使用者の付随義務 | 日本はモノづくりだけでいいのか!

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この点については不正競争防止法が規制を行っており、「営業秘密」という一定の要件をみたす情報については、退職した後の労働者であっても不正利用が禁じられ、法違反に対しては、損害賠償請求や秘密利用行為の差止め請求が可能になります。より問題の多いのが、いわゆる競業避止義務、すなわち、退職した後の労働者が元の勤務先のライバル会社に就職したり、またはライバル会社を自ら立ち上げたりしないようにする義務の問題です。この点については、企業秘密保持義務と同様、退職後の労働者を拘束する特別の規則や合意が必要か否かが問題になりますが、必要と考える立場が有力です。


むしろ、裁判例でよく問題となるのが、競業避止義務を定めた規定や合意が労働者を拘束するにはどのような要件をみたす必要があるかという点です。使用者としては、企業秘密を守る必要性や、顧客を奪われるのを防ぐ必要性がある場合がありますが、労働者としては、退職後の職業選択の自由が制約されてしまうことから、裁判例は、合理性が認められる限度で、労働者は競業避止義務を負うとしています。そして、合理性があるか否かについては、使用者の側で競業を禁止する必要性、退職した労働者がそれまでに行っていた職務やポスト、競業が禁止される時間的・場所的範囲、代償措置の有無や内容などを総合的に判断して決するものとしています。


使用者も、労働者に対して、賃金支払義務以外の付随義務を負っています。その内容も様々ですが、特に重要なのは安全配慮義務です。この義務は判例により認められてきたもので(陸上自衛隊八戸車両整備工場事件・最三小判昭和五〇・二・二五民集二九巻二号一四三頁)、使用者は、労働者を支配・管理下に置いて労働させるにあたり、その生命・身体・健康を配慮することが信義則上求められます。こうした観点から、労働契約法五条は、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定めています。ここで、「労働契約に伴い」という表現は、安全配慮義務は、特に根拠規定を置かなくとも、労働契約から当然に発生するものであるということを示しています。


安全配慮義務の内容は多岐にわたりますが、大きく分ければ、労働関係における物的な面での管理における安全配慮と、人的な面、すなわち人員配置や指揮命令の面での管理における安全配慮に分けられます。まず、物的な面での安全配慮とは、事故防止のための施設を整備することが代表的なものです。次に、人的な面での安全配慮とは、危険な仕事等については必要な資格をもった者を配置すること、安全衛生のための教育を行うこと、従業員の安全や健康に配慮した作業管理を行うことなどがあげられます。最後の作業管理との関連では、最高裁判例は、いわゆる過労自殺のケースにおいて、使用者は、従業員が長時間労働により心身の健康を損なうことがないように注意する義務を負うとしており、恒常的に著しい長時間労働を行っていた従業員に対して会社が業務量を適切に調整しなかったことから、損害賠償責任を認めています。


使用者が安全配慮義務に違反したために労働者が被害をこうむった場合には、労働者やその遺族は、債務不履行(民法四一五条)に基づく損害賠償を請求することができます。損害賠償請求を行う場合は、その他に、不法行為(民法七〇九条など)に基づく損害賠償請求として、適用すべき法規を考えること(法的構成)もできます。両者の法的構成を比較すると、一般的にいえば、契約関係の当事者を前提とした債務不履行責任のほうが被害者に有利な面が多くなっています。たとえば、不法行為と構成した場合の損害賠償請求権の消滅時効期間は原則として三年ですが(民法七二四条)、債務不履行と構成すれば消滅時効期間は一〇年となります。