C4Iシステム Ⅰ【前半】C Quadruple I sy… 

 

階梯

システムの階梯は、取り扱う情報の精密度に応じて決定される。作戦指揮系システムにおいては、通常、戦略級システム・作戦級システム・戦術級システムの3系統、および直接の火力発揮を担当する交戦級システムとして整備される。これらは上下に連接され、各級部隊指揮官の戦闘行動を支援する。これに対し、情報資料系システムにおいては、あらゆる階梯においてあらゆる精度の情報が有用であることから、このような階梯区分はなされないことが多い。

民間の情報システムの古典的4階層。軍事用C4Iシステムも同様の階層構造になっている。

戦略級システム
戦争を指導する戦略の遂行を支援するシステムであり、民間における経営戦略支援システムExecutive information system, EIS)に相当する。作戦級システムと同様、扱われる情報は兵力調整(Force Coordination)精度のものであり、共通作戦状況図(COP)を生成することで、各軍種の高レベル指揮官、および文民指導者など、その国の軍隊の最高意思決定を支援する。代表的なものとしてはアメリカ軍の汎地球指揮統制システム(GCCS)がある。
作戦級システム
作戦を指導する作戦術の遂行を支援するシステムであり、民間における意思決定支援システム(Decision support systems, DSS)に相当する。戦略級システムと同様、扱われる情報は兵力調整精度のものであり、各軍種内・兵種間で共通作戦状況図(COP)を生成することで、作戦指揮官の意思決定を支援する。代表的なものとしてはアメリカ海軍の統合作戦戦術システム(JOTS)があり、これはのちに上記のGCCSシリーズ、および北大西洋条約機構MCCISに発展した。
戦術級システム
戦闘を指導する戦術の遂行を支援するシステムであり、民間における経営情報システム(Management Information Systems, MIS)に相当する。扱われる情報は兵力統制(Force Control)精度のものであり、各戦術単位において共通戦術状況図(CTP)を生成する。代表的なものとしてはアメリカ海軍の海軍戦術情報システム(NTDS)があり、これは北大西洋条約機構で標準となった。
交戦級システム
民間における業務処理システムTransaction processing system, TPS)に相当し、射撃指揮システム武器管制システムが該当する。扱われる情報は武器管制(Weapon Control)精度のものであり、個々の交戦当事者によって使用され、通常、他の交戦当事者との共通状況図生成は行なわれない。ただしアメリカ軍においては、共同交戦能力の導入によって単一統合航空状況図(SIAP)の生成が試みられている。海上自衛隊FCS-2など、各国において様々なものが開発・運用されている。

各国C4Iの現状

現在、多くの海軍が戦術級C4Iシステムを構築している。TAVITACSTACOSなどといった戦術情報処理装置は広く輸出に供され、リンク Yなど、輸出用の戦術データ・リンクの規格も開発された。また、空軍についても、近年では、管制能力の付与された早期警戒機と、先進的なアヴィオニクスを搭載した戦闘機の輸出が進められるにつれて、空中運用可能な戦術級C4Iシステムを構築する国が現れ始めた。また、国家戦略の一環として、地上固定型の高速データ回線が整備されるにつれて、これに伴って戦略級C4Iシステムの構築も進められている。

その一方で、作戦級C4Iシステムの整備は遅れている。その主な理由は、作戦地域において、C4Iシステムを賄うに足る通信回線を確保することが困難であることにある。作戦区域を頻繁に移動する司令部に対して高速回線を提供する最適解は衛星通信であることから、アメリカのように独自の軍事通信衛星を持っている国や、日本のように、軍用とは限られなくとも政府用の通信衛星を保有している国は、これによる衛星通信を使用できる。また、特に海軍分野においては、インマルサットなどの民間通信衛星を使用した独自システムを構築しているケースもあるが、依然として、短波での音声通話あるいは暗号電報のみに頼っている国も多い。

日本

詳細は「自衛隊のC4Iシステム」、「陸上自衛隊のC4Iシステム」、および「海上自衛隊のC4Iシステム」を参照

自衛隊のC4Iシステムはおおむね米軍に準じたものとなっており、戦略級システムとして中央指揮システム(CCS)、作戦級システムとしては、陸上自衛隊が陸自指揮システム、海上自衛隊が海上作戦部隊指揮管制支援システム(MOFシステム)、航空自衛隊が新自動警戒管制システム (JADGEシステム)を配備している。

