけしました。ありがとうございました 」
「 んなこた気にするな。こうなることを承知で俺は許可したんだ。いいよな、青春。それが好きな女のためとか聞いたら思わず応援したくなるわ。
そんなことより、いいのか、お前。後夜祭が始まるぞ。あと5分遅かったらベッドから転がしていた所だ。本気の恋…捕まえに行くんだろ? 」
「 後夜祭?…あ、いま何時? 」
「 5時過ぎだな。そういや琴南くんから伝言だ 」
「 なんて? 」
「 男子校生徒会室…で判ると言っていたか 」
「 あ…はい、大丈夫です。理事長!本当にありがとうございました!……っ… 」
急いで踵を返して横開きの扉を開く。
退室前に一礼しようと廊下に出た途端に室内へ向き直る。俺と目が合った理事長は頬杖をついた姿勢で俺を見ていた。
「 お前の左手の傷には包帯を巻いてやったけどな、腕とか腹とかあっちこっち痣だらけだってことは理解しておけよ。それ、しばらく痛むだろうからな 」
「 ええ、了解です。お世話になりました。失礼します 」
廊下に出ると校内はひっそりとしていた。
一般入場者はとうに居なくなり、外は暗さを増している。
ふと校庭に目を配った。
大きく傾いた太陽にとって代わろうとでもするように、キャンプファイアの炎が赤々と校舎を照らしている。
生徒たちの大半は後夜祭に参加しているはずで、男女問わず、両校の生徒たちが炎の周りに集っていた。
キャンプファイアは最上さんと二人で許可にこぎ着けた後夜祭のメインイベント。
炎を中心として歓声を上げる生徒たちの声を聞きながら、女学園の校舎を後にした俺は中庭橋を使って男子校敷地内に戻り、自校の校舎を見上げた。
見えた景色に口元を緩め足早に生徒会室へ向かう。
あけ放った窓から恐らくキャンプファイアを見守っているのだろう、後姿のニワトリに近づき、そっと声をかけた。
「 ……最上さん 」
ニワトリは振り向きもせず
どころか身動き一つしてくれない。
羽に相当する部分に入っているのだろう両腕を窓枠に添えたニワトリに、感じてしまうこの愛おしさは中身が彼女だと知っているから。
そう。数時間前の俺はそれに気付いていなかったのだけど。
「 最上さん。俺、君を捕まえていいのかな 」
「 コケ……コッコォォォ…… 」
「 いつまでその恰好でいるつもりなんだ。それとも今日はずっとそれでいるつもり? 」
「 ……っ… 」
「 最上さん。助けてくれてありがとう。でも欲を言えばお姫様みたいに待っていて欲しかったかな 」
「 コケ… 」
「 ね、頭取ってよ。だいたい俺、そういう風に琴南さんに頼まなかったよ? 」
イヤイヤと首を振るニワトリの頭を掴み、強引にスポンと引き抜く。
中にいたのは予想通り、俺の恋人、最上さんだった。
「 なんだ。メイクしていないんだ。それ期待していたのに… 」
「 外見をいくら大人っぽくしても私は私でしかありません。それに、この中けっこう暑いんですよ。
メイクをする理由は私だと一目で分からないように…でしょう?だから別にいいかなって思って。だけど、どうして敦賀さん、ニワトリが私だって気付いちゃったんですか? 」
「 いや、分かるだろう。…っていうか、ごめん。あの時は判らなかったんだけど。
さっき保健室で目覚めたとき、君だったって思い至ったんだ。抱き上げた時の重さがまさに君の重さだったなって。
所でなに、この着ぐるみ。一体いつ… 」
「 敦賀さんのお家で手配書を手分けしたときです。レンタル着ぐるみ10体注文って書かれたメモを見つけたときに思いついたんです 」
「 うそ。ちょっと驚き。なんでまた 」
「 敦賀さんに迷惑をかけずにアイツを追い払えるかもって…そう考えたんです。
そもそも私は人を巻き込むこと自体に反対だった。アイツとのことは私が決着をつけるべきだって私は思っていたから… 」
「 けど、それが無理そうだからって、だからお互いに協力し合ったんだろう。お互いの利害を持って… 」
「 そんなこと言うけど敦賀さん、初めて生徒会室で挨拶をしたときすっごく不機嫌だったでしょう。やっぱり怒ってる~って、あのとき本当はすごく寂しかったんですよ 」
