ABC予想 

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数学上の未解決問題
a + b = c

を満たす、互いに素な自然数の組 (abc) に対し、積 abc の互いに異なる素因数の積を d と表す。このとき、任意の ε > 0 に対して、

c > d1+ε

を満たす組 (abc) は高々有限個しか存在しないであろうか?

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abc予想(abcよそう、別名 Oesterlé–Masser 予想)は、1985年に Joseph Oesterlé と David Masser により提起された数論の予想である。これは多項式に関するメーソン・ストーサーズの定理整数における類似であり、互いに素でありかつ a + b = c を満たすような3つの自然数(この予想に呼び方を合わせると)a, b, c について述べている。

abc予想は、この予想から数々の興味深い結果が得られることから有名になった。数論における数多の有名な予想や定理が abc予想から直ちに導かれる。Goldfeld (1996) は、abc予想を「ディオファントス解析で最も重要な未解決問題」であるとしている。

2012年8月、京都大学数理解析研究所教授の望月新一は abc予想を証明したとする論文を発表した。望月は証明に用いた理論を宇宙際タイヒミュラー理論英語版)と呼んでおり、他にもスピロ予想 (Szpiro's conjecture) とヴォイタ予想 (Vojta's conjecture) の証明などを含む応用があるという[1][2][3]

 

目次

 

 

定式化

自然数 n に対して、n の互いに異なる素因数の積を n の根基 (radical) と呼び、rad n と書く。以下に例を挙げる。

  • p が素数ならば、rad(p) = p
  • rad(8) = rad(23) = 2
  • rad(45) = rad(32·5) = 3·5 = 15

自然数の組 (abc) で、a + b = ca < b で、a と b は互いに素であるものを abc-triple と呼ぶ。大抵の場合は c < rad (abc) が成り立つが、abc予想が主張するのはこれが成り立たない例外(例えば、a = 1, b = 8, c = 9, rad(abc) = 6 など)の方である。すなわち、任意の ε > 0 に対して、次を満たすような自然数の組 (abc) は高々有限個しか存在しないであろうと述べている。

{\displaystyle c>\operatorname {rad} (abc)^{1+\varepsilon }.}

これと同値な他の定式化(Oesterlé, Masser の abc予想)として次のものがある。すなわち、任意の ε > 0 に対してある K (ε) > 0 が存在し、全ての abc-triple (abc) について次が成り立つという。

{\displaystyle c<K(\varepsilon )\cdot \operatorname {rad} (abc)^{1+\varepsilon }}
K(ε) を ε に依らずに取ることはできない。)

三つ目の定式化は「」(quality) と呼ばれる概念を導入して表現する。 abc-triple (abc) に対して、質 q (abc) を次のように定義する。

{\displaystyle q(a,b,c)={\frac {\log c}{\log(\operatorname {rad} (abc))}}}

abc予想は、任意の ε > 0 に対して、 q (abc) > 1 + ε を満たす abc-triple (abc) は、高々有限個しか存在しないということを主張している。

現在、q(abc) > 1.6 を満たす abc-triple は後述の通り3組しか知られていない。q(abc) を 2 まで大きくすれば、そうした abc-triple は存在しないという予想もある。すなわち「全ての abc-triple (abc) に対して、c < rad(abc)2 を満たすであろう」という主張だが、こちらも肯定も否定もされていない。

得られる結果の例

abc予想を真だと仮定すると多数の系が得られる。その中には既に知られている結果もあれば(予想の提出後に予想とは独立に証明されたものもある)、部分的証明となるものもある。abc予想がもし早期に証明されていたなら、得られる系という意味での影響はもっと大きかったが、abc予想が成立した場合に解決される予想はまだ残っており、また数論の深い問題と数多くの結び付きがあるので、abc予想は依然として重要な問題であり続けている。

トゥエ=ジーゲル=ロスの定理
代数的数のディオファントス近似に関する定理。
フェルマーの最終定理
指数が十分大きい場合 (Granville & Tucker 2002)。定理自体はワイルズが証明した。
abc予想が K = 1 かつ ε = 1 で正しければ 、互いに素な自然数 ABC が A + B = C を満たすとき C < (rad ABC)2 が成り立つ。
互いに素な自然数 abc が an + bn = cn を満たすと仮定すると、anbncn は互いに素より、A = anB = bnC = cn を代入して
{\displaystyle c^{n}<(\operatorname {rad} \,a^{n}b^{n}c^{n})^{2}=(\operatorname {rad} \,abc)^{2}\leq (abc)^{2}<(c^{3})^{2}=c^{6}}
が成り立つ ({\displaystyle \operatorname {rad} \,x^{n}=\operatorname {rad} \,x}, {\displaystyle \operatorname {rad} x\leq x}, {\displaystyle abc<c\cdot c\cdot c})。
∴ cn < c6c > 1 より n < 6。n = 3, 4, 5 については古典的な証明があるので3以上の n について証明される (山崎 2010, p. 11)。
モーデル予想 (ファルティングスの定理)
(Elkies 1991)
エルデシュ=ウッズ予想英語版
但し有限個の反例を除く (Langevin 1993)。
ヴィーフェリッヒ素数英語版)が無限個存在すること
(Silverman 1988)。
弱い形のマーシャル・ホール予想英語版
平方数と立方数の間隔に関する予想 (Nitaj 1996)。
フェルマー=カタラン予想
フェルマーの最終定理の拡張であり、冪の和である冪を扱う (Pomerance 2008)。
ルジャンドル記号を用いて記述したディリクレのL関数 L(s, (-d/.)) がジーゲル零点英語版)を持たないこと
(正確には、このためには上で紹介している有理整数を扱うabc予想に加えて、代数体上の一様な abc予想を用いる。)(Granville & Stark 2000)。
Schinzel-Tijdeman theorem
P を少なくとも3つ以上の単根を持つ多項式とすると、P(1),P(2),P(3)... の中には高々有限個しか累乗数が存在しない、という定理(1976)[4]
ティーデマンの定理英語版)の一般化
{\displaystyle \scriptstyle y^{m}\;=\;x^{n}\,+\,k} が持つ解の個数について。ティーデマンの定理は {\displaystyle \scriptstyle k\;=\;1} である場合を述べている。また、{\displaystyle \scriptstyle Ay^{m}\;=\;Bx^{n}\,+\,k} が持つ解の個数に関するピライ予想 (1931)。
グランヴィル=ランジュバン予想英語版)と同値。
強く修正したスピロ予想と同値。
これは境界として {\displaystyle \scriptstyle \operatorname {rad} \,(abc)^{{\frac {6}{5}}+\epsilon }} を与える (Oesterlé 1988)。
任意の整数A について、{\displaystyle \scriptstyle n!\,+\,A\;=\;k^{2}} が有限個の解しか持たないこと(一般化されたブロカールの問題)(Dąbrowski 1996)。

コンピューティングによる成果

 

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