KOREAN‐JAPANESE
S.N.Pには日本人以外に多くの韓国人が訪れる。
初めは口コミで広がっていった訪問者の繋がりは、ここを訪れた人たちがインターネット上のサイトでS.N.Pを紹介したことによってより多くの韓国人に知れ渡ることとなった。
日本に興味のある人や日本語を学びたくてやってくる韓国人も多い。一ヶ月500バーツ程度の料金で受けることのできるゴンさんの日本語教室は、他の高額な授業料が必要な日本語教室と比べれば破格の値段でもある。
僕がS.N.Pに来てからも数人の韓国人と出会うことになったが、僕にとって日本のお隣韓国の人たちと「共に過ごす」といった形で交流を持つのは初めてだった。日本で韓国ドラマが流行しようが、日韓交流がどうのこうのと言われようが実際に触れあう機会なんていうのは今までなかったし、どんな価値観を持った人たちなのかということも知らなかったのだから。
ここで出会った韓国人たちは独特のカラーを持った人たちばかりでカンチャナブリでホームステイという目的以外の部分でとても興味深い世界を見せてくれる場を僕に与えてくれた。
僕がS.N.Pにきて最初に顔を合わせた韓国人EJ。
彼の撮る写真には毎回驚かされる。
単純に写真を見せてもらって凄いと思ったのはこの旅だけで言えばヨシさん 以来だ。
写真についてはてんで何も知らないど素人であって偉そうなことは言えないけれど、僕は彼らの撮る特に「人」の写真が好きだった。
でもヨシさんの撮る写真 とEJの撮る写真は違う。
なんというかヨシさんが被写体の持つ空間に溶け込むようにしてとても近い距離感で内側からその人を切りだすのに対してEJの場合、実際の距離は近いにもかかわらず相手の内なる領域には踏み込まず、その人が一番輝きを放つ瞬間を外側から待って切りだす。
それはその人自身知らぬ間に見せている一瞬の、本気の自分だったり、素の自分だったり。だから場合によっては意外な自分に映ることもある。
試しに同じ被写体を同じ角度と同じ距離で撮ってみても彼と同じような写真をとることはできないことからしてEJ独特の世界がそこに存在していることがわかる。
彼が描くイラストもまた同じで、頭にイメージしたものをその場でさささっと書き上げるそのセンスには脱帽させられる。
EJはまさしくコリアンアーティストと呼ぶにふさわしい人物。
一つ一つの言葉を丁寧に伝えるように話す姿が独特だったチャーリー。
仕事の休暇を利用してこのS.N.Pを訪れた彼は韓国でも有数の広告会社に勤める敏腕クリエイティブディレクター。
見た目の穏やかさからすると「普通」というイメージしかなかったのだが、日本でもヒットした韓国映画「シュリ」でも知られる主演ハン・ソッキュと仕事をした時の話をはじめ、その活躍ぶりを聞けば聞くほど彼が一級線で働くエリート広告マンだと知り驚くばかりだった。
一緒に酒を飲んだり、ビリヤードをしたり、ゴンさんとのネイチャートレッキングに出かけたりする中で、仕事は仕事、遊びは遊びときっちりわける彼は限られた休暇の中で無駄なく且つ思う存分心も体も開放しながら一日一日を楽しんでいるように見えた。
「CHANGE THE RULES」
チャーリーの名刺の裏に刻まれた文字。
彼は既に自身の世界に独自のルールを築き上げているような気がした。
スタートして1年足らずのS.N.Pで既にリピーターでもあるキムさんは、ここの居心地の良さを知っていることはもちろん、良き理解者でもあった。
今回二度目の長期滞在になるという彼は今回S.N.Pへの寄付として大量の書籍、マンガ、そして韓国の酒を持ってやってきた。
大柄で一見恐そうな外見や酒豪のイメージとは裏腹に笑った時の目は細いながらも優しい。実は以前EJと同じ会社で働く同僚だったという彼はコンピュータに関しては韓国で右に出るものがいないと言わしめるほどのスペシャリストだという。
ハードコアをこよなく愛する30代の彼も人としてやはり多彩な面を持っていて、酒だけでなく、彼自身についてもまだまだ底が知れない深き人物だ。
このようにしてこのS.N.Pで、他に何人もの韓国人と接する機会を得ることができた。
寝食を共にし、カンチャナブリの自然を一緒に歩いてまわった。
酒を飲みながら朝まで語ったこともあった。
血液型別の性格について日本と韓国の違い、なんていうくだらない話題から今のS.N.Pについてとか、日本の作家「だじゃいおさむ」についてどう思うか、なんていうことについても話したことがあったっけ。言葉の壁からお互い言いたい事も言えずにもどかしく思ったこともあった。それでもその全てが僕にとって貴重な時間だった。
何がどのように、ということはうまく言葉にできないけれど、ここで韓国人の仲間と交流を持てたことは僕にとってまぎれもなく素晴らしい思い出と大いなる刺激、違った世界観をもたらしてくれたのだった。