「 うそ?そんなこと思ってたんだ。俺に強気発言までしたくせに 」
「 それはっっっ!!!………だって、それだもん 」
そこで最上さんは押し黙り、俺から視線を外して着ぐるみの胴体を脱ぎだした。
手を差し伸べると自然と彼女は俺の手を取り、俺を支えにしてくれて…。
俺はと言えば、初めて目にする最上さんの体操服姿に照れくささが浮かんだ。
「 この着ぐるみ、俺が手配した奴より随分と軽量だよな…。そういうタイプもあるんだ? 」
「 ないですよ。これはレンタルじゃなくて購入したんです。…で、私たちで手を加えて軽くしたんですよ 」
「 え? 」
「 私でも動きやすいようにね。当日、中に入って動けないんじゃ本末転倒じゃないですか。だからその練習をしながら改良できる所に手を加えていったんです。くちばしの中の鉄板とか。
初めての事だったからとにかく判らないことばかりで全く終わりが見えなくて。だから…… 」
「 あ?まさか……迎えに来なくていいって言ったのって、それ?!なんだ、そう言ってくれればいいじゃないか! 」
「 まさか言えないです!言える訳ないじゃないですか。
こちらからショーちゃんをどうにかして欲しいってお願いしたくせに、まさか自分で撃退しようと思ってる…なんて言えなかったんです 」
「 撃退…って。そもそもそこから判らない。
最上さんにとってアイツって一体なに?幼なじみってだけじゃないよな? 」
そうだ。俺が一番彼女に聞きたかったのはこれなんだ。
俺は疑っていた。
最上さんが俺を挑発して俺に抱かれた理由は、初めては重いから嫌だっていう男の為だったんじゃないかって……。
「 アイツを下の名前で呼んだり、可愛い笑顔を浮かべたり。あれだろう?やっぱりアイツが君のファーストキスの相手ってことだろう? 」
「 なっ…何てこと言うんですか!全然違います。アイツは……ひとことで言えば私の敵です!! 」
「 敵…? 」
意外な答えが返って来て俺は両目をぱちくりさせた。
「 それでも子供の頃はただ仲良く遊んでいたんですよ。でも、成長するにつれて段々と男女の差が出て来て…。
実際、子供の頃は背だって体力だって全く変わらなかったのに、身長に明らかな差が出るようになってからやたらとショーちゃんが威張るようになって…。またアイツの方が早く生まれていたのも余計にそれを助長したと思います。
だから私、LMEに入学したんですよ。アイツをギャフンを言わせるために! 」
「 え? 」
「 敦賀さん。私、片親なんです 」
「 知ってるよ。それは君から聞いたから 」
「 だから、小さい頃から私、誰にも負けたくない子供だった。
父が居ない子だから。母親しかいない子だからって、そういう目で見られるのが嫌だった 」
そこから最上さんは弾き語りをするように淡々と過去を話した。
彼女の昔話を要約するとこうらしい。
最上さんは物心ついた時から片親で、だけど幼なじみのショーちゃんには仲の良いご両親が揃っていた。
幼児の頃なら問題ない。たとえば二人が揃って同じ行動をしても周囲の反応は大差ない。
一緒に悪戯をしても二人は同じように叱られ同じ言葉で怒られた。
けれど時は流れる。
女児は少女に、男児は少年に成長してゆく。
その過程において、彼女は気付いてしまったのだ。
同じ時を過ごしても、同じ振る舞いをしていても、彼と同じに扱われなくなったことに。
ある時は女の子のくせにと叱られ
ある時は片親だからと溜息をつかれる。
そんなことを繰り返せば嫌でもその差が見えて来る。
子供の認識の大部分は大人のそれから学ぶものだ。大人がそういう反応を示せば子供もそれに従ってゆく。
彼女に対して幼なじみのショーちゃんが横柄になっていったのは、多少はその影響も入っていたのかも知れないけど、と彼女は言った。
最上さんは利発だった。
幼なじみの男が自分より偉そうに振る舞うのをおかしいと思っていた。
そのとき気付いたのだ。幼なじみのショーちゃんより自分が上であることを示せる唯一の方法がある事に。
それが成績の優劣だ。
体力で敵わなくても。
腕力で敵わなくても。
