SS 双対の想◇前編 | 有限実践組-skipbeat-

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こちらは蓮キョ中心、スキビの二次創作ブログです。


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 ちょわーっすо(ж>▽<)y ☆お元気ですかぁ?

 え?リーちゃん?そりゃあもう、妄想だけは元気溌剌(笑)


 時間が無い中をかいくぐり、PCに向かう時間を絞りに絞って捻出している勇猛果敢なリーちゃん(←おい)

 発掘している時間がないので新作妄想を怒涛UP。いえ、ごめんなさい。怒涛はジョークです。


 ネタバレなしの原作沿い両片想い蓮キョ。ちなみにタイトルは「そうついのそう」と読みますです。双も対も同じ意味なんだよー。


■ 双対の想 ◇前編 ■





 先日、某番組のナレーションの仕事を頂いた。

 ただ文章を読むだけ…というのは味気ないので、実際にその地を訪れ、そして目の当たりにしたいと言ったら社さんがその時間を作ってくれた。



「 …へえ…すごい、色々な柄があるんですね 」


 いただいた仕事は、国宝認定された男性が手ずから作る、様々な焼き物を紹介するもの。

 焼き物っていうと年配向けなのかな、なんて思っていたけど。


 美しいグラデーションを魅せる壺から始まって、飾皿、花瓶、香炉、茶道具の他に、普段使いのティーカップも見受けられた。

 中にはこんなものまで…。


「 これ、ネコ柄のUSBメモリ、ですか? 」


「 ああそれな、若い人向けなんだ。年寄りが作るものだが、焼き物を若い人にも持ってもらえたら、なんて思ってな… 」


 無骨…と言うのは失礼だろうか。

 けれど、仕事に向かうとどうしても食事を忘れてしまうんだ…と肩を竦めた名人は、骨ばった手を器用に動かしながら、とても気さくに笑顔を見せる。



 こんな風に穏やかに、年を重ねるのも魅力的だよな。



 さして広くも無い工房だったがぐるりと視線を一周させたとき、隣接した店舗の中で片隅に追いやられるように縮こまっているそれを見つけた。

 ちょうど工房と店舗の境目の棚。その奥に隠されるようにそれは存在していた。


 他の焼き物は美しく並べられていると言うのに、どうしてこれだけ…?と首をひねりながらもそれに手を伸ばした。


「 あの…これはどうして? 」


 ずいぶんと埃がかぶっていたそれは、少し大きめのマグカップ。

 国宝と呼ばれる技術を使っているのが俺でさえ一目で判る。


「 おお、見つかってしまった。それは曰くつきの一点ものだ。こんなのが良いって身内に言われてな、作ってみたりしたんだが、いざ出来上がったら使えないって言われたものだ 」


「 そんな、もったいない… 」



 それは、とても美しい絵柄だと思った。


 焼き物特有の優美な蒼を美しく焼き出し、たくさんの小花が散らせてある。

 草葉の陰からいくつかの顔がこちらの様子を窺うように顔を覗かせていて、それらすべての背中には妖精の羽が金箔で表現されており、さらに金粉がちりばめられていた。


 この名人が誇る技法では、釉薬を通して金が浮き出てくるため、絵の調子が柔らかくしっとりとした質感になり、とても品の良い輝きが出るのだと聞いていた。

 更に付け加えると、金粉や金箔がはがれない事もこの名人が誇る技術の一つらしい。


 本当に、その通りだと思った。

 なんだかもったいないな。

 これ、最上さんがとても好きそうな絵柄なのに…。



「 綺麗で可愛い絵柄ですね 」



 彼女の喜ぶ顔がなんとなく頭に浮かんで、瞬間仕事を忘れて小さな笑みがこぼれた。

 それを名人は見逃さなかった。


「 敦賀くんだっけ?いま、誰かの顔を思い浮かべただろ?ひょっとして彼女か?どうなんだ?そうなのか?ほれ、言うてみぃ 」


 図星を刺されて少し気恥ずかしく顔を背けた。

 どうしてこういうネタは老若男女問わず突っ込もうとするんだろう。


「 思い浮かべたのは女性なので確かに彼女…ですね。こういうの、好きな子なんでつい… 」


「 あっそ。そういう意味で聞いたんじゃないが。ま、いいか 」


 名人はそう言って自分の膝を叩くと、そうかそうかと何度も呟いて俺の手からマグカップを取り去った。


「 じゃあこれ、その子にあげてくれるか? 」


 ごそごそと動く名人の無骨な手は、それでも愛おしそうに丁寧に丁寧に埃を取り払っていく。


 いくら埃まみれだったとはいえ、国宝認定されたこの人が作った代物を、そんな簡単に受け取るわけにはいかない、と言った俺があっさりとそれを受け取ったのは、この人にこんな事を言われたからだ。



