ミーム Ⅳ【内】利己的遺伝子の進化 突然変異 自然淘汰 進…
ミームの進化
ミームの進化について、ブロディの説明を以下に示す[1]。
遺伝子と同じように、ミームは、ある程度正確な複製をし、またある程度の変異(コピーミス)を起こすので、進化をするのである。この両方がなければ進化は成り立たない。ミームの進化は遺伝子よりずっと速く進行する。
利己的遺伝子から見れば、私達が遺伝子の乗り物であるように、ミームの視点から見れば、心や文化は利己的ミームの自己複製のための乗り物である。ただし、これはミームが実際に視点を持っているという意味ではない。なぜわざわざミームの視点で考察するのかといえば、それが分かりやすいからである。例えばテレビという文化は、テレビに関するミームの自己複製に役立つから存在するのである。
ミロのヴィーナス
ミロのヴィーナスのように、人気のある芸術は、適応度の高いミームを持っている。ミームの進化は、どのミームが多くの心へ複製され、どのミームが消えていくかという過程によって進んでいく。よってミームの進化は、より多くの心へコピーされ、拡散されるミームが有利である。
それでは何がミームの拡散を助けるのか、という疑問を解くには、ミーム進化のほんの初期の段階について考えてみる必要がある。人類に言語が生まれるより以前、脳は遺伝子進化の力により、DNAを複製させるという目的で進化してきた。つまり脳の進化は、人が生き残り、DNAに共通部分の多い相手と結婚して子孫を増やすことができる方向へと進んでいった。このため脳は、動物が持つ、本能から来る基本的な四つの衝動によって動くように進化した。四つの衝動とは、闘うこと、逃げること、食べること、結婚相手を見つけることである。
意識を持つように人類が進化する以前に、人類は言語を使えるようになった。言葉を使ってコミュニケーションを発達させるようになると、コミュニケーションにより危険を避けたり食べ物を見つけたり、また結婚相手を見つけることができ、生存と子孫を残す可能性を上げることができた。したがってコミュニケーションは、危険、食べ物、生殖といった特定の情報をやりとりするように進化してきたのである。
現在でも、私たちは危険、食べ物、生殖を含んだミームに注意を払う傾向が強い。したがって、危険、食べ物、生殖を含んだミームは、他のミームより速く広まるのである。
ミームの起源
コミュニケーションによって人類の生存と子孫の繁栄を助けた基本的ミーム、すなわちミームの起源は、以下のようなものが考えられる。
- 危機
多くの人に恐れの感情を伝えられるミームは、仲間達にすばやく危険の警告ができるため、多くの人の生存を助けることができる。
- 使命
敵と戦う、食べ物を見つけるなどといった使命を集団のメンバーが持つことで、その集団は共通の目的に向かって、ともに働くことができ、生き残りやすくなる。
- 問題
食糧不足や結婚相手をめぐっての争いなどを解決すべき問題として認識するミーム。これにより、生存や生殖のチャンスが高まる。
- 危険
危険な場所、毒のある食べ物など、何かを危険と判断するミームによって生存を助け、子孫を増やせる。
- 好機
食べ物を手に入れたり結婚相手を見つけるといったチャンスにはすぐ行動を起こすことにより生き延び、多くの子孫を残せる。
これらミームの起源となった基本的ミームは、人類の生存と生殖に役立ってきたし、現在も私たちの身近にある。現在の私たちも、危険、食べ物、生殖とともに、これらの基本的ミームに関して頻繁にコミュニケーションをとっている。例えばテレビ番組、新聞、本などに含まれている。
ダイエット方法についての情報が広まりやすいのは、それが「食べ物」に関していて、医者という「権威」からの情報で、自分の「性的魅力」を高めてくれる「好機」だからである、と説明できる。
こうした基本的ミームを、意識を持つ以前の人類がやりとりしていたと想像できる。そして、さらに遺伝子進化の結果、人間の脳は意識を持つようになり、意識もまた、DNAを複製させるために機能した。そして、その意識という機能の上に、私達の様々な思考が可能になっている。しかしその意識はもともと、生存と生殖のために進化してきた脳を土台にして偶然生まれた。そのため、私たちの意識はこれら基本的ミームに注意を引きつけられる傾向がある。
二次的衝動
四つの基本的衝動を持ったところで脳の進化は止まらなかった。四つの基本的衝動を満たすために、さらに二次的衝動を持つように脳は進化した。以下にあげる本能的な二次的衝動を持っているかどうかは、個人差がある可能性がある。
- 属する
集団に属したいという衝動。進化論的には、集団でいた方が安全だという事や、経済的理由、異性が多くいるという理由がある。
- 自己の区別
自分は特別である、目立っている、重要な存在であると思いたい衝動で、人にそう思わせるミームは生き残りやすい。人は何か新しいこと、重要なことをしたいという衝動により、食べ物が見つけやすくなったり、異性から目立つ存在になることができた。
- いたわり
他人の幸福を気遣おうとする衝動。人類はDNAのほとんどの部分を共有しているため、他者を気遣う衝動が進化した。したがって、他者をいたわるミームは心に入りやすい。
- 承認
他人に認められたいという衝動。あるいは自分自身が賛成できることをしたいという衝動。こうした衝動を利用するミームは、認められない場合に感じる罪や恥といった感情も引き起こす。
- 権力への追従
権力とうまくやっていこうとする衝動。権力と上手くやっていくことで、DNAが生き残り、複製されるために、脳はこの衝動を持つように進化した。
こうした衝動は強い感情が伴う。衝動が行わせようとする事をすれば気分が良くなり、しなければ悪くなる。人によって、同じ衝動に対して同じ感情を持つかどうかはよくわからない。しかし重要な点は、私たちは強い感情に繋がる二次的衝動を持っており、強い感情を引き起こすミームは、それだけ私たちの注意を引く。つまり心に入りやすく、ミーム進化において有利である。そして文化の一部となるのである。