ビットコイン(Bitcoin)Ⅳ【前右】 

 

法的問題

中央支配機関がないビットコインの信用は、ネットワーク参加者全体で相互に形成されている。価値下落を防ぐ努力をするような中央組織は存在しないというリスクがある一方で、使用者の意図に反して価値をコントロールすることもできない [34]。欧州銀行監督局(EBA)およびその他の情報提供元は、ビットコインユーザが返金を要求する権利やチャージバックにより保護されているとは言えないと警告している。犯罪者によるビットコインの利用は金融規制当局・立法機関・法執行機関・メディアの注意を惹きつけている。アメリカをはじめとする国々の当局者たちは、ビットコインを合法的な金融サービスを提供できるものと認識しているものの、闇ネット市場や盗難を中心として犯罪活動が行われている。ビットコインの盗難は可能であり実例があるものの[67]、オフラインでの防止策でこうした危険性は減らせる[68]

犯罪行為との関連性は利用人口拡大の妨げとなっており、流通動向は金融規制当局、立法機関、法執行機関の注目を集めており、実際に米連邦捜査局 (FBI)、米上院、ニューヨーク州により捜査された[69]。 FBIは「おそらく資金の移動や盗難手段としてサイバー犯罪者を惹きつける」と2012年の報告書で述べた[70]

2013年3月に米国の金融犯罪取締ネットワーク (FinCEN) は、「分散型仮想通貨」の規制指針を制定し、アメリカで造幣販売を行う「採掘者」は通貨販売事業者と指定され事業登録やその他の法的義務が課せられた。 2013年8月にはドイツ財務省は多国間決済の会計単位として使用可能であるとし、1年以上保持する場合はキャピタルゲイン税が課せられた[75]。 ニューヨーク国務省金融サービスは、富の移転や犯罪行為(特にシルクロード)を懸念し規制する目的で、権限上可能な規制 (BitLicense) や指針に関わる調査の実施を2013年後半に発表しニューヨーク市で公聴会を開催した[76]。 またアメリカ合衆国内国歳入庁は、積極的に独自基準の作成に取り組んでいると述べている[63]

同時に欧州銀行監督局 (EBA) は、使用状況を鑑みて微妙ながら承認を与えた。 以前はEUおよびEFTA地域の銀行による規定や認可が存在せず危険性が伴うことから公式に警告を発していたが、 各種規制の適応外であり不要であることを認め現状を認識し見方を変えた[77]

闇市場

報道機関は、ビットコインの人気を違法薬物の購入手段としての利用価値に拠るものと報じている[78]。 2013年にガーディアン紙は主にオンライン賭博や違法薬物購入に使われたと述べ[79]、 ハフィントン・ポストは「オンライン賭博が高割合を占める」と述べた[80]。 正規のトランザクションは、実際の薬物購入関与数より少ないと考えられており[81]、 全トランザクションの約半分は単一のオンラインゲームサイトで決済されている[82]。 2012年にカーネギーメロン大学と情報ネットワーク協会の研究で、 流通総額の4.5−9%が単一のオンライン市場、シルクロードの薬物購入目的であると推定した[83]。 取引の大半は実質的に投機目的であったが、当研究は商品やサービスに比べ薬物が遥かに大きな使用割合を占めると主張している[83]。 2013年にハフィントンポストは、身元確認をしないオンライン銃器商は決済に使用していると報じた[84]

資金洗浄

欧州銀行当局を含む各種の規制当局及び法執行機関は、資金洗浄用途を警戒している[85]。 米連邦捜査局 (FBI) による2012年度報告書では実現するおそれを認めたが、判明した事例が存在しなかったと述べている[70]。 資金洗浄の障害として取引履歴の公開性を挙げる意見もある[86]

無許可採掘

2011年6月にシマンテックは、ボットネットによる隠れた採掘によりハードウェアの消耗や電力量の増加やコンピュータ温度の上昇の可能性について警告した。 感染した場合、最新ビデオカードに組み込まれているGPU並列計算帯域が、マルウェアにより消費される[89]。 2011年8月中旬に採掘用ボットネットが再び検出され[90]、その後3ヶ月未満で採掘用トロイの木馬に感染したMac OS Xが発見された[91]

国家による利用制限

各国におけるビットコインの法的な扱い」も参照

日本では、2014年6月19日に自民党IT戦略特命委員が規制を見送る提言書を公表している[92]。提言では、ビットコインなどの仮想通貨を「価値を持つ電磁的記録(価値記録)」と定義している。

ロシアではビットコインの利用を禁止している[93]インドネシアでは、2014年2月6日にインドネシア中央銀行がビットコインは法定通貨ではないと声明した[94]。中華人民共和国では、2014年4月中旬に国有商業銀行大手がビットコインを扱う取引所の口座を閉鎖し始めた[95]

国家の無保証

Justice and law.svg この節は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。ご自身が現実に遭遇した事件については法律関連の専門家にご相談ください。免責事項もお読みください。

日本においては、ビットコインはドルやユーロなどと同様に強制通用力[96]がないため、民法402条第1項及び第2項における通貨に該当しない[97]電子マネーとは異なり資金決済に関する法律の対象とはならない。金融商品取引法上の有価証券にも該当しない[98]。法的責任を持った発行主体がなく払い戻しの約束が存在しないというビットコインの性質が、既存法律の想定外の存在としている。また、有体物でも知的財産でもないデジタルデータは、「」や「財物」や民法上の「動産」の範囲外と見なされる可能性があり、物権窃盗罪などの法律の対象とならない可能性がある[99]。また、ビットコインに関する契約は、有体物を前提としている典型契約には当たらない可能性があり、例えば、取引所が利用者のビットコインを保管するという寄託類似契約を含んだ契約も、その部分が典型契約の「寄託」とならずに非典型契約となる可能性がある[99]

なお、電磁的記録を有体物と見なさないとする説の一つである物理的管理可能説は、「利益窃盗は不可罰」というところから来ているため[100]、法律や契約によらず専有できるビットコインが有体物と見なされる可能性もありうる。また、有体物であるか否かを問わず、電磁的記録を対象とした刑法財産を対象とした法律の対象となる。この点については、前述の「マウントゴックス」の破綻に関連して、警視庁が電子計算機使用詐欺事件で本格捜査を始めている[101]

消費者庁所管法令の消費者安全法多数消費者財産被害事態の対象となるためには、多数の消費者が被害を受けていることだけでなく、不当な取引かつ「事業者が消費者に対して示す商品、役務、権利その他の取引の対象となるものの内容又は取引条件が実際のものと著しく異なるもの」かもしくは「政令で定めるもの」であることを要する。

2014年6月の自民党中間報告においては、ビットコインは「通貨」でもなく、金融商品取引法上の「有価証券」でもなく、出資法第2条1項に規定する「預り金」にも該当しないとされ、ビットコイン事業は、銀行法、資金決済法にも服さなかった。その後、マウントゴックス事件を受け、2016年5月25日、「情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法案」が成立し、資金決済法と犯罪収益移転防止法の改正にて対応がなされた。改正された資金決済法では、仮想通貨を「物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの」又は「不特定の者を相手方として相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの」と定義し(同法2条5項1号、2号)、登録を受けた仮装通貨交換業者以外が仮想通貨交換業を行うことは禁止された。その結果、海外のビットコイン事業者が国内登録無く、日本国内の者にビットコイン取引を勧誘することは禁止されることになった[104]

脚注