SS 双対の想◇後編 | 有限実践組-skipbeat-

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 ちょわーっす\( ̄▽+ ̄*)/後編お届けでぇす。一葉でーす。


 ネタバレなし原作沿い両片想い蓮キョ。前後編なのにSS読切目次に入れるのに抵抗を感じていましたが…。ま、いっか!で乗り切った(笑)


 ちなみにコレ、一葉のこだわり。原作に居ないキャラクターを使う時は絶対に名前を付けない。

 原作沿い…がぶれないための自分の戒めでっす。名人、後編には出てきませんけどね。


 さてさて、後編も楽しんで頂けたら嬉しいです。キョコちゃんsideは蓮くんよりちょっぴり長め。がおー。

 あ、前編はこちらです⇒双対の想◇前編


■ 双対の想 ◇後編 ■





 いつものように、私はラブミー部の部室にいた。

 椹さんから仕事の要請があったものの、それを渡すのにちょっと時間がかかると言われて待っていた時間。

 当の本人が顔を見せる様子はまるでなく、そこに何の前触れもなく現れたのは、いつもの柔らかい笑顔を浮かべた敦賀さんだった。



「 最上さん、いる? 」


 私は腰を上げて尊敬する大先輩に頭を下げる。


「 敦賀さん、こんにちは。お久しぶりです 」


 すると敦賀さんは私が頭を上げるまでの短い間、何も言わずに待っていてくれる。

 視線が合うと一拍置いて目を細め、ごく自然に敦賀さんの口が開いた。


「 こんにちは。最上さん、あのね?これ、良かったら使って? 」


「 え?何ですか? 」


「 先日、思いがけず手に入れたんだけど、君が喜ぶかなって思って… 」


 敦賀さんは大きな手で抱えていた小さめの紙袋に手を入れた。

 間もなく私の前に差し出されたのは、見たことも無いマグカップ。


 あまりに美麗なデザインに、私の意識はすぐに持っていかれた。


 すごい!なんてきれいな蒼の色

 それにこの絵柄、なんて、なんて…!!


