雨粒が地面にぶつかり花が咲くように飛沫する。
横殴りの風はビルの外壁を濡らした。
運河に落ちたものは、川面の水と弾け合った。
ひとつ、またひとつ。
次第に激しさを増す雨粒は、そんな具合にいたるところを染めていった。
2007年7月28日。
日中、容赦なく熱を発した太陽は、薄い雨雲にさえぎられながらも、街路樹の影をいっそう長くして、今ようやく沈もうとしていた。そしてこの日最後の陽光が、地面に、運河に、また人々の傘の上に打ちつけられて砕かれた雨しぶきを反射させ、関内の町を白く浮かび上がらせた。
人々は、天候の急激な変化など週末を彩る素材の一つと言いたげに、誰しも楽しそうに関内の町を行きかっていた。
雨の激しさにもかかわらず、空は依然として明るいままという不自然さが、気分の高揚をさそうのかもしれない。
僕は運河沿いを女の子と並んで歩いていた。
彼女のサンダルからのぞいた足が雨に濡れ汗と混じり、その生々しさがかえって健康的な印象だったのをよく覚えている。
一時、女の子の声どころか高架を走る電車の音をかき消すほどの激しさをみせたが、一本しかない傘の中、顔を寄せて話さなくてはならない不都合を楽しめたりした。
蒸れたアスファルトのにおいを浴びながら、夕食は魚じゃない方がいいな、などと考えていた。
母からメールが入った。
「お父さん、亡くなったよ」とただ一言だった。
父は2カ月で死んだ。
<つづく>