それなら自分の努力次第でどうにか出来ると思った。
男女の幼なじみ…というだけで男女比較される上、片親か、両親が揃っているかの違いで行動比較されてしまうことに不満を抱いていた彼女は、自分の成績をうんと上げて、幼なじみと比較されなくなるぐらいのレベルまでいっそ自分が行ってしまおうと考えた。
ショーちゃんと同じ学校への進学を由としなかった彼女は、自分の実力だけでLMEに入学することを決意。
それは並大抵の努力じゃなかったはず。だがきっと彼女は持ち前の負けん気を発揮したに違いない。
経済的な負担を母親にかけたくなかったこともあって、彼女は特待奨学金を使って女学園に入学した。
改めてその背景を知った俺は、本当になんて子だ…と思った。
「 ほんっとーに負けず嫌いなんだな、君は 」
「 そうですよ。自覚あります 」
「 それは、だけどそれだけアイツを意識しているってことじゃないの? 」
「 意識?…とは違うと思う。私、アイツに劣った所なんて正直一つだってないと思っているのに、アイツが偉そうにするのが嫌だった。だから少しでもアイツの手が届かない場所に行きたいと思って頑張っただけです 」
「 でも、君は俺に言っただろう。アイツの事を本当に何とも思ってないなら俺にあんなこと言わないだろ? 」
「 あんなこと? 」
「 言ったじゃないか。俺の家で君が作ってくれた夕食を食べたあと。あの男が紹介してくれた友人と付き合えば…って言った俺に、そんなこと言われたくないって… 」
「 当たり前じゃないですか!言われたくないですよ、そんなこと。他の男と付き合っておけば良かったのに…なんて、自分の好きな人からそんなこと…… 」
「 え?……あ…… 」
あれ?ああ、そうだっけ。
そもそも最上さんが社さんの依頼に乗ってくれたのは、俺に好意を持ってくれていたから…だったんだっけ?
「 じゃあ、ショーちゃんって呼ぶのはなんで?アイツ、クセで君を下の名前で呼ぶって言っていたけど 」
「 くせって言うか、そう呼ぶと自分が上みたいな気分になって好きなんだと思います。私のはわざとですよ。ショーちゃんなんてかなり子供っぽい呼び方でしょ。だからアイツ、あからさまに嫌な顔をするからそれが面白くて… 」
「 ……っ……おもしろって……じゃ、笑顔なのは? 」
「 えー?それも同じ理由です。ショーちゃんって呼ぶととにかく嫌そうな顔をするのでつい笑っちゃうんですよね。
ほら、お買い物の帰りに会ったとき。あの時も露骨に嫌な顔をしたの、気付きませんでした?イラっとするとすぐ手とか足とか出そうとするんですよ。単細胞なんですよアイツ 」
「 ……俺の部屋で、食後のコーヒーを前にして最上さんが思い出し笑いをしたのって… 」
「 あ…れは……敦賀さんが、私をかばってくれたのがまるで本当に敦賀さんの彼女みたいだったなって思い出して嬉しくなって…。
もしかしたらこのまま…ってちょっと図々しいことまで考えていたんです。だって敦賀さん、私にだけ笑いかけてくれるから。だから錯覚していたんですよね。思い上がっていたのだと気付いたのはその直後でした 」
――――――― キスしたこともないくせに
「 ショックだった。少し考えれば分かりそうなものなのに、敦賀さんはした事があるんだってそう考えただけで苦しかった。
女嫌いなんて言われている人がキスしたくなる女性ってどんなだろうって、想像するだけで辛かった 」
「 だから?だから最上さん、俺を挑発したの?わざと俺に抱かれるように仕向けた? 」
「 だって!!私は……初めては好きな人がいいって決めてたんです!!お付き合いも、ハジメテも、自分が好きな人がいいって…。
だから、絶対に嫌だったの!!好きでもない人と付き合うなんて嫌だったし、ましてやショーちゃんの友人なんて絶対に嫌だった。そんなことになったらアイツ、絶対自分の方が私より上だって思うだろうし…。だからそうしておけば良かったのになんて敦賀さんに言われてすごく切なかった。同時に、チャンスは今しかないってそう思った。この機会を逃せないって 」
「 ……そうだったんだ 」
「 そうです。でも、もし敦賀さんが… 」