「 これなあ……本当は、娘にやろうとしたんだ…。だが、使う前にな…… 」


「 そうだったんですか… 」


「 さすがに売る気にもならんし、かといってしまっておくのも気が引ける。だが綺麗にしてやる気も持てなんで、こんな埃だらけになってしまったんだ。…もし気に入ってくれる子がいるなら、使ってもらいたいと思うんだがなぁ 」


「 …本当に、宜しいんですか? 」


「 そうしてくれたら嬉しいよな 」


「 じゃあ、お言葉に甘えます。そしたら… 」


 代金を払います、と続けたのに、それは絶対受け取りたくない、と名人は頑として譲らない。

 その代わりに後日、報告に来てくれればそれでいいと。


 夕暮れ時、オレンジ色の光に紛れて小さく笑みを見せた老人のささやかなそのお願いに、俺は首を縦に振る以外の選択肢を持たされなかった。








「 最上さん、いる? 」


 後日のラブミー部室。

 こちらも社さんにお願いをして、わざと時間をあけてもらった。


 どうしても、彼女にそれを早く渡したくて…。


「 敦賀さん、こんにちは。お久しぶりです 」


「 こんにちは。最上さん、あのね?これ、良かったら使って? 」


「 え?何ですか? 」


「 先日、思いがけず手に入れたんだけど、君が喜ぶかなって思って… 」



 袋から出してそれを彼女に見せると

 最上さんは即座に恍惚とした表情になった。



「 わ…!!キャー!なにこれ?すごく可愛いぃ!妖精?これは小花の妖精なのねっ!敦賀さん、これ凄く!凄く!か…かわいいですっ!! 」


「 良かった。気に入ったなら使ってもらえる? 」


「 ええっ?いいんですか?嬉しいですけど、本当に? 」



 本当は俺がちゃんと買ってあげたかったんだけど。

 あんな寂しそうな告白を聞いたあとでは、それをゴリ押しすることも出来なかったし。


 でもこれで名人も最上さんも喜んでくれるなら

 俺もやっぱり嬉しいかな。



「 本当に。じゃあね 」


「 へ?敦賀さん、一休みしないんですか? 」


「 うん、ごめん。今日はもう、ちょっと時間が無くて…じゃあね 」


「 え?えええっと、あの!!有難うございます、大切に使わせて頂きます!! 」


 多分、よほど彼女の琴線に触れたんだろう。

 いつもどこか遠慮がちな最上さんが、素直にそれを受け取ってくれた。



 高ければいいってものでもないし、想いが籠っているならそれでいい。



 そんな事を考えながら、俺はそれを受け取った日のことを思い出しつつナレーションをこなしていった。


 編集された画面に視線を送り、まだ幾日も経っていないはずなのに懐かしいな、なんて感慨にふける。


 そして、次のセリフを目の当たりにして文字通り、目が点になった。




「 ………名人の娘さんは、いまでも時々、工房を訪れてくれるそうです 」





 あのタヌキ名人…。俺を騙して一体、何の得があるっていうんだ。









「 先日はどうもお世話になりました。おかげさまでナレーションの仕事、無事に終えることが出来ました。それによると、娘さんはいまでも工房を訪れてくれるそうで… 」


 仏頂面でそう言った俺に、名人は目に涙を浮かべながら、ぶひゃひゃひゃひゃ…と腹を抱えて面白そうに笑った。


「 大人ぶって見えるがやっぱりお前は若造だな。最初に言っただろう。出来上がったそれを見せたら使えないと言われたと… 」


「 そう言えばそうでしたけど!! 」


「 かいつまんで話しただけで、別に騙した訳ではないぞ?まあ、座れや 」


 工房に腰を下ろしたままの名人に勧められるまま、指し示された場所に俺も腰を下ろした。



「 本当にあれをリクエストしたのはワシの妻だ。年齢の割に乙女チックな思考の持ち主でな。ほれ、あのUSB 」


「 ネコの柄が入ったやつのことですか? 」


