自己愛性パーソナリティ障害 Ⅴ【後】類型 2つのタイプ 回…
その他の分類
セオドア・ミロンは自己愛人格に見られる特徴を描写し、それらを5つのサブタイプとして分類した[62][63]。臨床的にはどのサブタイプにおいてもその純形はほとんど見られず、特徴は少なからず重なり合っているのが普通である[63]。
分類 | 概要 | 人格特性 |
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反道徳的 ナルシスト |
反社会的特徴を含んでいる。搾取的で、不実で、人をだます、無節操なペテン師という人物像をもつ | 良心に欠けている。無節操で、道理に無関心であり、不実で、詐欺的で、人を欺き、傲慢で、人をモノのように扱う。支配的で、人を軽蔑し、執念深い詐欺師である |
多情型(好色的) ナルシスト |
演技的特徴を含んでいる。ドンファン性格者(多情で誘惑的)であり、エロティックで魅惑的な自己顕示的人物である | 性的に誘惑的であり、魅惑的で、心を引きつけ、思わせぶりである。舌のよく回る巧みな人物であり、快楽主義的な欲望に耽るが、本当の親密さにはほとんど無関心である。貧乏な人やうぶな人を魅了し、意のままに操る。病的に嘘つきで、人を騙す |
代償的 ナルシスト |
受動攻撃的な特徴を含んでいる。また、過敏で回避的な特徴を有している | 自尊心の欠如および劣等感を中和あるいは相殺することに努める。すなわち、自分は優れており、特別で、賞賛されるべきであり、注目に値するという幻想を生み出すことで自己の欠損をバランスしようとする。それらの自己価値感は自身を強調した結果生まれたものである |
エリート主義的 ナルシスト |
純粋なタイプである。ヴィルヘルム・ライヒの男根期的自己愛性格に相当する | 偽りの業績や特別な子ども時代の体験のために、自分は特権的で、特別な能力を有すると信じている。しかし、立派な外見と現実との間に関連はほとんどない。恵まれた、上昇気流にのった良好な社会生活を求め、人との関わりにおいては特別な地位や優越が得られる関係を築こうとする |
狂信的 ナルシスト |
妄想的な特徴をもつ | 自尊心はひどく幼少時代に捉われており、普段から誇大妄想的傾向を示し、全能の神であるという幻想を抱いている人物である。自分は重要ではなく、価値が無いという幻想と戦っており、素晴らしいファンタジーを夢想すること、あるいは自己鍛錬を通じて、自尊心を再確立しようと試みている。他者から是認や支持を得ることができない時には、壮大な使命を帯びた英雄的で崇拝される人物の役割を担おうとする |
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セオドア・ミロン(2003)[64]
共通特徴
自己愛性パーソナリティ障害は、対人関係における搾取的行動、共感性の欠如、激しい羨望・攻撃性・自己顕示欲という諸々の特徴を示す[65][66]。彼らの持つもう一つの側面は、その傷つきやすさである。意識的なレベルでは、それは無力感、空虚感、低い自尊心、羞恥心に由来するものである。それは彼らが求めたり、期待する支持が与えられない状況や、自己主張が不可能なために退避するような状況において、親しくなることを回避するという行動で表現されることがある[66]。自己愛の病理は軽症から重症まで連続的な広がりをもち、その自己表現形式も多様である。
鑑別
非精神病性のひきこもりは、等しく自我理想の問題を抱えている。対人恐怖症、不登校、退却神経症[67][68]、ひきこもりは疾病論的にはDSMにおける社交不安障害から回避性パーソナリティ障害までの線上に位置し、これらは精神力動的には自己愛の障害という幅広い領域を形成している[69][59]。自己愛的な傷つきに対して激しい怒りを持ち、また傷つくことを怖れ、空想的な理想と現実の自分との間で葛藤を抱えている人々である。表徴の背後にある、構造を見通す眼が求められる。
他のパーソナリティ障害
元々同一の概念から誕生した経緯もあり、自己愛性パーソナリティ障害と他のパーソナリティ障害は重複する部分も多い。特にパーソナリティ障害クラスターB群(境界性、反社会性、演技性)や、回避性パーソナリティ障害などとは重なりあう部分も多く、今後の研究によって、診断基準自体が大幅に変化することもあるだろう。
境界性パーソナリティ障害と自己愛性パーソナリティ障害の連続性については多くの指摘がなされている。精神病と神経症の境界領域にある疾患群の総称が境界例であり、神経症側に近いものが自己愛性パーソナリティ障害、他方の極に近いものが境界性パーソナリティ障害であるとマスターソン、リンズレーは指摘している[70]。またアドラーは、境界例患者は治療が進むと自己愛性パーソナリティ障害様の機能や能力を獲得することがあると述べている。ストロロウはこれら2つの障害に明確な境界を設けておらず、境界例患者でも自己を保てていれば自己愛性に近くなり、安定性を保てなくなると境界性様の症状が発現することを指摘している。現代精神医学においては、境界性パーソナリティ障害と自己愛性パーソナリティ障害を連続的なもの、すなわちスペクトラムとして捉える見方が大勢となっている[71][70]。
以下に他のパーソナリティ障害との鑑別点を示す。
- 妄想性パーソナリティ障害
- 妄想性パーソナリティ障害は、通常その疑い深さと社会的ひきこもりによって自己愛性パーソナリティ障害とは区別される。これらの特性が自己愛性パーソナリティ障害にも見られる場合、それは主に自己の不完全さや欠陥があらわになることへの怖れから生じるものである[57]。
- 境界性パーソナリティ障害
- 境界性パーソナリティ障害では、対人関係において支持への要求を顕著にあらわすが、自己愛性パーソナリティ障害の場合はそれよりも巧妙な手段を用いることが多い。自身を否定された時の過敏性は共通している。境界性パーソナリティ障害は情緒が極端で、対人関係の安定性が低いのに対し、自己愛性パーソナリティ障害はより安定し持続した関係を持つことができ、尊大であり自己評価も高い[72]。
- 演技性パーソナリティ障害
- 演技性パーソナリティ障害は感受性が強く、情緒に富み、誘惑的だが、自己愛性パーソナリティ障害は冷淡で、共感性に欠け、賞賛を求める。自己愛性パーソナリティ障害は社会的評価の低下を伴ってまで他者の関心をひこうとはしない[57]。
- 反社会性パーソナリティ障害
- 反社会性パーソナリティ障害と自己愛性パーソナリティ障害は人を利用し、表面的で、共感性を欠くという点で共通しているが、反社会性パーソナリティ障害は賞賛を必要としない。自己愛性パーソナリティ障害は衝動性・攻撃性を必ずしも有しておらず、社会的制裁を被るような行為障害や犯罪の既往は通常見られない[57]。
- 回避性パーソナリティ障害
- 回避性パーソナリティ障害は理想的(誇大的)自己と無能的自己に分裂し、等身大の自分が欠如しているという自己愛性パーソナリティ障害と同様の構造を有しているが[73]、自己愛性パーソナリティ障害における無能的自己が強力に否認・抑圧され、認識されていない状態とは異なり、回避性パーソナリティ障害はその両者が意識化されている。そのため激しい怒りや嫉妬の感情が表面的にはコントロールされており、より高次の機制が用いられている。