ゲーム理論 Ⅴ【前】情報構造・特性関数・ナッシュ均衡・サブ…
サブゲーム完全均衡
詳細は「サブゲーム完全均衡」を参照
上で定義されたナッシュ均衡は静学的な均衡概念であった。これに対して、動学的なゲームを考える際には上述のナッシュ均衡条件に加えて「信頼できない脅しやはったり」を排除するための条件が必要となる[† 19]。「信頼性のない脅し(英: incredible threat)」を排除するためには実際にプレイされることのないサブゲーム[† 20]においても各プレイヤーの戦略が正当化されている必要がある。このような発想からラインハルト・ゼルテン[109]は、動学的なゲームの戦略の組 s* が全てのサブゲームにおいてナッシュ均衡となっているとき、それをサブゲーム完全均衡(英: subgame perfect equilibrium)と定義した[110]。サブゲーム完全均衡は通常のナッシュ均衡が抱えるチェーンストア・パラドックス(英語版)のような問題点を解消しており、さらに計算が容易であるため、展開形ゲームの基本的な解概念として受け入れられている[111]。
展開形ゲーム後方の最小のサブゲームのナッシュ均衡を先に求め、そのサブゲームをそのナッシュ均衡から得られる利得の組に置き換えることによって得られるゲームを縮約ゲーム(英: truncated game)と呼ぶ。縮約ゲーム自体がそれ自身以外にサブゲームを持たないゲームになるまでこの操作を繰り返して得られるナッシュ均衡はサブゲーム完全均衡と一致することが知られている。このようなサブゲーム完全均衡の求め方は、後ろ向き帰納法(英: backward induction)と呼ばれる[112]。
ベイジアン均衡点
詳細は「ベイジアンゲーム」を参照
上記の解概念はいずれも完備情報ゲームにおけるそれであった。これらに対して、不完備情報ゲームを分析する際に用いられる解概念のひとつがベイジアン均衡点であり、ジョン・ハルサニ[113]によって創始された[114]。一般に不完備情報ゲームはベイジアンゲーム(英: Bayesian games)と呼ばれる完備情報不完全情報ゲームに変換することが可能である[† 21]。
ベイジアンゲームにおいては不完備情報である利得関数や戦略などを総称してタイプ(英: type)と呼び、{\displaystyle {\boldsymbol {c}}=(c_{1},...,c_{n})} などで表す[116]。プレイヤーは意思決定に際してベイジアン仮説(英: Bayesian hypothesis)に従うと仮定される[116]。すなわち、各プレイヤー{\displaystyle i} は自身のタイプ{\displaystyle c_{i}} を所与として主観的確率分布{\displaystyle p_{i}(c_{-i}|c_{i})} を持ち、この確率分布{\displaystyle p_{i}} の下で利得の期待値を最大化するように行動すると仮定される[† 22]。
このように定義されるベイジアンゲームのナッシュ均衡がベイジアン均衡点である[118]。すなわち、ベイジアン均衡点(英: Bayesian equilibrium point)とは
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- {\displaystyle \forall i,\forall c_{i},\forall \pi _{i},E[f_{i}(\pi ^{*}|c_{i})]\geq E[f_{i}(\pi _{i},\pi _{i}^{*}|c_{i})]}
を満たす戦略の組{\displaystyle \pi ^{*}=(\pi _{1}^{*},...,\pi _{n}^{*})}[119]。この定義は、ベイジアン均衡点{\displaystyle \pi ^{*}=(\pi _{1}^{*},...,\pi _{n}^{*})} ではどのプレイヤー{\displaystyle i} も自身がいかなるタイプ{\displaystyle c_{i}} であっても自分以外のプレイヤーの行動選択が均衡{\displaystyle \pi ^{*}} に従う限り、均衡から逸脱することによって条件付き期待利得を増加させることができないことを意味している[119]。
として定義される