投資家対国家の紛争解決
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投資家対国家の紛争解決(とうしかたいこっかのふんそうかいけつ)とは、投資受入国の協定違反によって投資家[† 1]が受けた損害を、金銭等により賠償する手続を定めた条項である[1]。英語では Investor-State Dispute Settlement, ISDS と言われ、国際的な投資関連協定でこれを規定する条項は「ISDS条項」または「ISD条項」と呼ばれる。国内法を援用した締結済条約の不履行は慣習国際法(国家責任条文32条に反映[2])および条約法に関するウィーン条約27条で認められておらず[3][4]、適用法規は国際法であることが多いため[2]、国内法に基づいた司法的判断と異なる結果となる場合がある。
目次
- 1歴史
- 2概要
- 3仲裁事例
- 4ISDS条項に基づく請求の例
- 5議論
- 6各国の対応
- 7脚注
歴史
投資協定が結ばれ始めた1960年代に既に協定に盛り込まれていたが、仲裁の利用が著しく増加したのは1990年代後半からである[3]。 1996年に米国・カナダ・メキシコ間の北米自由貿易協定(NAFTA)に基づく仲裁であるEthyl事件においてカナダ政府が米国企業に和解金を支払ったことが注目を集めたこと、1995年からのOECD多国間投資協定交渉において問題としてとりあげられたこと等により、仲裁への関心が高まり、1990年代後半から付託件数が急増したためとされる[1]。
概要
NAFTAのロゴ
伝統的に、国際法上の紛争解決手続は国家間の紛争との関連で問題になるものであり、私人たる外国人投資家は投資先の国で違法に損害を被っても、救済のためには本国による外交的保護を待たねばならなかった。この制度の下では、外国投資家は、当該外国で紛争が生じた場合、まずはその国の国内裁定機関や裁判所においてその解決を図る必要がある(国内救済完了の原則)[4][5][6]。だが、現時点で2000を超える二国間投資協定(英語版)(BIT: Bilateral Investment Treaty)[7]が存在しているところ、このような投資協定や、経済連携協定により、外国投資家は当該協定違反を理由とした国家に対する請求を直接的に行うことが可能とされている[8]。
国内救済手続との関係については、無規定型、二者択一型、国内救済手続放棄型、平行手続許容型、国内救済先行型がある[9]。 外交保護制度とは違い、投資仲裁には基本的に国内救済完了原則はない[9]。
投資家は、投資協定当事国を相手方として、国際連合国際商取引法委員会(UNICITRAL)仲裁規則又は投資紛争解決国際センター(英語版)(ICSID)に係る追加的な制度についての規則に基づき、仲裁を申し立てることができる。
William S. Dodge.は、先進国間で締結される投資協定について考えるにあたっては、先進国・途上国間の場合とは異なる考慮が必要としている[† 2]。北米自由貿易協定(NAFTA)第11章は、先進国間において上記のような請求を認めた初のISDS条項であったため、アメリカ合衆国とカナダ双方にとって混乱を引き起こす原因となっている[10]。
仲裁事例
環境保護に偽装した規制
S.D.Myers事件
カナダのPCB廃棄物を米国で処理していたアメリカ系企業がカナダ政府の廃棄物輸出禁止措置によって事業停止に至った損害賠償を求めて提訴した[11] [12]。 仲裁廷は、当事国に高い環境保護を設定する権利がある一方で環境保護に偽装した規制は認められない旨の判断基準を示したうえで、国内産業の保護を目的とした規制だったと認めるカナダ政府高官の発言やカナダ国内裁判所の判断があったこと[14]、アメリカの処理業者の方が運搬距離が近いために事故や汚染の危険性がより少なかったこと、カナダ国内の処理業者がカナダ国内企業1社しかなくアメリカの処理業者と比べて競争力で劣っていたこと[11]等を理由として、カナダ政府の規制が環境保護政策に偽装したカナダ国内のPCB廃棄物処理事業者の保護政策であると認定し、カナダ政府に賠償を命じた。
尚、内国民待遇(第1102条)の解釈は協定の法的文脈を考慮する必要があり、保護主義的な意図は重要であるが必ずしも決定的ではなく、措置の実際の影響が必要要件であるとし[12]、公正衡平待遇(第1105条)の解釈は国際法に従った待遇と解釈すべきであるとした[3]。
Metalclad事件
アメリカ法人Metalclad社は、既にメキシコ連邦政府およびSan Luis Potosí州から廃棄物処理施設を建設する許可を得ていたメキシコ法人COTERIN社を買収した[15][3]。 しかし、Guadalcazar市民が建設反対運動を起こしたため、市は建設許可を市から得ていないとして建設中止命令を出した[3]。 これによって操業停止に追い込まれたMetalclad社はICSIDに提訴した[15]。 仲裁廷は、連邦政府による環境影響調査で環境に影響する可能性が低く適切な技術もって施設を建設すれば埋立場に適していると評価されていたこと[11][14]、メキシコの国内法では地方政府に本件の許認可権がないにもかかわらず地方政府が国内法に違反して連邦政府の許可を取り消したこと[11][14]、連邦政府が許可した際に地方政府に許認可権がないことを会社に説明したにも関わらず連邦政府が地方政府の違法行為を事実上黙認したこと[11][14]等を理由として、メキシコ行政府の対応に透明性が欠如し[15]、国際法に違反していると認定して[13]、NAFTA第1105条(公正衡平待遇義務)と第1110条(間接収用)の違反を認定し、メキシコ政府に賠償を命じた[15]。 ただし、Metalclad社の賠償請求額のうちの一部は投資財産との因果関係がないとして減額された[15]。