「 わ…!!キャー!なにこれ?すごく可愛いぃ!妖精?これは小花の妖精なのねっ!敦賀さん、これ凄く!凄く!か…かわいいですっ!! 」


「 良かった。気に入ったなら使ってもらえる? 」



 本来なら、断るべきだったと後から冷静になって気が付いた。

 だけど差し出されるまま手にしたそれは、本当に、本当に可愛くて…。


 一目で欲しい、と思ってしまった。


 それに、これは言い訳でしかないけれど

 敦賀さんがあまりにもそっけなくそれを手渡すものだから…。


 何にも考えず、自分の欲望が赴くまま

 私は素直に頷いた。


 だって、本当に可愛くて…。


「 ええっ?いいんですか?嬉しいですけど、本当に? 」


「 本当に。じゃあね 」


「 へ?敦賀さん、一休みしないんですか? 」


「 うん、ごめん。今日はもう、ちょっと時間が無くて…じゃあね 」


「 え?えええっと、あの!!有難うございます、大切に使わせて頂きます!! 」


 そのマグカップを受け取ったときは、本当にそんな感じだった。


 嵐の後の静けさ…という言葉は無かった気がするけれど

 敦賀さんの大きな背中を見送ったあと、私は静まり返った部室の中で再びパイプイスに腰を下ろした。

 片手で頬を支えながら、頂いたばかりのマグカップに視線を落とす。


 これは、敦賀さんがくれたもの…。



「 えへへへ…本当に可愛いぃ…。敦賀さん、どんな顔をしてこれを買ったんだろ?…あ、そうだ。何かお礼しないと!何がいいかな… 」



 マグカップを手に持って、ためつすがめつそれに見とれた。


 ひっくり返して底を見ると、そこにも可愛い絵柄があった。


 本当に、なんて素敵なマグカップ…。



「 最上くーん!すまん、待たせたな 」


「 椹さん、平気ですよ。ご依頼は何ですか? 」


「 この箱の書類を分類して欲しいんだけど…って、あれ?それ、随分いい焼き物だな?ちょっと見させてもらってもいいか? 」


「 はい、どうぞ。実はいま敦賀さんがいらして、私に使ってって言って、下さったんです 」



 さっきまでの私と同じように、椹さんもカップのあちこちに視線を配った。

 ためつすがめつそれを眺めて、最後に底をひっくり返す。


 底裏に描かれた可愛い絵柄を凝視したあと、椹さんは片側の眉をひょいと持ち上げた。



「 …ふぅん…?底に銘柄が無いけど、これ有名な焼き物だな。釉裏金彩って技術を使って作られている 」


「 …………それ、有名なんですか? 」


「 そうだな。有名だな。この技法で作られた花瓶なんかだと、一輪挿しでも一つ3万前後はするはずだ 」


「 で?!ええ ―――――― っ!?それ、本当ですか? 」


「 ああ、俺の記憶が確かならな。蓮が持って来たって?んじゃ間違いないだろーな 」


「 え?それはどうして…? 」


「 あいつ、某番組で焼き物のナレーションの仕事をもらったって松嶋が言ってたから。一度、下見に行きたいって言って一人でその工房とやらに足を運んだはずだ。…にしてもずいぶん良いもの貰ったな。良かったじゃないか。大事に使えば一生ものだぞ。…じゃあこれ、やっといてくれ 」


 さっきまで浮かべていた真面目な顔をほにゃりと崩して、椹さんは平然と言い放って私の肩をポンと叩いた。

 私は取り敢えず返事をしたけど


「 ………は…い… 」


 手に戻って来たマグカップを見下ろしながら、けれど頭の中は完全に放心状態。


 その後、どうやって仕事をこなしたのかはまるで記憶になくて。

 ただ、依頼されたお仕事の終了報告とともに、椹さんに詰め寄ったことは覚えてた。





 ―――――― 釉裏金彩技法…。





 国宝と呼ばれる技術を持った人をネットの中で発見したとき

 自分の脳裏に浮かんだのは、あからさまな後悔。



 いくら好きな人に手渡されたからって、あっさり受け取るべきじゃなかった。


 敦賀さんと自分の金銭感覚の違いは時々、感じてはいたけれど

 これは気軽に受け取っていいものでは決してない。



 それからしばらくの間、私は敦賀さんからもらったそのマグカップを、大切に、大切に持ち歩いた。

 一つの傷もつけないように、と細心の注意を払いながら。


 いつ敦賀さんに会えてもすぐ返却できるように。

 準備万端、整えた状態で…








 ――――― 敦賀さんとの再会は、それから一週間ほど経った青空の下だった。



「 つ…敦賀さん!!これ、受け取れません!! 」


 場所は某テレビ局の隣接地。

 私の声に気付いて振り返った敦賀さんは、あの日と同じようにスマートな笑みを浮かべて、やあ、と言って右手を上げた。


 もしかして今の私のセリフ、聞こえなかったんですかっ!?


「 敦賀さん、これ、お返しします! 」


 大尊敬する先輩俳優に食いつかん勢いでスタートダッシュをかました私は、数秒で敦賀さんの目前に到達すると、挨拶もそこそこに再び本題を切り出した。



「 …どうして? 」


 あれからずっと持ち歩いていたマグカップ。

 差し出した途端に敦賀さんの機嫌が急下降したのが目に見えた。


 不快に思われても仕方ないとは思うけれど、でもそんな顔をされても困るとも思う。


 あれから自分でも検索をかけてみた。

 そしてヒットしたページを眺めた。

 そこには手の平にすっぽり収まるような小さな一輪挿しが、安いもので一つ3万5千円だと明記されていた。


 壺、飾皿、花瓶、香炉、ティーカップ…。

 種類は色々あったけど、そう言えばショータローの実家で使われていたお客様用のお抹茶の茶碗は特注品で、一つ、ン万円って代物だった。


 安価物が多く出回っているからつい忘れてしまいがちだけど、本来、焼き物はとっても高価な品なのだ。


 このマグカップだって、本当は一体いくらするのか。

 それを確認するのも怖い。



「 あの…やっぱり私には身分不相応だと思い至りまして… 」


「 なにそれ?違うよな?本当は、気に入らなかったってことだろ? 」


「 違います!そんな理由ではありません! 」


「 俺からだったから、だから一度は嬉しいって、社交辞令で言ってみたんだよね?可愛いって言ってくれたのも、本当は気を使って言ってくれただけだったんだ。ごめんね?気付けなくて… 」