「 そうそう。こういうのがあったら女の子はきっと喜ぶってな。娘は焼き物なんざ興味もないからアドバイスもくれんかったが、妻がそう言ってくれてな。……そう言えばそれまでコイツに何も作ってなかったな、なんてふと気が付いて、気まぐれに何か欲しい焼き物はあるか?って聞いて作ったのがあれだったんだ 」


「 ちなみに、奥さんは… 」


「 ……使う前に神に召された。あのマグカップな、本当に大変だったんだぞ?アレの言う蒼色を出すのが特に大変で何度もやり直したんだ。やっとOKが出て、それから柄を入れて釉薬を塗って、色を付けて慎重に焼いて、金箔を貼って金粉を散らして釉薬を塗ってまた焼いて……を繰り返した。もう二度と作らんわ…あんな手のかかるもの 」




 ―――――― せっかく、完成させたのにな…。




 そう言って名人は肩を落とし、静かに溜息を吐き出した。

 その背中に哀愁が見えた気がしたのは、たぶん気のせいではないんだろう。



 作り上げてはみたものの、使ってくれるはずの主は手にする前に旅立ってしまった。



 割る事は到底、出来なくて

 娘は使いたくない、と言って


 だけど自分が使う気にはならなかった


 なのに売りたいとも思わない




「 本当は、使ってくれる人が現れるのをずっと待っていた。埃にまみれても、片隅に追いやられても、それを見つけて、手を差し伸べてくれる人をずっと、な。…そんなカラクリだ 」



 名人の眼差しに嘘偽りはなく

 言葉を返せない俺に向かって、骨ばった手が悠久の笑みを浮かべる



 誰の人生にも、後悔はあるんだな…



「 すごく、喜んでくれました 」


「 それでいい。作り手として、そんな嬉しい言葉は他にない 」


「 本当に、ありがとうございました 」



 頭を下げた俺のそれに、無骨な右手がポンポンと優しく跳ねる。


 この人から見れば俺もまだ、充分すぎるほど若造なんだろう。

 確かにその通りだと思った。



 焼き物を極めたこの人と違って、俺は自分の演技を何一つ極めてなどいない。

 もしかしたらそんな日は、永遠に来ないかも知れないんだ。この人と違って…。



「 ああそうだ。お前が来ると判っていたからこれを特別に作っておいてやった 」


「 …何です? 」


「 お前用のマグカップだ。柄を揃えてみるのも一興かと思ったがな。さすがにそれだとお前は使えんだろうと思って、蒼のグラデーションにしてみたぞ。いまはもう、時間をかけんでもこの色を出せるようになったんだ。偉いだろ? 」



 差し出されたマグカップの蒼は素晴らしく美しかった。

 夜空とも、青空とも見えるその色…


 これが、名人の色



「 ありがとう…ございます… 」


「 いいか?このマグカップはあれとペアだ。…良い報告はなるべく早く聞かせてくれよ?年寄りにはそう大した時間は残されていないんだからな 」



 年を重ね、年輪を刻んだその目元に

 深く優しい思いやりのこもった笑みが拡がっていく。



 タヌキの名人が見せた

 言葉にしない強制的な約束を孕んだ

 それは目を見張るほどの優しい笑顔だった。




「 頑張ってみます… 」



 言いたいことが判っただけに

 俺にはそれ以外の答えを返すことが出来なかった。






 ⇒後編 に続きます


先日、新しい職場に新調したマグカップを持っていきました。カップの裏にシールが貼ってあることに気付いて思いついたお話だったり(笑)高級品にはシールついてないだろうな、と思った。


しかもメモ書きしたのはキョコちゃんsideのみ。なのでおまけで蓮くんを~と思って書いたのですが、それがこんな長さに…。

そんな裏事情があり、時間の流れを考慮して、蓮くんsideを前編に、キョコちゃんsideを後編にしたのです。



⇒双対の想◇前編・拍手

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