国造
(国造の一覧から転送)
国造(くに の みやつこ・こくぞう・こくそう)は、古代日本の行政機構において地方を治める官職のこと。また、その官職に就いた人のこと。軍事権、裁判権などを持つその地方の支配者であったが、大化の改新以降は主に祭祀を司る世襲制の名誉職となった。
訓の「みやつこ」とは「御奴(ミヤツコ)」または「御家つ子」の意味とされる。
目次
1概要
2国造本紀考
3一覧
3.1諸国造一覧
4大化以後も存続した国造
4.1主な新国造
4.1.1社家として系譜を伝えた国造家
5脚注
6参考文献
7関連項目
概要
大和朝廷の行政区分の1つである国の長を意味し、この国の範囲は令制国整備前の行政区分であるため、はっきりしない。地域の豪族が支配した領域が国として扱われたと考えられる。また定員も1人とは限らず、1つの国に複数の国造がいる場合もあったとされる。朝廷への忠誠度が高い県主とは違い、国主(くにぬし)と言われた有力な豪族が朝廷に帰順して国造に任命され、臣・連・君・公・直などの姓(カバネ)が贈られ、軍事権、裁判権など広い範囲で自治権を認められた。
国造が大王から与えられた姓(カバネ)は、
- 畿内及び周辺諸国の直姓国造
- 吉備や出雲の臣姓国造
- 山陽道の一部と南海道の凡直(おおしのあたい)姓国造
- 東海・東山の御名代の伴造(とものみやつこ)姓国造
- 東の毛野(けぬ)、西の筑紫・豊・肥の君姓国造
など、さまざまで、一律に行われた編成ではないと分かる。
国造は、東国の国造のように部民や屯倉の管理なども行ったり、出雲の国造のように神祇を祀り、祭祀で領内を統治するなどしたり、紀国造などのように外交に従事したりしたことなどが分かる。また、筑紫の国造のように北九州を勢力下に入れ、朝廷に反抗する者もいた。
国造の下に県(あがた)があり、かなり整備された国県制があったとする見解もある。しかし、律令制以前の地方支配の実態は、国造制の実態や中小豪族との関係など不明な点が多い。
大化の改新以降は主に祭祀を司る世襲制の名誉職になり、従来の国造の職務は郡司が担当した。また、国造が治めた国は整理・統合、あるいは分割され、令制国に置き換えられた。国造には国造田などが支給され、郡司などを兼任する者もいた。その後、8世紀後半以降には国造はなくなっていった。
9世紀成立の「国造本紀」(『先代旧事本紀』巻10)には、全国135の国造の設置時期と任命された者らの記録がある。
国造本紀考
文久元年(1861年)の栗田寛著作の『国造本紀考』に、「国造本紀」の来歴や偽書の指摘、国造各々の詳細な解説がなされ、「国造本紀」は史料たりえる書物ではなく、普及もしなかったと指摘がある。
一覧
諸国造一覧
国造が存在したのは律令制以前であるが、便宜上9世紀以降の令制国の領域で分類[1]。
令制国 | 国造名 | 初代国造 (任命時期) |
氏族(括弧内はカバネ) | 支配領域 | 備考 | |
---|---|---|---|---|---|---|
表記 | 読み | |||||
畿内 | ||||||
大和国 | 倭国造 (大倭国造) |
やまと | 椎根津彦 (神武天皇期) |
倭氏(直) | 大和国中部 | |
闘鶏国造 | つげ | (記載なし) | 都祁氏(直) | 大和国東部 | ||
葛城国造 | かずらぎ | 剣根命 (神武天皇期) |
葛城氏(直) | 大和国西部 | ||
山城国 | 山城国造 | やましろ | 阿多根命 (神武天皇期) |
山背氏(山代氏)(直) | 山城国 | |
山背国造 | 曾能振命 (成務天皇期) |
