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2015.7.16
中国の株価暴落が「バブル崩壊」ではない理由
広木隆・マネックス証券チーフ・ストラテジスト
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ひろき・たかし
マネックス証券 チーフ・ストラテジスト。上智大学外国語学部卒業。国内銀行系投資顧問、外資系運用会社、ヘッジファンドなどでファンドマネージャーなどを歴任。長期かつ幅 広い運用の経験と知識に基づいた多角的な分析に強みがある。2010年より現職。青山学院大学大学院(MBA)非常勤講師。テレビ東京「ニュースモーニングサテ ライト」、ラジオNIKKEI等、メディアへの出演も多数。マネックス証券ウェブサイトにて、最新ストラテジーレポートが閲覧可能。著書に、『ストラテジストにさよならを 21世紀の株式投資論』(ゲーテビジネス新書)、『9割の負け組から脱出する投資の思考法』(ダイヤモンド社)、『勝てるROE投資術』(日本経済新聞出版社)など
「止血」のため、中国証券監督管理委員会(証監会、CSRC)が空売りや企業のトップによる自社株売りを制限しながら、IPOの延期も実施した。「輸血」の面では、21社の証券会社による株式の買い支えに加え、中国人民銀行が中国証券金融を通じて市場の流動性を提供する同時に、政府系ファンドである中央匯金や大手保険会社が株式市場でETFを持続的に購入した。
また、人民日報をはじめ、新華社や各証券新聞社などのメディアが度重ねて「ファンダメンタルズは不変」などの楽観的な論調を拡散したり、公安部が違法な悪意の空売りに対する調査を行うと報じられたことなどが、投資家心理の改善につながった面はあるだろう。
これまでの対策はあくまで「対症療法」
4-6月期のGDPから読み取れる真実
ただし、これまでの対策はあくまで「対症療法」に過ぎない。一部は解除されたものの、売買停止の銘柄は本稿執筆時点(7月15日)で全体の25%残っており、「売りたくても売れないから、株価が下がらないだけ」という状態が続いている。今後「止血帯」を外そうとしたときに、市場がどう反応するかはわからない。市場の歴史をひもとけば、古今東西、人為的な措置で相場が下げ止まった試しはない。再度、中国株式市場が動揺するリスクは大いにあると思っておいたほうが良い。しかし私は、最悪期は過ぎたと考える。
1年前と比べて株価が2.5倍にハネ上がった上海市場で相場上昇に加速度がつき始めたのは、3500ポイントを越えたあたりからだった。5000ポイントを上回る高値を付けた直後から崩れた株価が下げ止まったのはちょうど3500ポイント割れの水準だ。
株価チャートを見ると、200日移動平均の水準で下げ止まりきれいに切り返している。確かに、あまりに鋭角的な下げだったために動揺が広がったが、こうして振り返ると、過熱した相場が「往って来い」となっただけであり、通常の株価調整と自律反発の動きに見える。
暴落が起きたのは、個人投資家による信用バブルを中国当局が封じ込めようとしたことが、直接の原因だったと言われている。引き金を引いたのは当局かもしれないが、それはあくまでもきっかけに過ぎず、今回の市場の急激な変調は「株価が上がり過ぎたから下がっただけ」という、市場原理に基づいた調整だったと私は思っている。当面は不安定ながらも落ち着きどころを探る展開が続くだろう。
こうしたなか、まさに本稿執筆時の今日、7月15日に、中国国家統計局は2015年4-6月期の国内総生産(GDP)は実質で前年同期比7.0%増と発表した。市場予想の平均は6.9%増と6年ぶりに7%割れが予想されていたが、その予想を上回り、1-3月期の7.0%から横ばいという結果だ。この数字をどう受け取ったらよいだろう。