朝比奈なを著「見捨てられた高校生たち」読了。 | DON'T WORRY! BE HAPPY!!

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つれづれなるままに綴る日記です。

元教師が底辺校のすさまじい実態をつづった本。
現場を知らない人が書いた漫画やドラマとは一線を画すものがある。
要約を書いておきます。


まず、底辺校に集まる生徒には三つのタイプがある。


1.小中学校で不登校を経験した子
潜在的な能力は高いが、
小中学校で不登校になって学力を伸ばすことができなかった。
学習の遅れを高校で取り戻そうと考えている。
一部の人にしか心を開かず、対人能力は低い傾向がある。


2.いわゆるワル
本当は高校に来たくなかったのに、親に勧められて進学したという生徒が多い。
のっけから勉強する気はなく、様々な授業妨害をする。
教師への暴言や暴力事件を起こすことも日常茶飯事。
教師は手を上げることができないことを利用して巧妙な挑発をする。
このタイプの多くは学業不振か問題を起こして退学する。
だが、それまでに周りに与える悪影響たるや計り知れない。
退学後はフリーターになるか、
建設業や製造業などの高卒の資格が要らない仕事につくことが多い。


3.無気力な子
生気が全く感じられず、極端に学力が低い子もいる。
真面目に学校に来るし、おとなしく授業を受けている。
掃除はきちんとするし、部活動はせずに早く帰宅する。
何も問題はなさそうに思えるが、じつは人の話を全く理解しておらず、
自分で考えて何か行動を起こすこともない。
1よりも重症の対人能力不足。


同じタイプが固まって入学するなら対応はできる。
だが、この3つのタイプが一緒にいると、とても対応できない。
これこそが、底辺校が抱える最大の問題。


入学式と卒業式に来る保護者も3つのタイプに分けられる。


1.控え目ながら華やかな服装の保護者
子どもを入学・卒業させた安心感がにじみ出ている。
振る舞いや言動から常識と知性を感じさせる。
これは1のタイプの生徒の保護者。


2.目一杯きらびやかに着飾る保護者
式典を心から喜んでいる。
「私は中退だから、卒業式は初めて」などと賑やかにしゃべり散らす。
80年代にツッパリだった方々で、ほとんどがタイプ2の保護者。


3.人目を避けるようにやって来る保護者
普段着のまま、オドオドしながらやってくる。
応対する教師にも何度も頭を下げる。
生気が感じられない。タイプ3の保護者。


似たタイプの子が拡大再生産されているのだ。
すべての家庭に共通するのは「貧しい」ということ。
日本では経済格差が拡大してきているが、
なかでも貧しい家庭の子どもたちが底辺校に集まってきているのだ。


次に、授業風景をみる。
まずチャイムとともに席についている生徒は半分ほど。
たいていは生徒同士でおしゃべりをしている。
全員を席につかせるまでに5~10分ほどかかる。
生徒が集中して授業を聴いていられるのは20分ほど。
それ以外はおしゃべりやメールしたりする。
教師が優しかったり女性だったりすると、
甘く見られて私語が増える傾向がある。
生徒の授業態度が悪いのは、彼らが勉強する気がないから。
彼らは「今の日本で勉強して何になる」という、
学校や社会に対する不信感をもっている。
そして、「どうせ俺は馬鹿だから」と言い訳して努力を怠る。

実際、いくら勉強してもできない子が存在する。
分数計算ができない大学生がいると一時期話題になった。
だが、底辺校の実態はそれをはるかに上回る。
たとえば、二桁の足し算ができない。
アルファベットは書けず、特に「b」と「d」の区別がつかない。
なんと、ひらがなの「を」や「は」を知らない子や、
カタカナの「ヲ」と「ヨ」を知らない子もいるという。
教師たちは指導にあたるが一向に改善する気配が見られない。


学力だけではなく、常識のなさも桁はずれ。
まず、フォーマルな話し方を知らない。
官製葉書や手紙の書き方も知らない。
受験料を誰が払うのかも、銀行振込みの仕方もわからない。
電車に乗れない、路線図が読めない、温度計が読めない。
簡単な日本語も知らない。
ここまでくると日常生活にも支障をきたすし、
学業不振よりもこちらのほうがよほど深刻な問題。