「 違いますってば!!この柄を見てそんなことを思うはずがありません!こんなに可愛いのに!! 」


「 じゃあ使って?一度はそうするって言って受け取っただろう? 」


「 そりゃ!!つい可愛くて欲しい…なんて思っちゃったりしちゃって、深く考えもせずに受け取ったりしましたけど、でも!椹さんが言うには人間国宝が作ったものじゃないか、って!!そんな高そうなもの、私、受け取れません! 」



 両手でそれを抱えて、ずずい!っと敦賀さんの前に差し出すと

 敦賀さんは長い睫毛を静かに伏せて、深い、深い溜息をついた。



「 …それは、値段の問題?じゃあ、その辺で売っている安価なものだったら、君はそのまま受け取ってくれたってこと? 」


「 そ…それは… 」


「 そういう意味だろう?高いから受け取れないって、そう聞こえる。…確かにそれを作ったのは人間国宝の名人だけど 」


「 やっぱり…。実は椹さんに教えていただいて、HP見て確認したんです。この柄の物は一つもありませんでしたけど、でも技法が同じで…。素人の私でも一目で判ったんです 」


「 うん、そうだよね。俺でも一目で判った 」


「 だから…敦賀さん、ごめんなさい。私、やっぱり… 」



 眉をひそめて言い淀むと、敦賀さんは寂しそうな笑顔を浮かべた。


 社さんへと顔を向けて、ふたつみっつと言葉を交わすと、判った…と言って社さんが遠のいていく。


 そのままこっちにおいで、と言って私を誘った敦賀さんは、自動販売機前のベンチに座った。誘われるまま私もその隣に腰を下ろす。



「 ねえ、最上さん?それは確かに名人が作ったものだけど、値段の問題だって言うなら、それには一円も払っていないよ? 」


「 嘘、つかないで下さい。国宝級の技法を使っているんですよ?お仕事があって、敦賀さんはその工房に足を運んだんですよね? 」


「 ウソ?嘘なんかついていないよ。正確には、俺は支払うって言ったんだけどね… 」



 私を見つめる敦賀さんの表情は、ひどく真面目で真剣で


 そこで一体、何があったのか

 そこで名人に何を言われたのか


 その一つ一つを丁寧に、丁寧に

 敦賀さんはありのままを私に話してくれた。



「 …だから、使ってくれる人がいるなら嬉しいって言われて、最上さんなら喜んで使ってくれそうって思って受け取った物なんだ。だから俺、最上さんからそれを返されたら名人に返しに行かなきゃならない 」



 話を聞いて、ツン…と胸が詰まった。


 敦賀さんの話は嘘をついているようには到底思えず

 セリフの一つ一つをとっても演技をしているようにも見えない


 だいたい、私にそんな嘘をついたところで、それにどんな意味があるだろう?



