トリアージ【緊急優先大量判断】Ⅱ【中半】トリアージ・タッグ…
歴史
元々はフランス軍の衛生隊が始めた、野戦病院でのシステムである。 その始祖はドミニク・ジャン・ラレィ(フランス語版)で、フランス革命後の数々の戦争で、戦傷者を身分に関係なく医学的必要性だけで選別した。それ以前の戦場医療は、患者の身分や社会的必要性で選別され、重傷度に関係なく身分の高い貴族から優先して治療されていた。フランス革命により民主主義が誕生した事で、身分に関係の無い、純粋に医学的必要性のみによる治療の選別が始まった。
フランス革命からナポレオン戦争の時代になるとトリアージの意味は変化し、軍事的必要性で選別する方式へと変質した。重傷者は見捨てられ、兵士として戦線復帰が可能な者に医療資源を投入して早期の戦力回復を図るようになった。社会的、軍事的必要性の高い人物に医療資源を集中して、軍事、社会システム全体の維持を図る全体主義による差別型トリアージである。クリミア戦争ではトリアージで重傷者と判定された患者が悲惨な扱いを受け、満足な治療を受けられずに不衛生な重傷者用野戦病院で次々と死ぬ事態になった。これを救済したのがナイチンゲールである。
医療の倫理では非道とされるトリアージは、民主主義思想の強い軍隊では導入を忌避されることもあり、アメリカ軍は第一次世界大戦から第二次世界大戦までトリアージに否定的だった。トリアージは傷病者が医療資源を超えてしまう野戦病院で行われており、本来は医療資源が豊富にあれば行う必要が無い。このため、医療資源が豊富だったアメリカ軍ではトリアージの導入は遅く、初めて組織的導入が行われたのは朝鮮戦争の時である。
現代の救急医療でのトリアージは、野戦病院のシステムが民間医療に逆輸入されたものである。
日本における歴史
日本では1888年(明治21年)に森鴎外がヨーロッパからトリアージのシステムを持ち帰っていた。しかし、1889年(明治22年)に陸軍衛生教程が編纂された時に、日本ではトリアージの導入を行わなかった。森鴎外や石黒忠直ら当時の軍医のトップたちは、トリアージが赤十字国際条約で禁止されている「差別的治療」に当たるとして日本では導入しないことにした。
しかし、野戦病院のシステムはトリアージを行うことを前提に構築されているためトリアージ無しではシステムが機能しなくなるという問題があった。そのため、日本では「分類はするが優先順位はつけない」という欧米のトリアージを変形させた物になった。
その後、優先順位無しでは不便も多いことから、1923年(大正12年)に陸軍軍医総監の石黒大介はトリアージを行わない建前で、軍医関係者にだけ順位が分かるような隠語的な優先順位をつける方式へ変化させた。このシステムは満州事変で初めて大々的に行われた。なお、日本軍では「在隊治癒可能な微傷者」「自分で歩ける徒歩可能者」「担架で搬送しなければならない重傷者」「助かる見込みの無い死者」に分類していた。
日本式のトリアージは第二次世界大戦(太平洋戦争)後に日本軍の解体と共に失われた。
1994年(平成6年)の中華航空機墜落事故の際、消防・医師会などで様式が異なり、現場が混乱したことを教訓に、1996年(平成8年)に現在の標準様式が定められたという[17]。
脚注
フランス語発音: [tʁijaʒ] トゥリヤージュ注釈
^ 英語発音: [ˈtriːɑːʒ] トゥリ(ー)アージュ、[triːˈɑːʒ] トゥリ(ー)アージュ
出典
- ^ a b “災害医療用語集”. 広域災害救急医療情報センター. 2013年5月29日閲覧。
- ^ a b c d “Urgent and emergency care services in England”. 国民保健サービス. 2015年12月1日閲覧。
- ^ “Out-of-hours services”. 2015年12月1日閲覧。
- ^ a b “トリアージ”. 原子力規制委員会. 2013年5月29日閲覧。
- ^ “南海トラフ地震対策で最終報告 内閣府、避難所は弱者優先”. 共同通信社. 47NEWS. (2013年5月28日) 2013年5月29日閲覧。
- ^ “南海トラフ、避難所利用に優先順位…最終報告”. 読売新聞. (2013年5月28日)2013年5月29日閲覧。
- ^ Mehta S (April 2006). “Disaster and mass casualty management in a hospital: How well are we prepared?”. J Postgrad Med 52 (2).
- ^ 英: simple triage and rapid treatment
- ^ http://ops.umin.ac.jp/ops/jijou/060303triage.html
- ^ Slater RR (January 1970). “Triage nurse in the emergency department”. Am J Nurs (Lippincott Williams &) 70 (1): 127–9. doi:10.2307/3421031. JSTOR 3421031. PMID 5196143.
- ^ a b c トリアージハンドブック(トリアージ研修テキスト) (PDF) - 東京都福祉保健局
- ^ 色覚の本質 - 日本眼科医会 p.5-6、13
- ^ トリアージタグ改善へ…救急医学会が検討 社会 YOMIURI ONLINE(読売新聞)2013年11月2日
- ^ アメリカ合衆国(ニューヨーク)在外公館医務官情報日本国外務省ホームページ2012年6月10日閲覧
- ^ 医療法人健育会西伊豆病院・仲田和正「イスラエル国防軍医療部隊(要約)」2011年
- ^ NIKKANEN H. E.; POUGES C.; JACOBS L. M. (1998). “Emergency medicine in France”. Annals of Emergency Medicine 31 (1): 116–120. doi:10.1016/S0196-0644(98)70293-8. PMID 9437354.
- ^ 災害時のトリアージ…妊産婦ら識別体制 必要 : 知りたい! : yomiDr./ヨミドクター(読売新聞) 2013年12月13日