「 ん? 」
「 もし敦賀さんがショーちゃんの友人だったら。ショーちゃんが紹介してくれた人が敦賀さんだったら、私、付き合ったと思いますけど…? 」
上目遣いで俺を見た最上さんのそれに俺は間髪入れずに首を振った。
「 ナイ!!俺があの男と友人になることは絶対にない! 」
「 ふっ。分かる気がします。そんなこと絶対にあり得ないって… 」
「 だろ? 」
「 はい 」
最上さんがそう言って笑ったから俺も一緒になって笑ったけど、俺に向き直った彼女が右手を出してきた時はさすがに眉をしかめた。
「 敦賀さん、ありがとうございました。おかげで学園祭、無事に終了できます。本当にお世話になりました 」
ぺこりと頭を下げたそれがやけに他人行儀に見えて
この期に及んで冗談じゃないと思った。
「 ちょっと待って!!なんでそんな他人行儀?メイクの話を知っていたってことはちゃんと琴南さんから俺の伝言を聞いたんだよね? 」
「 ……はい、聞きました。社さんが、私の気持ちを敦賀さんに話してしまったってことも。それを聞いた敦賀さんが恋人契約を破棄したがっているって事も。
話し合いをしたいからここで待つようにって。逃げないように言ってたって、そう聞きました 」
「 ……な…… 」
んでそういう伝言をするんだよ。
いや、確かに間違いじゃないけど!
恋人契約を破棄したいのは本当だし、逃がさないって伝えてって俺、確かに言ったけど…。
「 あの…ごめんなさい。私、ご迷惑かけてばかりで…… 」
俺を見つめていた最上さんが俺から視線を外した。
その目がやがて潤んでいくのが見えて、俺の心が何かにギュッと掴まれた気がした。
「 いま君が目に一杯の涙をためているのは、俺と別れたくないって思ってくれているからだって、受け止めてもいいのかな 」
「 ……っ…… 」
「 恋人契約…破棄したいのは本当だよ。卒業までこのままだなんて嫌だって思ったんだ 」
「 ……そ、ですよ……ね 」
「 そう。でも君、いま凄く誤解していると思う。最上さん、これ見て 」
「 え…… 」
袖をめくって腕を見せ
シャツの裾をめくって腹を見せ
自分ですら初めて見る痣だらけの身体をこんなにも誇らしく思う自分がいることに愛おしさすら感じる。
「 やだ、ひどい。痣だらけじゃないですか…… 」
「 …だよ。絶対に譲れなかったんだ。どんな怪我を負ったって構わないって思ってた。あいつらをどうにかするって約束したからね 」
「 ……っっ…ごめんなさい… 」
申し訳なさそうに表情を曇らせた彼女を見て
琴南さんが、なぜ敢えて俺の気持ちを伏せ、わざとこの子が誤解するような伝言をしたのか、その理由に思い当たった。
『 仮にそうだとしてもお前がキョーコちゃんに自分の気持ちを告白してないんだろうが!男ならシャキッとしろ、蓮!! 』
社さんがそう言っていたように、琴南さんも同じだったんだ。
俺が最上さんを好きだってことを、本人に向かってちゃんと告白させたかったに違いない。
そうだよな。
そうじゃなきゃちゃんと伝わらないものな。
「 最上さん、聞いて? 」
「 はい 」
「 俺、似非恋人契約は破棄したい。君と本物の恋人同士になりたいんだ。
本当は君を抱いたあの夜からずっとそう思っていた 」
「 ……え?……え?……っ… 」
「 告白するとね、俺、初めてだよ 」
「 え? 」
「 キスも、それ以上をしたのも。君が初めての相手だ 」
「 ……う、そ。だって…敦賀さん…… 」
「 言っただろ。子供の頃の経験なんて数に入らないって。俺のは特に。勝手にされたキスなんてカウントする気にもならないよ。自分でしたいって、そう思った子じゃなきゃ… 」
「 …っ……敦賀さん…… 」
食い入るように俺を見つめて、嬉しそうに口元を緩めて、目に一杯の涙をためた最上さんのそれを見て、ああこれなんだと思った。
これが人に心を奪われるってことなのだ。
「 俺、君が初恋なんだって言ったら君は笑う? 」
「 笑うだなんて…。もしそれが本当なら飛び跳ねて喜びます! 」
「 じゃあ飛び跳ねて。本当だよ。君は俺のハジメテ、全部持って行ったよ。それだけにちょっとショックだった… 」