|||||
河内国 | 凡河内国造 | おおしこうち おおしかわち |
彦己曾保理命 (神武天皇期) |
凡河内氏(直) | 河内国 | |
和泉国 | ||||||
摂津国 | ||||||
東海道 | ||||||
伊賀国 | 伊賀国造 | いが | 武伊賀都別命 (成務天皇期) |
阿保氏(君) | 伊賀国 | |
伊勢国 | 伊勢国造 | いせ | 天日鷲命 (神武天皇期) |
伊勢氏(直) | 伊勢国 | |
志摩国 | 島津国造 | しまづ | 出雲笠夜命 (成務天皇期) |
島氏(直) | 志摩国 | |
尾張国 | 尾張国造 | おわり | 小止與命[2](小止与命) (成務天皇期) |
尾張氏(連) | 尾張国 | |
三河国 | 三河国造 | みかわ | 知波夜命 (成務天皇期) |
三河国西部 | ||
穂国造 | ほ | 菟上足尼 (雄略天皇期) |
三河国東部 | |||
遠江国 | 遠淡海国造 | とおつおうみ | 印岐美命 (成務天皇期) |
遠江国西部 | ||
久努国造 | くの | 印幡足尼 (仲哀天皇期) |
久努氏(直) | 遠江国東部 | ||
素賀国造 | すが そが |
美志印命 (神武天皇期) |
遠江国北部 | |||
駿河国 | 廬原国造 | いおはら | 意加部彦命 (成務天皇期) |
庵原氏(君) | 駿河国西部 | |
珠流河国造 | するが | 片堅石命 (成務天皇期) |
金刺氏(舎人) | 駿河国東部 | ||
伊豆国 | 伊豆国造 | いず | 若建命 (神功皇后期) |
伊豆氏(君) のち日下部氏(直) |
伊豆国 | |
甲斐国 | 甲斐国造 | かい | 鹽海足尼 (景行天皇期) |
甲斐国 | ||
相模国 | 師長国造 (磯長国造) |
しなが | 意富鷲意彌命 (成務天皇期) |
相模国西部 | ||
相武国造 (武相国造) |
さがむ | 弟武彦命 (成務天皇期) |
漆部氏(直) | 相模国東部 | ||
武蔵国 | 知々夫国造 | ちちぶ | 知知夫彦命 (崇神天皇期) |
武蔵国北西部 | ||
无邪志国造 | むさし | 兄多毛比命 (成務天皇期) |
武蔵国(秩父除く) | |||
胸刺国造 | むなさし | 伊狭知直 (時期記載なし) |
||||
安房国 | 阿波国造 | あわ | 大伴直大瀧 (成務天皇期) |
大伴氏(直) | 安房国西部 | |
長狭国造 | ながさ | (記載なし) | 安房国東部 | |||
上総国 | 須恵国造 | すえ | 大布日意彌命 (成務天皇期) |
末氏(使主) | 上総国南部 | |
馬来田国造 | うまくた まくた |
深河意彌命 (成務天皇期) |
上総国中西部 | |||
上海上国造 | かみつうなかみ | 忍立化多比命 (成務天皇期) |
檜前氏(舎人直) | 上総国中西部 | ||
菊麻国造 | くくま きくま |
大鹿國直 (成務天皇期) |
上総国北西部 | |||
伊甚国造 | いじむ いじみ |
伊己侶止直 (成務天皇期) |
上総国東部 | |||
武社国造 | むさ | 彦忍人命 (成務天皇期) |
牟邪氏(臣) | 上総国北東部 | ||
下総国 | 千葉国造 | ちは | 大私部氏(直) | 下総国南部 | ||
印波国造 | いんば | 伊都許利命 (応神天皇期) |
丈部氏(直) | 下総国中部 | ||
下海上国造 | しもつうなかみ | 久都伎直 (応神天皇期) |
他田日奉部氏(直) | 下総国東部 | ||
