ヒジュラ暦八年ラマダーン〔九月〕、マッカ遠征の経緯とマッカ解放(10)

 しかしアリーは、使徒がいったんあることを決めた以上は、誰がそのことを彼と話をしても無駄であると答えた。すると彼はファーティマに向かって、「おお、ムハンマドの娘よ、そなたはここにいるあなたの幼い息子が永遠にアラブの長となるために、この子に保護者としての役目を務めさせていただけないか」、と言った。

 彼女は、自分の息子はそのような役目を務めるには幼すぎるし、いずれにしても誰も神の使徒に反対して保護を与えることはできない、と答えた。彼はアリーに、この絶望的な状況での助言を求めた。

 アリーは、「アッラーにかけて、あなたに本当に役立つことが何であるか、私には分からない。しかし、あなたはキナーナ族の重鎮であるから、人びとの間に立って保護を求めそれから自分の国に帰りなさい」、と答えた。このようにすることが何かの役に立つと考えているかと尋ねられると、アリーは、そこまで考えていないが、ほかに何も考えつかない、と答えた。

  するとアブー・スフヤーンは、マディーナのマスジドで立ち上がり、「おお、人びとよ、我は保護を求める」、と宣言した。そしてラクダに騎乗してマッカに帰り、クライシュたちは彼に情報を求めた。
 彼は、「ムハンマドは我と口をきかず、アブー・クハーファの息子〔アブー・バクル〕からは何の良いことも得られず、ウマルは妥協の余地のない我らの敵であると分かった。アリーが最も好意的であることが分かり、我はアリーが助言したことを行ったが、彼は、この行為が何かの役に立つかどうかは知らなかった」と答えた。
 クライシュたちは、アリーは彼をからかっただけであり、彼の宣言は価値がないと不平を言ったが、彼は「ほかにどう行動することも、言うこともできなかった」、と答えた。