続いて、底辺校の高校生たちの経済状況をみる。
底辺校の生徒たちはおしなべて貧しい。
なかには授業料は滞納、遠足や修学旅行にも行けない子や、
鉛筆やノートなどの筆記用具も満足に買えず、
2cmの鉛筆で小さい字でノートにびっしり書く子もいる。
こういう子の多くは家計を助けるためにアルバイトをしている。
お弁当はもたず、昼食はぬき。
健康診断をすると喘息やアトピーなど様々な病気が浮かび上がる。
特に虫歯はひどく、高1ですでに自分の歯がない場合もある。
しかし、健康保険に入っていないから、治療を受けられない。
新聞はとっていないから企業が要求する社会常識は備わらない。
お金がなくて運転免許を取得できないから就職活動も不利。
とにかく日本の中に恐るべき貧困がはびこっている。
一億総中流などと言われた時代はとうの昔に過ぎ、
貧富の差が拡大し続け、そのしわ寄せが底辺校に来ている。


底辺校の高校生たちが抱える困難は貧困だけではない。
家庭環境も大変である。
片親など複雑な家庭で育っていて、
朝ご飯を家族で食べてから出勤・登校などということは皆無。
親たちは子どものことには無関心。
子どもの就職に有利な資格を取らせようとしても、
「検定料が払えない」といって協力しない。
教師が一時的にたてかえた治療費は踏み倒すし、
子どもの貯金も勝手に使う。
だが、そんな親に限って、
高価なブランド物のバッグをもっている…。
無関心の極みとして、月に1~2回しかお風呂に入らず、
下着もそのときにしか換えない女の子の話も。
毎朝顔を洗い、歯を磨くことも知らない。
お風呂での髪の洗い方も知らない。
幼児期に親にお風呂に入れてもらっていないのだ。


家庭の問題は無関心だけではない。
子どもたちは親から「おまえはダメな子」と言われ続けるなど、
日常的に言葉の暴力を受けている。
「高校まで行かせたんだからいい仕事に就きなさい」と圧力をかけられ、
就職が決まると「お前を採る会社はろくな会社じゃない」と言われる。
女の子の場合はさらに悲惨で、性的虐待を受けていることも。
その苦しさからリストカットを繰り返すことも珍しくないという。


こうした複雑な家庭環境で育つ子どもは、愛情渇望症に陥る。
そのためか、普通の家庭生活を望むようになる。
10年後の自分はどうしているかと訊くと、
みな判で押したように「結婚して幸せな家庭を築いている」と答える。
恋愛と結婚を重視する恋愛至上主義となり、
短期間のうちに付き合ったり別れたりを繰り返すようになる。
性体験をもち、毎年卒業までに妊娠する女の子がいる。
高卒後、大学を中退して駆け落ちするカップルもいるという。
当人たちは幸せなのかもしれない。
だが、生まれてくる子どもが貧困にあえぐのは目に見えている…。
貧困の連鎖反応が起きている。


さて、底辺校の高校生たちの驚愕の実態をみたが、
彼らは社会がうんだ犠牲者といえる。
彼らのような不幸な子どもが生まれないように、
社会構造を変えなくてはならない。
たとえば、底辺校の実態を踏まえると、
学校の体制を変える必要があるはず。
だが、保守的な人ばかりが管理職に抜擢されるから、
なかなか変わらない。
問題はあまりにも大きく、無力さを感じる。
蟷螂の斧(とうろうのおの)なのだ。

底辺校をこのまま放っておくのが社会の総意なら仕方がない。
だが、底辺校の実態が知られていないなら、
まず知らせる努力をするべきだと考えて、筆を取ったとのこと。


恐るべき内容です。
僕も私立校で教鞭をとっていて、
子どもたちのやる気のなさ、常識のなさに驚愕することが多い。
そして、授業でどんなに工夫を凝らしても、
やる気のない生徒にとっては糠に釘であることも痛感した。
こんな子どもが社会に出るなんて大丈夫か、
と思うことが多々ある。
だが、底辺校の実態は僕の想像を絶していた。
自分の勤務先でも、さすがに「b」「d」の区別がつかない生徒や、
一か月に1~2回しかお風呂に入らない生徒はいない。

赤字国債や少子高齢化など、日本が抱える課題は多い。
だが、子どもの貧困、教育の問題も深刻だ。
自分にもできることをみつけて何かしら力になりたいものです。