常陸国 | 筑波国造 | つくば | 阿閉色命 (成務天皇期) |
常陸国南部 | ||
新治国造 | にいはり | 比奈羅布命 (成務天皇期) |
新治氏(直) | 常陸国西部 | ||
茨城国造 | いばらき | 筑紫刀禰 (応神天皇期) |
壬生氏(連) | 常陸国中部 | ||
仲国造 | なか | 建借馬命 (成務天皇期) |
壬生氏(直) | 常陸国東部 | ||
久自国造 | くじ | 船瀬足尼 (成務天皇期) |
常陸国北中部 | |||
高国造 | たか | 彌佐比命 (成務天皇期) |
岩城氏(直) | 常陸国北部 | ||
道口岐閉国造 | みちのくちのきへ | 宇佐比刀禰 (応神天皇期) |
常陸国北端 | |||
東山道 | ||||||
近江国 | 淡海国造 (近淡海国造) |
おうみ | 大陀牟夜別 (成務天皇期) |
近江国西部 | ||
安国造 (近淡海安国造) (淡海安国造) |
やす | (記載なし) | 安氏(直) | 近江国南東部 | ||
額田国造 | ぬかた | 大直侶宇命 (成務天皇期) |
近江国北東部 | |||
美濃国 | 三野前国造 | みののさき みののみちのくち |
八瓜命 (開化天皇期) |
三野氏(美濃氏)(直) | 美濃国中西部 | |
本巣国造 | もとす | (記載なし) | 三野本巣氏(直) | 美濃国中西部 | ||
牟義都国造 | むげつ | (記載なし) | 牟義都氏(君) | 美濃国北中部 | ||
三野後国造 | みののしり | 臣賀夫良命 (成務天皇期) |
三野後氏(直) | 美濃国東部 | ||
飛騨国 | 斐陀国造 | ひだ | 大八埼命 (成務天皇期) |
斐陀氏(国造) | 飛騨国 | |
信濃国 | 科野国造 | しなの | 建五百建命 (崇神天皇期) |
科野氏(直) のち他田氏(舎人) |
信濃国 | |
上野国 | 上毛野国造 | かみつけの | 彦狭島命 (時期記載なし) |
上毛野氏(君) | 上野国 | |
下野国 | 下毛野国造 | しもみつけの | 奈良別 (仁徳天皇期) |
下毛野氏(君) | 下野国(那須除く) | |
那須国造 | なす | 大臣命 (景行天皇期) |
那須氏(直) | 下野国北部 | ||
陸奥国 | 白河国造 | しらかわ | 鹽伊乃己自直 (成務天皇期) |
のち那須氏(直)が郡領 | 陸奥国南部 (福島県域南西部) |
|
石背国造 | いわせ | 建彌依米命 (成務天皇期) |
陸奥国南部 (福島県域中西部) |
|||
阿尺国造 | あさか | 比止禰命 (成務天皇期) |
丈部氏(直) | 陸奥国南部 (福島県域中西部) |
安積国造神社社家 | |
道奥菊多国造 | みちのおくのきくた | 屋主乃禰[3](屋主刀禰) (応神天皇期) |
陸奥国南部 (福島県域南東部) |
|||
石城国造 | いわき | 建許呂命 (成務天皇期) |
石城氏(直) | 陸奥国南部 (福島県域中東部) |
||
染羽国造 | しめは しねは |
足彦命 (成務天皇期) |
陸奥国南部 (福島県域中東部) |
|||
信夫国造 | しのぶ | 久麻直 (成務天皇期) |
陸奥国南部 (福島県域北西部) |
|||
浮田国造 | うきた | 賀我別王 (成務天皇期) |
陸奥国南部 (福島県域北東部) |
|||
伊久国造 | いく | 豊島命 (成務天皇期) |
陸奥国中部 | |||
思国造 (思太か) |
おもし | 志久麻彦 (成務天皇期) |
陸奥国北部 | |||
出羽国 | ||||||