「 え? 」
「 琴南さんに話しただろう?俺と君が……その……シタってことを…… 」
「 え?私、何も言ってないですよ? 」
「 だけど琴南さんはっ… 」
「 あ、でも言ったも同じかも? 」
「 なに、どういうこと? 」
「 スーパーに買い物に行ったとき、モー子さんから電話があったでしょう? 」
「 うん 」
「 あのときモー子さんちに泊まるって家に連絡をしたんですけど、本当はあれ、モー子さんにそうしておきなさいって言われてそうしてたんです 」
「 ……え? 」
「 色仕掛けなんて出来る訳ないって言ったのに、やってみないと判らないってモー子さん言うんだもの。やるだけやってみろって。出来なかったから本当にウチに来ればいいし、もし10時までに来なかったときは成功したとみなすからって… 」
「 色仕掛け……? 」
「 既成事実を作っちゃえば別れない方向に持って行けるかもって… 」
「 ってことは、それ見事成功ってこと? 」
「 違う!!だから言ったじゃないですか!私、責任を取ってなんて言うつもりないって!そんな風に付き合い始めるなんて私は嫌 」
「 じゃあ、俺の恋人になるのは嫌? 」
「 嫌だなんて…。敦賀さん、知っているんでしょう?私の気持ち…… 」
「 ねぇ、最上さん。それ、人から聞いた話って結局のところ噂話と同じだって思わない?大切なことは自分の口から直接言わないと…って俺、思ったよ。琴南さんに頼んだ伝言を、ちゃんと聞いたはずの君の話を聞いたとき 」
俺がそう言うと最上さんは一粒の涙を流した。
「 ……そう、かもですね。……うん。
私、ずっとあなたの事が好きでした。敦賀さんが好きです 」
「 うん、そうなんだってね。でも俺は、誰から聞いてもどこか信じられなかった。だから、君の口から聞きたかったんだ。ありがとう 」
辺りはすでに真っ暗で
校庭から男女のはしゃぎ声が聞こえた。
赤々と燃えるキャンプファイアの炎は、窓際に居たとはいえさすがに俺達の所には微かにも届かなかったけれど。
どちらからともなくごく自然に、俺達は引き寄せられるように唇を重ねた。
温みと、柔らかさと
人を思いやる優しさと
俺に色々な初めてを経験させてくれた君に出会えたことを、俺は心から感謝する。
静かに離れた唇を恋しみ
目先僅かな距離で見つめ合う。
彼女を愛おし気に眺めながら俺は、相手に心を傾ける苦痛ではなくて、これからはその喜びをかみしめて生きようと思った。
「 最上さん…。こんな時になんだけど、お願いがあるんだけど… 」
「 なんですか? 」
「 俺、一般入場が始まってから何も食ってないんだ。頼むからご飯作って…… 」
「 は……はいぃぃぃ??? 」
力尽きて彼女の肩に額を置くと、俺の耳に最上さんの髪の毛が優しく触れた。
あの夜感じた君の気配。
あの時にはもう、俺は君に恋をしていた。
「 もうダメだ。お腹空いた… 」
「 ぷっ。ふふふっ。やだ、敦賀さん。じゃあ、一汁三菜、用意しましょうか! 」
「 うん 」
高校生活最後の年。
俺は、永遠の愛を誓っても構わないと思えるほど、特別な恋を手に入れた。
END
一歳年上のヤッシーがなぜ蓮くんと同学年をやっているのか…とか、光くん、村雨がなぜLME高等学校に入学したのか、とか、キョーコちゃんが蓮君を好きになったきっかけは何だったのか…とか、色々入れる余裕がなくなってしまったので全て端折ってしまいました。
でも特に重要でもないから別にいっか。
余裕ができた頃にもしかしたら番外編なりで再び彼らと向き合う日が来るかもしれませんが、ひとまずここで完結と致します。
お付き合い頂きましたことに心から感謝いたします。
本当にありがとうございました。
⇒恋する生徒会長◇15・おまけ話つき拍手
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※こちら、後日談風のおまけです⇒恋する生徒会長おまけ話【その真実】
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