税収

所得税」、「消費税」、「環境税」、「相続税」などが挙げられる。ゲッツ・W・ヴェルナーは、ベーシックインカムを導入するとともに所得税や法人税を廃止し、消費税に一本化すべきと主張している。BIの財源を消費税のみで賄おうとする場合、現行の消費税率8%を27.8%引き上げた35.8%にする必要がある。これは諸外国で高い税率を課しているハンガリー、アイスランド、スウェーデン各国それぞれの消費税率27%、25.5%、25%よりはるかに高く、やはり消費税のみで財源を賄うことは非現実的である。

消費税の引き上げだけでなく、他の税の増税も組み合わせて考えた場合を考える。例えば、相続税の税率 を100%に引き上げた場合を考える。国税庁によると2011年の相続税の課税価格は10兆7,299億円であり、税額(税収)は現在1兆2,520億円である。税率を100%にした場合すなわち、課税価格と税額がイコールとなった状態では、当然税額は10兆7,299億円である。この額と消費税増税分でBIの財源を賄うとすると、先述の計算方法のように試算すると消費税率は5%から約26%引き上げた31%で済む。しかしながらこの税率の設定は現行の税制においては非現実的である。なぜなら、相続税率だけをむやみに上昇させる場合、生前の贈与いわゆる節税が何らかの形で横行することが予想されるからである。すなわち、相続税率を引き上げ、税収を増加させるには贈与税率も同時に引き上げる必要がある。しかし贈与税収の上昇を図ろうとする場合、贈与の実態をすべて把握できるとは限らないため、安定的な税収増は望めない。その際監視を強化する手段もあるが、それに伴い監視のコストがかさむこととなり、行政コストを削減するというBI本来の存在意義に反する。そのため、相続税をBIの主たる財源とするのは非現実的であり望ましくない。

所得税率を現行より引き上げた場合、壮年層から税収は得られても退職した高齢者からは税収は得られない。日本が少子高齢化の国家である以上、安定した税収を目指す場合、高齢者から税収を得られにくい所得税の税率引き上げは望ましくない。なぜなら税収増の効果が薄いうえに、今後も少子高齢化が進み、所得税による税収確保がますます難しくなるからである。

次に法人税の場合を考える。法人税をBIの財源と考える場合、経営者たちの合意を得る必要があるが、BIが労働意欲の減退を招き、労働供給が減少する可能性がある以上、経営者たちにとってBI導入にはデメリットが伴う。したがって、財源までをも経営側に要求するのは非現実的である。仮に要求する場合は、社会保険の法人負担部分を免除するなど、経営側への配慮が必須となるであろう。ただ、経営側の理解を得られたとしても、法人税率を引き上げることは望ましくない。なぜなら、日本は他国に比べ、法人税率が既に高い水準にある からである。その状態で税率を更に引き上げると、日本の企業が拠点を海外に移し、産業の空洞化に陥るため、経済成長に負の影響を及ぼしてしまう。またよく言われているように、法人税は、景気変動の影響を受けるため、安定した税収が望めない。やはり法人税をBIの財源として考えるのは、様々な理由で困難を伴う。

ベーシックインカムの導入は納税者番号制度(あるいはSocial Security number)を前提としており、従来の家計単位での所得申告方式ではなく個人単位での包括的な所得把握が前提となる。税務上、あるいは福祉給付の観点では、データ処理が一元化され非常に扱いやすく制度の簡素化をもたらす。この際に税制の方の簡素化も同時に唱えられることがある。

消費税(売上税)については課税の逆進性が最大の論点であり、所得税や相続税については最高税率にいたるまでの税率の高さの略奪性が論点となる。一般に消費税は年間所得額の少ない中低額所得者に高額所得者と同じ税率を求めるため担税応分が多くなる。一方で年間所得については所得税の段階で高額所得者との間ですでに社会的再分配や社会的公正の議論が達成されているとも言える。

高額所得者の場合、消費性向が低所得者より低いとされ、日本の2002年の総務省「家計調査」にもとづく勤労者世帯の所得階級別消費税負担率と所得税負担率の計測によれば、所得がもっとも低い分類階層においては所得の2.8%にあたる消費税を負担しており、これは最高所得分類階層のそれが2.1%であったことから逆進性の存在が確認できる。所得税については負担率が4%に対し最高所得階層では12%であり累進的である。もっともこの種の議論は一時点での所得を念頭にしていることが多く、少子化時代における税負担の衡平性を考えるさいにはとくに生涯所得に対する負担の公平性に気を配る必要があり、引退して勤労所得がない人の担税能力が勤労世帯より貧しいとは限らず、消費税を社会保障財源として考えるさいには逆進性を一時点の所得水準で計測することには問題があるともいえる[25]

資産への課税を考える。その手段として例えば貯蓄税 の創設を考える。課税対象は個人の貯蓄すなわち個人金融資産である。日本銀行の資料によると2013年6月末の個人金融資産残高は1590兆円である。これに税率1%の貯蓄税を課税した場合、15.9兆円である。この分と先ほどの相続税増税分、消費税増税分をBIの財源にあてるとすると、消費税率は25%で済む。また、貯蓄税率を2%にした場合は消費税率19%、3%にした場合は12%でそれぞれ賄える。そして、貯蓄税率を4%にした場合は消費税率5%と、現行のままでよい。すなわちBIの財源への消費税増税による拠出が不要となる。ただ、これはあくまで表面的な計算であり、貯蓄税を課税する場合、課税対象である個人金融資産の額の減少が予想されるために、上記のような計算は必ずしも成り立たない。もっとも、貯蓄税の目的の一つとして貯蓄の減少すなわち消費の拡大による景気の刺激があるため、個人金融資産の減少はむしろ歓迎すべきことであるとも言える。

富裕層の貯蓄投資にかかわる別途収入については収入の問題であり消費税の議論とは無関係である。また不動産取得税や株式・債券などからの配当や賃料など、あるいは売買差益に対する課税により補正されている。日本の場合、譲渡益税や配当課税については総合課税方式が本則(所得扱いとして累進税率が適用される)であるが、対象により20%の分離課税も可能であり、また上場株式(持分量による)や公募株式投信などの場合さらに軽減税率が適用されている。高額受贈者相続人には贈与税相続税が課せられる。

資産格差の是正を目的に相続・贈与税の極端な強化がしばしば提言されるが[26]、現在の社会経済体制を前提とすれば、公平性のあくなき貫徹というだけではなく他の税との差はあれども効率性その他の要因を配慮する余地がある。 とくに自営業の再生産が維持できるインセンティブは必要である[27]。社会主義では遺贈が法的に存在していないかのような誤解があるが旧ソビエト、ベトナム、中国でも相続権は存在しており、土地所有形態や課税体系と税率の問題である。とくに中国では2012年現在でも相続税(遺産税)は存在しない。課税についてはさまざまな節税策や租税回避脱税行為などが不公正としてしばしば論じられる。