”熊本地震 (2016年) Ⅵ【中】液状化現象・交通機関 

 

バス

高速道路・一般道に多大な被害が出たため、高速バス・特急バス路線については、熊本・大分と各地方を結ぶ路線だけでなく、大分道や九州道を経由する多くの路線に運休が相次いだ。多くの路線が1 - 2週間で暫定ダイヤで運行再開したものの、未だ減便や迂回ルート経由(一部バス停通過)の路線が多く、再開の目途が立っていない路線(快速たかもり号)もある。熊本県内の路線バスでは現在も産交バス、熊本バス、熊本都市バスで一部路線・区間の運休が続いている。

福岡 - 熊本間の「ひのくに号」は4月21日から全便を益城熊本空港IC経由とした暫定ダイヤ(通常1日100往復以上ところを14往復)で運行再開[164]。25日からは28往復に増便し、6時 - 19時の間は30分間隔になる[165]。5月1日からは63往復に増便[166]

福岡 - 大分間の「とよのくに号」は4月19日午後から運行再開[167]。福岡 - 宮崎間の「フェニックス号」は4月22日から大分道・東九州道経由で運行を再開[168]。ただし、本数は28往復から10往復に減便となった[169]。28日からは九州道経由に戻り[170]、5月9日には通常ダイヤに復旧する予定[171]。福岡 - 鹿児島間の「桜島号」は4月22日から夜行便のみ運行再開[169]。27日から昼行便も(通常23往復を8往復で)運行再開し[170]、5月1日からは通常ダイヤに復旧した[171]

鉄道

本震から3日後の博多駅の新幹線到着案内。博多 - 鹿児島中央間では運転を見合わせていた(2016年4月19日撮影)

赤水駅付近で脱線した豊肥本線列車

4月14日の地震直後には、西日本旅客鉄道(JR西日本)では山陽新幹線小倉 - 博多間、九州旅客鉄道(JR九州)では九州新幹線と在来線全線で運転を見合わせた[172]。その後、順次運転を再開し、翌4月15日夕方の時点での運転見合わせ区間は、九州新幹線全線、鹿児島本線宇土 - 八代間、豊肥本線熊本 - 宮地間、肥薩線の八代 - 吉松[173]となった。

九州新幹線では、14日の前震で下りの800系6両編成の回送列車が熊本駅から熊本総合車両所へ向かう途中に脱線した。この回送列車は地震発生時に時速80kmで走行中で、運転士が強い揺れを感じて非常ブレーキをかけたが全車両が脱線した[175]。脱線現場が熊本駅から南に約1.3kmの本線上であったため[175]、九州新幹線は全線で運転を見合わせとなり[173]、山陽新幹線から九州新幹線へ直通する「みずほ」「さくら」は博多 - 鹿児島中央間で運転を見合わせとなった[176]。地震による新幹線の脱線は、新潟県中越地震東日本大震災によるものに続き3回目である。4月20日に新水俣 - 鹿児島中央間で運転を再開したが、新水俣駅以北では防音壁の落下が約80か所、高架橋の柱に亀裂が入っているのが25か所以上で見つかった[177]。4月23日昼前に博多 - 熊本間で運転を再開[178]。4月27日には午前中に残る熊本と新水俣の区間で試験運転を行い、安全が確認されたため同日14時より熊本 - 新水俣間が開通[179]。これにより九州新幹線は、13日ぶりに博多 - 鹿児島中央間の全線が開通した[180]。翌28日には、山陽新幹線との直通運転も再開。なお一部区間で徐行運転することなどから、多くの便が熊本駅までとなり、鹿児島中央駅までの便は一部に限られていたが[181]、7月4日から通常本数の運転に戻った。熊本 - 新八代間の一部で徐行運転を継続していたが、2017年3月4日から通常ダイヤでの運転に戻った。

4月16日の本震により、豊肥本線でも赤水駅を出発した回送列車が脱線したが負傷者はなかった[182]。また赤水駅 - 立野駅間で土砂崩れも発生し、線路内に土砂が流入した[183]。熊本県内の在来線では鹿児島本線や豊肥本線、肥薩線、三角線くま川鉄道湯前線南阿蘇鉄道高森線肥薩おれんじ鉄道線が運休した[184]。このうち南阿蘇鉄道は、土砂崩れによる線路流出などにより特に深刻な被害を受けており、4月29日には復旧に1年以上かかる見通しを明らかにしている。なお、被害が軽度であった中松―高森間は同年7月31日に運転再開を果たした。[185]

その後の復旧工事の進捗にともない、4月18日に鹿児島本線のうち熊本駅以北の区間について運転を再開した[186]。4月21日には残った熊本駅 - 八代駅間についても運転を再開し[187]、18日までに運転を再開した肥薩おれんじ鉄道の区間[188]を含む形ではあるが、在来線経由で福岡 - 熊本 - 鹿児島間がつながった。三角線は4月23日に、肥薩線の八代 - 吉松間も4月24日に運転を再開し[189]、この時点で在来線は豊肥本線と第三セクターの南阿蘇鉄道を除いて、すべて復旧した。なお、ななつ星in九州は5月7日に運行を再開し、当面は豊肥本線を経由しないルートに変更[190]。豊肥本線は、肥後大津駅 - 熊本駅間で4月19日から運転再開[191]、豊後竹田駅 - 宮地駅間で4月22日バス代行輸送を開始し、4月28日には豊後竹田駅 - 豊後荻駅間での運行を再開し[194]、5月9日からは肥後大津駅 - 宮地駅間でも平日朝晩に限りバス代行輸送を開始し、立野瀬田の両駅は経由しないものの、全線が代行輸送を含め乗り継げるようになった[195][196]。その後、7月9日には阿蘇駅 - 豊後荻駅間での運行を再開した。