また、戦術級システムとしては、海上自衛隊ではOYQシリーズおよびイージスシステム (AWS) 、陸上自衛隊では基幹連隊指揮統制システム (ReCs) が配備されている。

アメリカ

詳細は「:Category:アメリカ合衆国のC4Iシステム」、「GCCS」、および「アメリカ海軍のC4Iシステム」を参照

アメリカ軍は、世界の軍隊のなかでももっとも先進的なC4Iシステムを有している。

アメリカ軍のC4Iシステムは、現在、作戦指揮(OPS)系統と情報活動(INTEL)系統の2つの系統に整理されている。また、OPS系統については、その規模に応じて、戦略級、作戦級、戦術級の各システムが開発されているが、このうち、戦略級システムとしては、全軍でGCCSを採用している。また、作戦級システムとしても、GCCSとの互換性を確保したGCCS-A/M/AF/MCが使用されている。これら作戦級システムについては、イギリス日本などにも回線が提供されているが、これ以外の同盟国との共同作戦を考慮した作戦級C4Iシステムとして、CENTRIXS (Common Enterprise Regional Information Exchange System)も提供されている。

戦術級システムについては各軍に応じて開発されており、海軍ではイージスシステム (AWS) 、艦艇自衛システム (SSDS)が、陸軍では陸軍戦闘指揮システム (ABCS)が配備されている。

イギリス

詳細は「イギリス軍のC4Iシステム」および「イギリス海軍のC4Iシステム」を参照

イギリス軍は、全軍共通の戦略級C4IシステムとしてJOCS (Joint Operational Command System) を配備している。JOCSは、湾岸戦争の経験から開始されたJCSI(Joint Command System Initiative)計画のもとで開発され、1995年から1996年におこなわれたパイロット・フェーズを経て、1997年からのフェーズ2で実用段階に入った。2004年からは、より拡大されたフェーズ3が運用されている。

フランス

詳細は「フランス軍のC4Iシステム」および「SENIT」を参照

フランス海軍は、作戦級C4IシステムとしてAIDCOMERを配備している。これは、SPARCアーキテクチャによるコンピュータを使用している。

一方、戦術級C4Iシステムとしては、SENITシリーズの戦術情報処理装置とNATO標準のリンク 11によるシステムを構築している。また、フォルバン級駆逐艦などではリンク 16の導入が進んでいる。

ロシア

ロシアは、ソ連時代に構築した作戦級C4ISRシステムとしてのレゲンダ・システム西側を驚嘆させた。これは、小型原子炉を備えたレーダー衛星と太陽電池を備えた光学偵察衛星によって構成される全海洋監視システムであり、1978年より稼動を開始、1982年のフォークランド紛争においては、イギリス艦隊の行動をニア・リアルタイムで捕捉することに成功し、その真価を証明した。後継としてはリアーナ・システムが開発されており、2009年より運用が開始されている[1]

戦術級システムとしては、ウダロイ級駆逐艦で大規模に導入されたことが知られているほか、タルワー級フリゲートゲパルト型フリゲートでは、高度に商用オフザシェルフ化されたシステムが搭載されている。これらは、西側製の高性能なハードウェア上で、ロシア製のソフトウェアが動作している。

シンガポール

シンガポール軍は、作戦級C4IシステムとしてACCESSを配備している。これは、シンガポール台湾が共同で運用するST-1通信衛星による通信を使用する。

参考文献

  • 上田愛彦「C3I入門」『DEFENSE INFORMATION』サンケイ新聞社、1982年
  • 新治毅「指揮統制組織と戦争」防衛大学校・防衛学研究会編『軍事学入門』かや書房、1999年、pp.228-241.
  • 新治毅「C3Iシステム」『ブリタニカ国際大百家事典 第16巻』TBSブリタニカ、1994年、p.714.
  • Elliott, R. D. 1989. The integrated tactical data network. Signal 43 (7): 53-58.
  • Rice, M. A. and A. J. Sammes. 1989. Communications and information systems for battlefield command and control. London: Brassey's.
  • U.S. Defense Communications Agency. 1987. Joint tactical command, control, and communications agency handbook 8000. Joint Connectivity Handbook. Washington, D.C.: Government Printing Office.
  • Wagner, L. C. 1989. Modernizing the army's C3I. Signal 43 (5):29-34.

脚注

  1.  「レゲンダ」を継ぐもの

関連項目

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