夜の旅(2)

 使徒が次のように語ったと、私はイラクのバスラの出身で教友の一人であるアルハサヌル・バスリから聞いた。

 「私がアルヒジュルで眠っていると、ジブリールがやって来て、私の足を揺すった。私は起きたが、何も見えなかったので、また横になった。するとまたジブリールがやって来て、足を揺すった。私は起きたが、何も見えなかったので、また横になった。彼はさらにもう一度やって来て、私の足を揺すった。私が起き上がると、彼は私の手を引っ張って、カアバ神殿の扉の外に連れて行き、そこには、白色で両側に羽の生えたラバとロバの中間ほどの大きさで、羽と足で、視界の限界まで一足飛びに行ける動物がいて、ジブリールは私をそれに乗せて、一緒に出発した」。

 使徒が次のように語ったと、私は伝承家であるカターダル・アンサーリから聞いた。

 「私がその天馬に乗ろうとすると、それは嫌がった。するとジブリールは天馬のたてがみに手を置き、お前は恥ずかしくないのか、おお、ブラークよ、そのように振る舞って。神にかけて、ムハンマドほど名誉ある神の僕が、これまでお前に乗ったことはない、と言った。天馬は恥ずかしさのあまり大汗をかいて、静かになったので、私はそれに乗ることができた」。

 また、アルハサヌル・バスリは、語った。

 「使徒とジブリールは旅を続け、アクサモスクに着いた。そこで使徒は、預言者の集団の中に、イブラヒーム、ムーサ、イーサを見つけた。使徒はイマームとなり、彼らと共に礼拝した。すると彼に、酒とミルクを入れた二つの器が差し出された。使徒はミルクを入れた器を取ってミルクを飲み、酒には手を出さなかった。ジブリールは、そなたは生来、正しく導かれているから、そなたの民も正しく導かれよう、ムハンマドよ。そなたたちに酒は禁じられている、と言った。それから使徒はマッカに戻り、朝になって、この出来事をクライシュたちに話した。彼らのほとんどは、神にかけて、これは単なるたわごとだ。隊商がシリアに行くのに一ヶ月かかり、そこから戻るのにまた一ヶ月かかるというのに、ムハンマドは一晩で戻れるというのか、と嘲笑した。

 多くのムスリムが信仰を放棄し、彼らの何人かはアブー・バクルに会い、あなたは今、あなたの友人ムハンマドをどう思っているのか、アブー・バクルよ。彼は、昨夜、アクサモスクに行ってそこで礼拝し、マッカに戻って来た、と主張している、と言った。アブー・バクルが、それはお前たちが嘘を言っているのではないか、と答えると、彼らは、ムハンマドはまさに今、カアバにいて、そのことを皆に話しているところだ、と言った。

 アブー・バクルは、使徒がそう言っているのであれば、そうなのだ。それが何の驚きだというのか。彼は私に、天上の神から地上への啓示は、昼あるいは夜の僅かな時間で彼に到達する、と言っており、私は彼を信じている。このことは、お前たちが今、仰天していることより、よほど驚くべきことではないか、と答えた。それからアブー・バクルが使徒のところに行って、彼らが話していることは本当ですか、と尋ねると、使徒は、彼らが言っていることは本当だ、と答えたので、アブー・バクルは、私はかつてアクサモスクに行ったことがあるのですが、どうぞモスクの様子について説明してください、と使徒に懇願した。すると神の御意思で、使徒の目の前にアクサモスクが見えるようになった。使徒がアクサモスクの一部始終を説明する度に、アブー・バクルは、その通りです。私はあなたが神の使徒であることを証言します、と言い、説明を終えると今度は使徒が、アブー・バクルよ、そしてそなたは、スィッディーク〔真実を証言する者〕である、と言った。これが、アブー・バクルがスィッディークという敬称を得た由縁である」。