くまです.遅まきながら明けましておめでとうございます.

 さて,本館里山コーナーの動物標本の多くは,旧学校教育学部東雲キャンパスで所蔵していた生物標本を専門業者にクリーニングしてもらった後,展示しているものです.
 生物標本は,鳥類・ほ乳類の剥製,魚類のホルマリン標本,昆虫,貝類,クジラの骨など多岐にわたります.
 これらの生物標本は東広島キャンパスの教育学研究科の一室に現在保管されています.

教育標本室01

教育標本室02

 この室を管理されている教育学研究科のT先生に案内して頂き,生物圏科学研究科のO先生とともに標本リストを作成して,保存状態がよく展示にふさわしいものを本館で展示しています.


 この室には『賜天覧』と書かれた格調高い標本ケースが保管されています.
天覧標本ケース

 これは,広島県で採取された貝類や粘菌類を,生物学者でもある昭和天皇に昭和11年10月にお見せし,それを記念して製作したものです.
 興味深いのは,ケースに収められている貝類標本のいくつかは,ラベルが付いた小箱しか残っていないものがあるのです.
 なぜ標本の貝がないのか? それは,昭和天皇がその貝を所望されて,それを献上したためなのです.

 さて,ここからは蛇足です.
 手元にある広島大学二十五年史「包括校史」をみると,旧学校教育学部の前身校である旧広島県師範学校に昭和天皇が昭和11年に行幸されたという記録がないのです.(他の包括校の記録にもありませんでした)
 いろいろ調べてみると,当時江田島にあった海軍兵学校へ,昭和天皇が昭和11年10月に行幸されていることがわかりました.おそらく,その行き帰りのどちらかに,当時広島市皆実村(現南区皆実町)にあった広島県師範学校に立ち寄られ,この標本を見られたのだと思います.
 海軍兵学校への行幸という当時の世相を反映する仕事をこなす中で,つかの間,この標本を眺め,瀬戸内海の貝を気に入られたことは,昭和天皇の生物学者としての一面を示す貴重なエピソードだと思うのです.