「 そう、だったんですか… 」


「 それこそ実際に名人の所に連れて行ってあげてもいいよ?そして、そのカップを使った感想をあの人に直接、伝えてあげて。そしたらきっと、喜んでくれると思う 」



 フ…と緩んだ口元が、このカップを作った人の事を思い描いたんだとすぐに判った。


 だって判る…

 敦賀さん、とっても優しい笑顔だもの



「 あの…そんな大切なもの…私が本当に、いいんでしょうか?その名人の、奥様が使うはずのもの、だったんですよね? 」


「 先方がそうして欲しいって言ったんだ。これ以上の詳細はいまは教えられないけど 」


 細い笑みをこぼした敦賀さんのそれは


 少しだけ寂しそうで

 だけどほんのちょっと嬉しそうにも見えた。


 少し離れた所から、社さんがこちらに向かって歩いて来るのが見える。


 ああ、もう

 私、自分のことばかりだった。

 それで敦賀さんの貴重な時間すらもいま、奪ってしまったんだ。



「 ね、最上さん。後塵を拝するって言うだろう? 」


「 え? 」



 それは聞いた事がない言葉だったけれど


 それ以上に驚いたのは、その台詞の脈絡の無さだった。

 何を言おうとしているのか自分にはぜんぜんわからなくて


 素っ頓狂に目を丸くして、私はそのまま敦賀さんを凝視した。



「 その名人とね、俺、ある約束をしたんだ。一方的なものだったけど、でもとても尊敬できる人だから。だから、敬意をもってその意に従おうかと思ってね 」


「 …って…え?それは、このマグカップのことですか…? 」


「 残念ながら、似ているけど違うね。覚えておくといいよ。俺はこうと決めたら絶対に譲らない。外柔内剛…ってね。まあ、対策は立てようがないだろうけど 」



 フ…と優しく目を細めて、敦賀さんはポケットに入れていた手を優雅な動作で引き抜いた。

 私の方へ向き直ると、ごく自然にその手を私の肩に置く。


 少しだけ前かがみになって

 だんだんと顔が近づいて来て


 あ…いま敦賀さんの右手が左頬に触れた


 大きな影がゆっくりと私の顔に落ちて来て…



「 !!ちょっ…つるがさ… 」




 ――――――― チュ…




「 キ…キャ ――――――― ッ!!!いやー!な…何をするんですかぁ!…ひと……人がこんなにいっぱい… 」


「 頬チューくらいで大袈裟な… 」


「 ほ……ほほほ…チューくら…くらいって…ほほチューって、な…何を… 」


「 だから、親愛の情を態度で表してみたんだけど。まあ君の性格を考慮して、スキンシップは徐々に増やしていこうと考えてはみたんだけど、ご老人曰く、年寄りはせっかちでね。あまり大した時間は待てないってせっつかれているから、それも時間の問題かな… 」


「 な???な…なにそれ…い…意味わかりませーん!! 」


「 ははは…。そのうち判るよ、嫌でもね 」



 心臓が早鐘を打ち過ぎていて

 もういま何が起こったのかがまるで理解できていなかった。


 そのうち判るって言ったけど…

 対策は立てようがないって、どういう意味????



「 つ…敦賀さ…キャ…! 」


 意表をついた攻撃で、腰を抜かしてベンチに縫い付けられたように立ち上がれない無抵抗な私に向かって、敦賀さんはさらに私の額にもキスを落とした。

 じゃあね、と爽やかな笑顔を振りまきおもむろに腰を上げる。



 途端に周囲の女性の黄色い声が耳に届いたけれど


 それより自分の心臓の音の方が、ずっとずっと大きかった。



 もう、一体なんだっていうの?



 惑わせるだけ惑わせておいて

 なんにもなかったような素振りで次の仕事場に向かっていくなんて!



「 もう!!敦賀さんってば!! 」



 その背中を追いかけて、私は真っ赤な顔で大きく声を上げた。


 届いたそれに反応して振り向いた敦賀さんの笑顔は、神々しすぎるほど眩しくて…

 そしてひどく満足げだった



 もう、本当にあなたはひどい人




「 こんな、公衆の面前で…何を考えてるんですか、あなたは!! 」




 私の手に残ったのは、優しい思いが詰め込まれたマグカップ。


 夜空とも青空とも取れる美しい蒼をバックに、葉陰から私の恋を見守る小花の妖精が控えめに顔を覗かせている。


 キラキラと輝く金粉が、まるで魔法の粉のよう




「 もう、本当にひどい…心臓が、止まっちゃいそう… 」





 ――――――― そのうち判るよ、嫌でもね。






 青空を見上げた途端に、敦賀さんの声が脳裏で鮮やかによみがえった。





 その言葉が示したように

 私が敦賀さんの本心を知る事になるのは、それから間もなくのこと。




 それこそ人前で堂々と



 あろうことかあの敦賀さんが


 よりにもよってこの私に向かって


 信じられないほど強烈な

 独占欲まるだしの言葉をはっきりと口走った事で




 私の心臓がキュンキュンに泣き叫ぶ、瞬きの刹那…







    E N D


続きまへん( ̄▽+ ̄*)


…ちなみに一応一通り調べたつもりでおりますが、もともと一葉、焼き物詳しくないです。なのでミスがあってもスルーで!お願いします。(。-人-。)


⇒双対の想◇後編・拍手

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※続きません発言、撤回。後日こちらに続きました⇒「双対の追」


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