P2M

P2M(ピー・トゥ・エム)は統合的なプログラムとプロジェクトマネジメントの標準体系である。2001年に、一般に普及が始まったプロジェクトマネジメントの知識体系と先進的なプログラムマネジメントの概念とを統合した先端的なマネジメント標準をめざして、通商産業省(現・経済産業省)の指導の下に開発された[1]。P2Mは、イノベーションや事業変革などの事業戦略の具体化とその遂行のプロセスを示し、またこれに関係する高度マネジメント人材の育成に要する知識ガイドを提供している。

 

目次

 

プロジェクトマネジメントとプログラムマネジメント 

プロジェクトとプロジェクトマネジメント

プロジェクトとは、生産や販売等のように日々繰り返す業務(定常業務。オペレーションともいう)ではなく、「プロジェクトミッション」と呼ぶ所与の特定の使命を、特定の期限までに達成する価値創造事業である。特定の使命とは、ITシステムの開発や新市場の開拓などのプロジェクトに典型的に見られるように、同じ業務内容の繰り返しではない個別的(1回限りの)命題の達成を目的とする。プロジェクトはこの個別性と完了期限があるという有期性を基本的特徴とし、これに利用可能な資源や環境の制約が加わること、結果として実現・達成の不確実性を伴うことが一般的である[2]。プロジェクトマネジメントとは、所与のプロジェクトミッションを達成するために、臨時的な組織(有期的なチーム)を編成して、これを効果的・効率的に運用することにより、確実な使命達成を目的とする活動である[3]

プログラムとプログラムマネジメント

「プログラム」とは、広義には「一組または一連の計画」または「(それらの)計画の一覧表」を意味するが、プログラムマネジメントに関する場合、プログラムとは「(大きな目的達成のために)複数のプロジェクトを有機的に組み合わせた統合的活動」[4]の意味で、その統合的活動にはプロジェクトだけではなく、しばしば定常業務(オペレーション)が含まれる[5][6]。プログラムマネジメントとは、企業価値など組織全体の視点での価値向上のための戦略的な仕組み作りであり、「環境変化を意識して、複雑な使命に問題解決の道を開き、事業価値を向上する発想」である。その仕組み作りには、企画(スキーム)、システム構築、利用(サービス)の3種類のプロジェクトを効果的に組み合わせたプログラムの形態が必要とされる[7]。通常のプロジェクトマネジメントでは、当初に設定した目標(システム要求、納期、コストなど)の効率的実現を目的とするが、現代の市場や競争など著しく変化する外部環境の複雑性・不確実性により、単に個別プロジェクトの目標を達成しても期待した事業価値が確実に実現できるわけではない。1990年代は「日本産業の失われた10年」と言われたが、それはそれ以前と同様に様々な企業内プロジェクトが計画され実行されたが、グローバルな環境変化のため、それらを事業成果とは結びつけられなかったためである。プロジェクトマネジメントが「○○の開発」などのように具体的に目に見える成果を目標とするのに対し、プログラムマネジメントは「事業価値」という一段上位で抽象的な価値の創造・拡大を目的をとするもので、より上位の企業や事業目的から発する長期的で戦略的な活動である。それゆえ、一般にプロジェクトより複雑性と不確実性が高い。プログラムマネジメントでは、市場など外部環境の変化にも柔軟に対処するより広い視野と戦略的な知識やマネジメント能力が要求される[8]

プログラムの二つの類型[9][10]

プログラムは、一般的には前記のように定義され、この定義に対する統合的な活動プロセスとしてプログラムマネジメントの説明が行われる。しかし、現実には多様な種類のプログラムが存在する。P2Mではこの点に関し、プログラムの類型について考察し、それらをオペレーション型プログラムと戦略型プログラムの2類型に大別して説明している。オペレーション型とはプラント建設やITソリューションシステム開発のように、達成すべき目標や実行手法はかなりの程度明確であるが、規模が大きくその複雑性の低減のために多数のプロジェクトに分割して、それらをモジュール的に統合して実行する、すなわちプログラムとして取り扱う必要がある種類のものをいう。これらは多くの場合、その分野の各種の専門的事業者が統合した全体(プログラム)と各部(プロジェクト)を請負いまたは委託業務として受注して遂行する。プログラムは受注者の経営する事業(オペレーション)として実行されることが多いのでオペレーション型という。なお、これは大規模なシステム構築を目的とするケースが多いので大規模システム型ともいう。他方、それまでにない新しい事業を興す創出型、組織や事業の体制を一新する改革型のなどのプログラムは、組織の新たな事業戦略を考えるという最上流のプロセスが極めて重要となる。これらのプログラムを戦略型プログラムと呼ぶ。戦略やリスクのマネジメントに関して、戦略型プログラムでは企業レベルや事業レベルの新たな戦略やリスクが極めて重要であるが、オペレーション型ではより具体的にプログラムの実行のレベルの戦略・リスクについての検討が中心となることが多い。

P2Mのプロセスと基盤的知識