熊本電鉄は4月16日・17日は全線で運転を見合わせ、4月18日に藤崎宮前駅 - 御代志駅間で運転を再開した。北熊本駅 - 上熊本駅間は池田駅構内でのホーム一部倒壊で4月23日まで運転を見合わせていた[199]

熊本市内の路面電車(熊本市交通局)は4月16日 - 4月18日は全線で運休。19日始発から神水・市民病院前停留場以西での折り返し運転で運行再開。引き続き神水・市民病院前停留場 - 健軍町停留場間は運転を見合わせていたが復旧工事が完了し、20日の始発から全線運行(ただし徐行運転)を再開した。また、福岡県の私鉄・西日本鉄道(西鉄)でも、16日の本震では、天神大牟田線と貝塚線の運転を一時見合わせ。同日午前の復旧まで両路線で合わせて138本が運休。利用客の約2万4800人に影響が出た[204]

航空

熊本空港(熊本県益城町)では、ターミナルビルが4月16日未明の地震によって天井板の一部が落下するなどして[205]損傷したため[206]、同日から18日まで閉鎖された。

翌4月19日午前にターミナルビルの運用が一部再開され、初めは到着便のみ、15時以降は出発便も運航されて[206]、同日中に25便が発着した[207]。同日現在、ビル内で利用できる箇所や搭乗口は限られている[206]

4月19日現在、同空港は24日7時30分までの予定で航空保安業務を提供中で、救援業務などに従事する航空機を中心に利用されている[206]

ライフライン

水道

18日午後7時現在、熊本市で断水していた32万戸のうち26万戸へ試験給水が開始された[208]

また、熊本市内では水道水が濁り飲用できない地域もある[209]

電気

九州電力によれば、15日13時の時点で益城町や嘉島町、熊本市南区などで1万1700戸が停電していた[210]。16日9時の時点では、同日未明の地震により熊本県、大分県、宮崎県で合計16万9600戸が停電していた[211]。停電の影響により、携帯電話各社は携帯電話充電のために電源車を派遣した[212]

九州電力の川内原子力発電所は地震の影響はなく通常運転を行っており[172]、鹿児島県によると九電から異常なしとの連絡を14日21時44分に受けた[213]

ガス[編集]

西部ガスによると、熊本県エリアのガス供給を担う熊本工場の安全に問題はないとした[214]が、熊本地区供給エリアのガス供給停止戸数は、益城町や熊本市などを中心に1123戸、ガス漏れの通報は66件(15日午前11時の時点)[215][216]

教育機関

地震発生の翌日の15日、熊本県内にある公私立の幼稚園や小中高校などのうち計342校が休校の措置をとり、短縮授業とする措置をとった学校は29校(文部科学省調べ)[217]。また、文部科学省の調べで、県内の公立高校8校と特別支援学校2校の計10校に天井やガラスが破損するなどの被害があったこともわかった。大学でも熊本大学[218]熊本県立大学[219]熊本学園大学[220]などで休講となった。

東海大学は、熊本県内に在所する熊本キャンパス・阿蘇キャンパスでの授業などについて4月17日から24日まで休講とする措置を執り[221]、その後、4月19日に熊本・阿蘇キャンパスの休講期間について、熊本は5月15日まで[222]、阿蘇は6月30日までそれぞれ延長することを決定した[223]

また、東海大学阿蘇キャンパス付近に所在する学生アパートが4月16日の本震で倒壊し、同大学に在籍する農学部生12名が一時生き埋めになり[224]、16日午前9時には全員が救助されたものの[225]、その後2名の死亡が確認された[182]。また南阿蘇では別の学生アパートでも地震による倒壊により、東海大学農学部学生1名が死亡しており[226]、東海大学関係では3名が犠牲となった。

4月19日実施の全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)は問題冊子を配送できなかったため、熊本県の全小中学校と宮崎県と大分県の一部の学校でテスト実施が中止となった[227]

経済活動

一連の地震による被害地域の生産活動に与えた影響は深刻で、余震が続くため工場内に及んだ地震の被害を正確に把握するに至らず生産再開がままならない状況に追い込まれている企業が多数に及んでおり、自動車部品などの製造分野、食料品、飲料水メーカーなどが4月16日 - 19日時点で操業を停止したままになっている。

これらの現地生産活動への影響により、被害地域周辺に複数の画像用半導体製造工場があったソニーのラインは一部および全面停止、九州唯一の精油所であるJXエネルギー大分精油所の出荷停止および道路事情による輸送遅延から被害地域への燃料遅配など影響が波及している[228]

2016年4月18日の東京株式市場では熊本地震による生産停滞の懸念が強まり、日経平均株価は大きな値下がりとなり終値572円安となった[230]

政府は4月21日、月例経済報告にてこれらの被害地域における生産活動の停滞について言及した[231]